JAVADA情報マガジン3月号 フロントライン-キャリア開発の最前線-

2017年3月号

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40年間の職業経験からみた企業・組織を強くする職場づくりのポイント
第4回:組織育成からみた職場づくりのポイントのまとめ

キャリアコンサルタント、産業カウンセラー、研修・セミナー講師、大学キャリアコンサルタント
  心理相談員、CSCインストラクター
   河野 佳正 氏 《プロフィール》 

はじめに

今回が最終回となります。第1回・第2回では、素材としての私の【職業経歴】試行錯誤した経験)を第1回"前半16年(メンバー格・新卒入社から転職まで)"第2回"後半24年(管理職格・転職から定年退職まで)"の2つに分け、年齢・職務・職位の時系列に沿って「企業・組織を強くする職場づくりのポイント」となる目標達成、人材育成・能力開発、組織育成の視点で振り返りお伝えしました。

第2回の後半『Ⅱ.部下を持ったライン管理職(営業管理職)としての経験(主に日常マネジメント)』では、私の営業管理職としての経験から、「企業・組織を強くする職場づくりのポイント」となる業績達成・人材育成・組織育成を大枠でまとめ、併せて人材マネジメントのイメージ図もお伝えしました。

前回【第3回:人材育成・能力開発からみた職場づくりのポイントのまとめ】では、部下を持ったライン営業管理職としてキャリア開発・目標管理・営業プロセスの視点でメンバーの人材育成・能力開発をお伝えしました。

今回は【第4回:組織育成からみた職場づくりのポイントのまとめ】として、前回と同様に、部下を持ったライン営業管理職の視点での「企業・組織を強くする職場づくりのポイント」を、組織育成の面からまとめてお伝えします。
 尚、今回が最終回のため、長文になったことをご容赦ください。

私のライン営業管理職としての事例は2000(平成12)年前後頃から現在に近い時点(2009(平成21)年)までの期間です。人事制度が見直され目標管理・キャリア開発・セカンドキャリア研修(50歳代)・定年再雇用なども導入され、主力商品は単体の複写機から現在の複合機に、営業スタイルもソリューション営業へ変化した期間です。

したがって、私の企業・職業経験・留意していた点をお伝えする上での組織育成などについては、代用として私が腹落ちした現在の市販図書を参考にして引用・改変し、経験を加味してまとめたことをご了承ください(参考図書;備考A、備考B) 。

今回の「組織育成からみた職場づくりのポイントのまとめ」は、年間スケジュールに沿って、日常マネジメントの中で留意したポイントの実務経験をお伝えします。

あらためて以下に人材マネジメントのイメージを図示します。

 

 

Ⅰ.働きがいのある・働きやすい職場作りの枠組みとして留意した点

全体の枠組みとして留意した点は以下の4点です。

(PM型の組織)目標・課題を共有し、メンバーを知り、メンバーのリーダーシップを引き出し、マネジメント+リーダーシップを発揮して、人間関係に配慮して、チームを通して目標達成する。

(WIN-WIN型の関係構築)メンバー全員がコミュニケーションを通して、互いに自己主張し・理解し、互いに気づき・納得し、協調と思いやりを持ち、交流・連携・協働しながら、意欲を持って職務を遂行し、自律・自立して目標達成し成長する。

(プロフェッショナル人材の育成)目標達成に向けて実務を通して自律・自立して、専門能力・基礎能力・概念化力を身につけ高め、自分の型を造り・破り・また造りを繰り返しスパイラルアップでき、変化を先取りできるプロフェッショナル人材を育成する。

意欲を大切にしながら空回りしないよう、まず実務・型を身につけて業績を出し、その上で意欲を実務の中で発揮していくことが大切を理解してもらえるよう働きかける。

(委任型への移行と援助と指示のバランス)
基本は委任型で接し、メンバーの主体性・自律・自立、気づき・納得感を大切にし、任す・見守る・相談を受ける・助言する・援助する・同行する・OJT・フィードバックする、で進める。

但しメンバーの職位・職務遂行能力・経験年数・年齢・気持ちや組織の成熟状況によっては対応を変え支援する。

 

Ⅱ.年間スケジュール

年間スケジュールは、上期・下期に大きく分けられ、更に四半期(Q)、月度に分けられ組織目標の進捗が管理され、時には修正される。

年度初め(上期初めでもある)は、年間の全社・営業事業部の方針・重点目標(業績目標)・重点施策、組織変更・人事異動・昇進・昇格もありメンバー構成も一部変わる。あわせて上期・下期の内の上半期の業績目標・重点施策も提示される。現場マネジメントの上では特に重要な時期になる。

下期初めは、年間目標と上期実績のGAPなどを踏まえた追加施策が提示されるが、グループ内の課題解消を加味しながら、概ね上期のマネジメントをベースとして進めた。

定期的な全員打合せは、半期初め・半期末・四半期末・月度末を基本とした。この時に全員参加の懇親会も行った。緊急の場合を除き全員打合わせは極力減らした。

 

Ⅲ.年度初め・上半期初めでの留意点 (半期計画策定と組織内役割分担)

年間スケジュールの項で述べたように、年度初めは、年間の全社・営業事業部の方針・重点目標(業績目標)・重点施策、組織変更・人事異動・昇進・昇格もありメンバー構成も一部変わる。

それにともない組織内の担当市場・役割も一部変えた。年間・半期の計画を策定し業績目標をメンバー個人単位に配分する。

現場マネジメントの上では特に重要な時期です。特に留意した点は以下の6点です。

 

① 担当エリア・顧客企業の再配分の留意点

前年までの各メンバーの担当エリア・顧客企業を見直し再配分し、既存メンバー・転出者・転入者間の引き継ぎを速やかに進めた。担当エリア・顧客企業再配分で留意した点は次の4点です。

①‐1.全体としての顧客満足度の維持・向上と業績向上の可能性。

①‐2.全体・個人業績の出しやすさとメンバー間のバランスと納得感(職位・新たな期待・前年までの個人業績など)。

①‐3.新規・継続顧客数のバランス・顧客の難易度、エリアの難易度、メンバー個々の当該顧客との親和度、当該顧客からの業績見込み度、担当年数(マンネリ感)など。

①‐4.各メンバーともそれぞれにチャレンジャブルな企業群も混ぜた。

 

② 組織内連携の留意点①

②-1.基本は管理職が構成メンバー全員を見た。

②-2.相互連携が進むように歳の近い先輩営業がメンターとなり若年営業の実務的な面倒見を委ね、交流・連携・協働の下地とした。

②-3.転勤せずに残ったメンバーの中の最上位職位メンバーに日常運営の補佐役を委ねた。不在の折の判断を伴わない組織内の情報伝達・内部運営もあわせて委ねた。

 

③ 組織内連携の留意点②(転入者の受入)

③-1.転入者は職位に関係なく、まず業績と市場・職場、営業職以外からの配転者は加えて職務に馴染むことに専念してもらった。

③-2.年代の近いメンバーをメンターとした。

③-3.日常の中で既存メンバーからの認知を待った。

③-4.転入者と既存メンバーとの知見・経験・能力の相互交流を期待した。

③-5.もちろん転入者の気持ちへの配慮は行った。

 

④ 組織間連携の留意点(グループ外)

④-1.組織間連携は事前に管理職が連結ピンとして上下(縦)・左右(横)と連携しておく。

④-2.メンバーが実務で左右の組織間連携が必要な場合は単独で連携にあたらせた。

④-3.上との連携・重要度の高いテーマでの左右との連携は管理職とメンバーとで連携した。

 

⑤ 半期計画策定(目標管理、キャリア開発見直し計画、市場攻略計画、組織運営)

⑤-1.メンバーは期初の引き継ぎ・初期訪問を業績目論みしながら進め、それぞれ担当市場・顧客群の環境をふまえ半期の市場攻略計画(行動計画)を策定。および個人目標を配分・すり合わせ。

⑤-2.グループKick-OFFミーティングで全社・営業事業部・部門の方針・重点目標(業績目標)・重点施策を受けたグループ方針・目標を再伝達。

メンバー各自が個人目標達成に向けた半期の市場攻略計画(行動計画)を発表し相互助言する。

およびグループ共通課題の確認と対策案を討議し、難易度に応じ以後のテーマリーダーを選定。

⑤-3.メンバーは業績目標達成に向けた半期の目標管理計画(業績目標・重点行動計画)・市場攻略計画、年間キャリア開発計画を修正し、個別面談にてすり合わせ・調整・合意を進めた。

 

⑥ グループ内の関係性の見極めと成長

年度初めは全社の方針・方向性・目標・メンバー転出入・役割の変更など色々な変化があり、特にチーム内の関係性は変化する。

また日常のちょっとした変化によりチーム内の関係性は変化する。

これらの変化を見極め、混乱には特に留意した。

 

Ⅳ.営業職場での日常のコミュニケーション・ファシリテーションの留意点

営業プロセスは、前回【第3回:人材育成・能力開発からみた職場づくりのポイントのまとめ】の『Ⅲ.日常の営業プロセスに沿った人材育成』でお伝えしました。

営業職は日中メンバー全員が顔を揃えることは少ない。業績目標・担当市場など個人レベルに配分された個人管理になる。

メンバーは客先訪問・社内連携部門との打ち合わせで日中はほぼ離席。管理職もメンバー同行などで離席が多い。

営業活動は、攻略計画(仮説)を策定し、仮説提案を想定し、顧客企業や自社内連携部門の相手との一対一、一対複数、複数対複数のコミュニケーションやファシリテーションを通して相手の真意・本音を聴き、提案を実体化し、合意形成を積み重ねていく試行錯誤の繰り返し、と言っても過言ではない。

コミュニケーションは、顧客企業や自社内の相手の『枠組み』『捉え方』と自分との間に違いがあることは当たり前。誤解やズレ、行き違いも当たり前。さらに『枠組み』『捉え方』はその時々の状態で微妙に変化する。

以上を踏まえたメンバー同士、管理職・メンバー間、全員で情報共有・相互理解を進めるためにコミュニケーションで留意した点は、以下の5点です。

① 社内外を問わず『周りは全てお客様』の意識・姿勢、聴く・視る姿勢で接する。

② メンバー全員が互いに日々の挨拶、声かけをする。

③ 全員が互いに事前相談・途中経過連絡・結果報告を忘れない。

④ コミュニケーションは、どんな相手でも『枠組み』『捉え方』に自分との間で違いがあることは当たり前。誤解やズレ、行き違いも当たり前と留意する。
さらに『枠組み』『捉え方』はその時その時の状態で微妙に変化すると留意する。

④-1.コミュニケーションは簡潔に、『相手目線で、まず遮らずに話しを聴き・視て・質問し、批判・否定せずに、言語・非言語・感情・気持ちを確認し、伝え・伝わったかを確認し、互いの真意・本音を確認し、尊重し・調整し・合意する』で進める。

アサーティブなコミュニケーションで進める。互いにIメッセージ(私はこう思う・私の主張)で主張し・傾聴し、協調・譲歩し、違いを認め、共感・合意し、自他尊重(私はOK、あなたもOK)で進める。但し半歩下がった営業の意識・姿勢で進める。

④-2.会話によるコミュニケーション、文書を挟んだコミュニケーションの二通りを使い分ける。

④-3.会話によるコミュニケーションは、簡潔に、結論(What)、何故(Why)、方法・進め方(How to)、納期(When)、誰が・誰と誰が(who)、どこで(Where)および付加情報(Appendix)の順に短文と箇条書き調で進める。

④-4.文書を挟んだコミュニケーション(例えば顧客向け提案書・社内外の打合せ用資料)も同様で、簡潔に、本文文書一枚および付加情報文書(Appendix)の構成を基本とし、それを挟んで会話によるコミュニケーションを進める。

節目・合意を求める場合は、前回までの内容を文書化し、行き違いを防止し進める。 会話によるコミュニケーションが未成熟の場合は、文書化させ整理させて進める。

⑤ ファシリテーションは、アイデアを出し合うファシリテーション、結論を出すファシリテーションの二通りを使い分ける。

ファシリテータはテーマの目的・難易度・緊急度・重要度、育成を考慮して委ねる。

⑤-1.アイデアを出し合うファシリテーションは、ブレーンストーミング、ザックバランにワイガヤ調で議論を楽しむ。

多様な意見・アイデア・思いつきを引き出す。直感力を高める。量を重視する。メンバーの相互理解・関係作りを進める。

論理性を求めず、批判せず、結論を求めず、多様な意見に気づく。互いを知り、メンバーシップ(成員性・仲間感)、パートナーシップ(対等な関係性・信頼感)を引き出す。

⑤-2.結論を出すファシリテーションは、合意形成・集団意思決定し協働につなげる。

課題解決的コミュニケーションで、お互いに論理的思考、収束的思考で進める。

全員参加・同等の立場で話し合い、お互いがリーダーシップ・積極的なフォロワーシップ(*)を発揮し議論し、気づき・納得し・譲歩し・共感し・合意し、結論を出し協働する。

(*):リーダーの後にただついていくのではなく、積極的に支援・意見具申・協働する。

 

Ⅴ.営業現場での日常マネジメントの留意点

管理職として更に留意した点は、上記『Ⅳ.営業職場での日常のコミュニケーション・ファシリテーションの留意点』を全員で共有したことに加えて、以下の6点です。

① 目標達成と人材育成の視点でメンバー個々へのかかわり方に偏りが生じるが、公平・不公平感、納得感に留意し接した。

② メンバー、メンバー間、メンバー・管理職間の日々の会話と行動を観察し、変化に気づき、声かけして、人間関係・困り事・欲求・モチベーション・健康管理への対応に留意した。

③ メンバーからの相談・連絡・報告にいつでも聴く姿勢を示し、メンバーと同一目線で話して、受け入れて、助言し、合意し対応した。

④ 集中同行DAYなどで業務上の意見交換やOJTを実施するとともに、同行の道すがら雑談や自分の趣味や家庭の話もして、メンバーの同様の話を引き出し、メンバーをより広く深く知ることに留意した。

⑤ ほめ方で留意した点は、良い点を見逃さず・必ず忘れないで・真に値するときに・具体的内容を・早目に・皆の前で・心の底からほめる。

⑥ 注意の与え方で留意した点は、注意したい項目の発生動機や背景を確かめて・注意の必要性を確かめて・自分が冷静なときに・場所を選んで・自分自身も一緒に責任を負うような謙虚な態度で・失望させないように・前を向く励みになるように話す。

 

Ⅵ.四半期末・半期末・年度末のフィードバック面談の留意点

① フィードバック面談は行動面を中心に、メンバーの成長と自己効力感に留意した。

② メンバーの主体性・自律・自立、気づき・納得感、気持ち・意欲を大切して、良い面を引き出しながら、お互いの評価のGAPを認めながら率直に行った。

③ 四半期末・半期末は目標管理シートベースで行う。年度末はあわせてキャリア開発シートによるキャリア面談も同様に行った。

 

Ⅶ.部下を持ったライン管理職(営業管理職)としての経験(主に日常マネジメント)の全般的な振り返り

私のライン営業管理職としての経験は2000(平成12)年前後頃から現在に近い時点(2009(平成21)年)までの期間でした。人事制度は見直され、営業スタイルも変化した期間でした。

期間中には担当市場やメンバー構成もいくたびか変わり、うまくいったこと・いかなかったこと、メンバーや回りから気づかされたこと・助けられたこともあり、それらを踏まえて試行錯誤とスパイラルアップを繰り返しました。

節目の時に立ち戻ったのが、1990(平成2)年代の管理職研修時の参考図書『管理者の基礎テキスト』(備考A)と、研修終了時に作成した『私の目指す姿』の図でした。

一歩下がって見つめ直し、変えるもの・変えないものを考え取捨し行動し歩んできたと思います。

 

Ⅷ.終わりに

最終回にあたり、読者の皆様、投稿の機会をいただいた主催者様、今まで私にかかわっていただいた組織・上司・同僚・メンバーの皆様、知人・友人の皆様、家族に感謝の意を表します。

4回シリーズの投稿が読者の皆様の一助になれば幸いです。ありがとうございました。

 

 


  • 備考A:管理職研修時からの参考図書(現在市販されているかは不明);
    • 『管理者の基礎テキスト』松田 憲二 著 初版1991年12月5日 日本能率協会マネジメントセンター
  • 備考B:今回参照した現在市販されている参考図書;
    • リーダーシップの名著を読む 日本経済新聞社(編)  日経文庫
    • プロフェッショナルの働き方 高橋 俊介  PHPビジネス新書
    • マネジャーのための人材育成スキル 大久保 幸夫  日経文庫
    • 会社を強くする人材育成戦略 大久保 幸夫  日経文庫
    • ビジュアル『ビジネス・フレームワーク』 堀 公俊  日経文庫
    • フレームワークの失敗学 堀 公俊  PHPビジネス新書
    • 図解)自分をきちんと<伝える>技術 平木 典子  PHP研究所
    • 職場の人間関係づくりトレーニング 星野 欣生  金子書房
    • 入門 組織開発(活き活きと働ける職場をつくる) 中村 和彦  光文社新書
    • 一次評価者のための人事評価入門 河合 克彦 石橋 薫 共著  日本経済新聞出版社
    • チームマネジメント 古川 久敬  日経文庫
    • モチベーション入門 田尾 雅夫  日経文庫
    • メンタルヘルス入門 島 悟  日経文庫
    • ストレスマネジメント入門 島 悟・佐藤 恵美  日経文庫

 

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