JAVADA情報マガジン1月号 フロントライン-キャリア開発の最前線-

2017年1月号

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40年間の職業経験からみた企業・組織を強くする職場づくりのポイント
第2回:職業経験後半24年、管理職格からみた職場づくりのポイント
 ~転職から定年まで~営業本部スタッフ・営業・営業管理職の時代~

キャリアコンサルタント、産業カウンセラー、研修・セミナー講師、大学キャリアコンサルタント
  心理相談員、CSCインストラクター
   河野 佳正 氏 《プロフィール》 

はじめに

第1回は【職業経験前半16年、メンバー格からみた職場づくりのポイント】というテーマで書かせていただき、メンバー格としての職場づくりのポイントをお伝え致しました。

今回は素材としての私の【職業経歴】の"後半"を(複写機事業(現在は複合機)が主力の外資系事務機器製造・販売企業(法人顧客向け)への転職から定年退職まで)、やはり年齢・職務・職位(管理職格)の時系列に沿って、以下の2つに分けて「企業・組織を強くする職場づくりのポイント」となる目標達成、人材育成・能力開発、組織育成の視点で振り返りました。

 

『Ⅰ.ラインスタッフ管理職格(営業本部および営業事業部スタッフ)としてライン組織を横串で通して事業貢献した経験』

『Ⅱ.部下を持ったライン管理職(営業管理職)としての経験(主に日常マネジメント)』

前回同様、まず先に結論を Ⅰ.Ⅱ.のそれぞれの出だしで、【職業経歴】の"後半"を振り返り感じた職場づくりのポイントとして記載します。続いてそのポイントに行き着いた個々の実務経験を時系列で記載します。

今回は上記の本文テーマが2つで少し長文になります。ご一読いただきご理解たまわれば幸いです。

また、今回の本文テーマから少しはずれますが、別文にて以下の2つをサブテーマとしてまとめました。次回以降の人材育成・能力開発、組織育成のまとめの際に必要と思います。こちらもご一読いただきご理解たまわれば幸いです。

①1985(昭和60)年9月、36歳時の転職経験は【~転職・キャリアチェンジ~】。

②2009(平成21)年6月、60歳定年時の経験は【~定年退職・セカンドライフ~】。

 

Ⅰ.「ラインスタッフ管理職格(営業本部および営業事業部スタッフ)としてライン組織を横串で通して事業貢献した経験からの「企業・組織を強くする職場づくりのポイント」

営業本部(国内マーケティング・営業推進・営業教育・7地域ブロック別営業事業部統括・製品本部との接点)および営業事業部(地域ブロック別マーケティング・業績遂行・日常マネジメント)において、【営業ラインスタッフ管理職としてライン組織を横串で通して事業貢献した経験からの「企業・組織を強くする職場づくりのポイント5点」】を最初にまとめます。

① 顧客への継続的な価値提供と対価の獲得という共通目標の達成に向けて、ラインとラインスタッフの組織・職種・職位の人達が連携して直接的・間接的に活動していくこと。

② 顧客の顧客の視点でとらえること。

②-1.直接の顧客は営業現場の営業マンと営業管理職。真の顧客は営業マンが現場で接しているお客様・市場。

②-2.真の顧客へ営業現場を通して価値が正確に素早く伝わり易いこと。

③ 現場を主体とし妥当性・実現性・気づき・納得感を大切にすること。

③-1.現場目線とスタッフ目線の両方を持ち使い分けられること。真の顧客の目線をもつこと。

③-2.現場目線で接する・見る・聴く・感じる、でコミュニケーションすること。

③-3.現場の声を反映すること。

③-4.現場の困り事・課題・ニーズを知ること。市場・競合、自社商品・営業プロセス(備考3)・人・仕組み・組織のどれに起因したものか知ること。

③-5.現場が自律して実践できる対策・できるようになる対策を提供すること。

③-6.提供物(フレーム(実務に基づいた営業プロセス・様式・販促ツール)・市場知識・商品知識・競合情報など)と提供の仕方(研修・プロジェクト等)を配慮すること。

③-7.現場が試行錯誤しながらスパイラルアップしていけるよう支援すること。

④ 自分なりのシナリオを持っていること。

⑤ 自分自身が提供したフレームで、自分自身が現場の人間として実践できること。

 

Ⅰ―1.【1985(昭和60)年から1986(昭和61)年までの2年間】
~本部営業推進部門でCADシステム営業力強化にかかわった時代
  (人材育成と営業支援)~

1985(昭和60)年9月に転職。営業本部営業推進部のCAD営業推進メンバーとして配属。当時のCAD市場環境、転職先の企業環境は後述の(備考1)(備考2)を参照して下さい。

入社当初、CADシステムは中小製造業向けに市場導入された二年目の上期末で業績は未達の見込みでした。初年度業績はファン企業や導入検討していた企業への初期需要でした。

組織体制は全国7ブロックに点在している営業事業部の図面用複写機営業部門の中にCAD営業係として専任営業と専任SEが配置されていた。

CAD専任営業は入社5年前後の図面用複写機営業で業績達成してきた営業マン、専任SEは入社3年程度でコンピュータ知識・当社CAD製品知識のあるSE。下期早々にCAD集合教育(CAD知識・設計業務知識)が計画されていた。

公的展示会への出展、本部スタッフとCAD専任営業の横断的な連絡会も行われていた。

入社後連絡会や現場営業同行などを通して次の3つの課題が見えました。

① 一般的な効果訴求や機能の説明だけでは顧客に理解してもらえない。

② 顧客経営層や実務者層へ具体的な利用方法(運用方法や操作方法)による効果訴求ができていない。

③ 顧客の業種・生産方式(個別受注・半個別半汎用・汎用)による設計・製図の手順や前後のプロセスの違い、図面の利用のされ方などの特徴・業務知識が乏しく話が進められない。

そこで次の3つを対策として実施しました。

① 専任営業やSEと一緒に、導入実績を素材として顧客先でのCADの利用方法・業務プロセスと効果をとりまとめ、成功や失敗に基づく営業プロセス(備考3)・様式をとりまとめ、ノウハウ共有を進めた。

② 検討顧客へ訴求をしやすくするために、導入済顧客から顧客企業・事業のPRを兼ねた導入事例として取材させていただき、VTRや雑誌掲載で公開し、事例セミナー開催や導入事例集などの営業販促資料として活用を進めた。

③ CAD専任営業やSEへの現場同行でノウハウ共有を進めた。

 

Ⅰ―2.【1987(昭和62)年から1993(平成6)年までの6年間】
~営業へ職種転換、管理職格へ昇格した時代
  (超大手企業担当営業部門で自己能力向上)~

CAD営業支援が一段落し、①支援でなく営業として顧客に直接価値提供をしたい、②今後共、営業(ライン・現場)を経験していないと自律・自立した仕事がやりにくいとの思いで営業職へ職種転換を希望しました。

この期間の経験は以後の貴重な財産となりました。

① 営業配転教育受講後、超大手製造業の図面市場を担当する営業部門に配属され、上司や同僚からアドバイスを受けながら目標達成と実務を通した自己能力向上を進められたこと。

② 実績もともない昇格試験(論文と面接)を受けたこと。管理職格へ昇格したこと。

③ 管理職研修を受講できたこと。管理職務遂行時の玉手箱になる市販の参考図書『管理者の基礎テキスト』(備考5)も入手できたこと。

 

Ⅰ―3.【1994(平成6)年から1996(平成8)年までの3年間】
~本部営業教育部門で、新規事業・新規組織立上げにかかわった時代
  (人材育成・組織育成)~

毎年度末のすり合わせの際、主力事業のオフィス市場営業(文書サイズ複写機市場)への配転を希望いたしました。

丁度この頃、本部では主力事業拡大のため、従来製品とは市場が重ならない市場規模の大きな新規事業への進出(営業事業部規模の新規市場規模、特定の業務プロセスを自動化・短縮化する新規商品)が計画されていました。

私はこの事業の初年度のテストマーケティングプロジェクトに参加し、限定顧客への営業活動による市場性検証営業活動に従事しました。余談ですが、全社QCサークル(備考4)大会で営業活動事例として発表もしました。

翌年度の新専任営業事業部立ち上げ時、私は本部営業教育部門で教育の面から、新専任営業組織を横串で通して営業力強化と職場づくりを支援しました。

初動教育として初年度に用意されていた市場知識・製品知識教育を開催・運営しました。

初動の営業活動がスタートした後、事業部スタッフと連携し、現場の声を聴きながら、事業の共通用語となる営業プロセス(備考3)や営業ツールの様式を整備し、ステップアップ営業研修を通して展開しました。

その後、市場拡大が見込めそうな従来組織の営業部門へも簡易版営業研修を行いました。

尚、新専任組織は事業部長・部門長・営業・事業部スタッフとも全国の通常の組織から集められましたが、事業部の日常マネジメント、縦・横の組織・人のコミュニケーションなど実務を通しての試行錯誤が進み、組織連携、人材育成、業績とも徐々にスパイラルアップしました。

 

Ⅰ―4.【1997(平成9)年から1998(平成10)年までの2年間】
~大阪へ転勤。営業事業部スタッフの時代
  (販売促進、計画・業績管理にて組織育成支援)~

営業本部下の主力7地域ブロックの営業事業部が大幅な組織再編とあり、再編成された関西地区大手企業を対象とした営業事業部へ転勤となり、事業部スタッフとして計画・業績管理・販売促進に従事しました。

定期連絡会や日常的なコミュニケーションなどで現場営業部門の状況と課題を確認しながら、現場施策の支援、事業部施策の展開(セミナー・フェア開催による顧客への興味喚起・関係性強化支援、事例検討会、販促エイドの整備、報奨コンテスト実施等)により、組織立ち上げを進めました。

 

Ⅱ.部下を持ったライン管理職(営業管理職)としての経験(主に日常マネジメント)

Ⅱ.【1999(平成11)年から2009(平成21)年までの11年間】
~東京へ転勤。営業管理職の時代(業績達成と人材育成・組織育成)~

2000(平成12)年前後に人事制度が見直され目標管理・キャリア開発・セカンドキャリア研修(50歳代)・定年再雇用などが導入された時代に、ラインの営業管理職として組織目標達成・人材育成・組織育成などにより職場づくりを進めました。この頃には主力商品は単体の複写機から現在の複合機に、営業スタイルもソリューション営業へと変化していきました。

社会・市場・組織が変化していく中で、担当市場やメンバー構成は色々で試行錯誤しましたが、私の営業管理職のイメージを下図の人材マネジメント図としてまとめます。

営業管理職としての人材育成・能力開発、組織育成のそれぞれについては次回・次々回でお伝えしますが、ここでは全体としての「企業・組織を強くする職場づくりのポイント4点」】とサブポイントをひとつにまとめました。

①全般として如何に納得し意欲を持って職務を遂行し目標達成し成長してもらうかです。

② 目標設定と進捗管理で留意した点は、

②-1.業績目標と担当市場配分は概ね中軸層・中堅層・若年層の職位順とした。

②-2.半期初めは、個人別に業績目標を配分し、メンバー個々が作成した目標管理シート(業績目標と達成の行動計画。上位職位ほど業績比率は大きい。)をベースに計画の妥当性・実現性をすり合わせした。

②-3.期中は、月度・四半期と都度で個人毎の業績目標の進捗・バラツキと全体業績目標とのギャップを見ながら、メンバー個々の業績目標の再配分と行動計画の見直しをすり合わせた。見守り・助言・同行支援の関与度も変化させた。

②-4.半期末は、業績評価は期初配分業績目標と行動成果の出来栄えをメンバー個々が行い、メンバー自身の評価と管理職の評価をすり合わせた。

②-5.フィードバックは、良かったこと・改善点の気づきを促すようにした。業績未達者ほど良かったことの気づきを促し気持ちの落ち込みを軽減した。場合によって加点材料とした。

③ 組織育成で留意した点は、

③-1.日常の主張・協調・相談がしやすいコミュニケーション環境づくりです。

③-2.メンバーの主体性・自律・自立、気づき・納得感を大切にし、任す・見守る・助言する・同行する・フィードバックする、です。

以下は、③-1.③-2.で概ね共通です。

  • 日々の挨拶、声かけ、報連相。メンバーの日々の観察。同一目線で接する。
  • アイデアを出し合う打合せ・結論を出す打合せの使い分け。
  • 打合せの進め方は半期・四半期・月度は管理職が、月度内・都度テーマは持ち回りでメンバーがファシリテータをつとめる。
  • 課内プロジェクト・テーマのリーダーを任せる。
  • ペアリングによる相互交流。
  • 管理職集中同行DAYでの意見交換・OJT。
  • 目標管理シート(半期毎)・キャリア開発シート(年度毎)の自主作成の助言。
  • 市場・企業攻略シートの自主作成と助言。
  • 計画実行時の都度のOJT。
  • 期初・期末・都度のフィードバック。

④ 能力育成・能力開発で留意した点は、

④-1.変化に対応できる・変化を先取りする・変化を起こす自律人材の育成です。

④-2.営業実務を通して、ビジネスキャリアの営業の専門能力はもとより、基礎能力、概念化力を身につけてもらうことでした。

④-3.短期的には半期毎の目標管理の目標達成に向けたプロセス項目実施の支援、中長期的にはキャリア開発計画に基づいた項目実施の支援です。

④-4.基本は自己研鑽とOJT。加えて教育部門が実施する営業教育・人事教育のOff-JTです。

さて次回は、主に部下を持ったライン営業管理職の視点で、【人材育成・能力開発からみた職場づくりのポイントのまとめ】です。

次々回は、同様の視点で、【組織育成からみた職場づくりのポイントのまとめ】です。いずれの回とも、当時の経験と現在を重ね合わせながらお伝えさせていただきます。

 

 


  • 備考1:1980(昭和55~平成1)年代のコンピュータ市場全般の状況;
    • 大企業向けの大型ホストコンピュータ(IBM360・370や国産コンピュータなど)とともに、比較的安価なミニコン、WS、PCが普及し始めた。
    • それらをベースとした様々なアプリケーションシステムが急速に出現してきた。
    • CADシステムは大手製造業には導入済であったが、中小企業ではCAD導入機運が高まってきた時期。
  • 備考2:1985(昭和60)年当時の転職先企業の状況;
    • 複写機事業(現在は複合機)が主力の外資系事務機器製造・販売企業(法人顧客向け、量販型見込み生産方式)で、企画・営業・開発・製造の機能別組織。
    • 全業種・業務のオフィスで利用される文書サイズ用複写機単体事業や図面サイズ用大型図面複写機単体事業を主力とし、プリンター・プロッターなどコンピュータ出力機器事業に進出中。
    • 事業全体として、原稿作成・出力・複写配布・保管・廃棄の一連の文書サイクルのシステム化・コンピュータ化(デジタル化)へシフトしていた時期。
    • コンピュータを利用した上流側の文書作成システム・CADシステムなど原稿を作成するシステム事業へ参入し進め始めていた時期。
    • コンピュータ関連事業の営業体制は、複写機事業とは別立ての専任営業とSEで営業を始めていた時期。
  • 備考3:営業プロセス;
    ①市場特性を知る(優先度・重要度・難易度・親和度)。プライオリティ付けする。
    ②顧客企業を取り巻く環境を知る。企業・組織のニーズ・課題を知る。
    ③問題・課題解決の仮説提案をまとめる。
    ④顧客と面談・折衝し親和と興味換気を進める(顧客のミドル・担当者・トップ層のキーマン・賛同者・反対者など)。
    ⑤提案する(仮説を面談・折衝などで確認し実体化する)。
    ⑥合意形成する。⑦成約し導入する。
    ⑧顧客満足度を維持・向上する。⑨ファン化する。
  • 備考4:QCサークル(キューシーサークル);
    同じ職場内で品質管理活動を自発的に小グループで行う活動である。
    全社的品質管理活動の一環として自己啓発、相互啓発を行い、QC手法を活用して職場の管理、改善を継続的に全員参加で行うものである(TQC用語辞典)。
  • 備考5:『管理者の基礎テキスト』(市販実務書);
    当時の管理職研修時から利用している参考図書。管理職務遂行時の私の玉手箱。
    『管理者の基礎テキスト』松田 憲二 著 初版1991年12月5日
                           日本能率協会マネジメントセンター
    ・著者のコメントに『マネジメント層にある人々にとって、最低限知っておいてもらいたい知識の玉手箱』とありますが、現在でも十分に玉手箱と思います。
    ・1991年当時の著書ですので、書き出しのマネジメントの本質の中で、管理(=マネジメント)と統制(=コントロール)の違いに触れています。
    ・大項目; ・マネジメントと組織・仕事と管理・仕事の改善
           ・人間の欲求と動機づけ・部下の育成と能力開発
           ・明るい職場と環境整備
  • 備考6:定年後から玉手箱にしている参考図書(市販実務書);
    • キャリアデザイン入門『Ⅰ』 基礎力編 大久保 幸夫  日経文庫
    • キャリアデザイン入門『Ⅱ』 専門力編 大久保 幸夫  日経文庫
    • マネジャーのための人材育成スキル 大久保 幸夫  日経文庫
    • 会社を強くする人材育成戦略 大久保 幸夫  日経文庫
    • 職場の人間関係づくりトレーニング 星野 欣生  金子書房
    • 図解)自分をきちんと<伝える>技術 平木 典子  PHP研究所
    • ビジュアル『ビジネス・フレームワーク』 堀 公俊  日経文庫
    • 一次評価者のための人事評価入門、一次評価者のための目標管理入門 河合 克彦・石橋 薫 共著  日本経済新聞出版社
    • 人事管理入門〈第2版〉 今野 浩一郎  日経文庫
    • 高齢社員の人事管理 今野 浩一郎  中央経済社
    • プロフェッショナルの働き方 高橋 俊介  PHPビジネス新書
    • 人材育成の進め方〈第3版〉 桐村 晋次  日経文庫
    • チームマネジメント 古川 久敬  日経文庫
    • ファシリテーション入門 堀 公俊  日経文庫
    • モチベーション入門 田尾 雅夫  日経文庫
    • メンタルヘルス入門 島 悟  日経文庫
    • ストレスマネジメント入門 島 悟・佐藤 恵美  日経文庫
    • MBAエッセンシャルズ【第2版】 内田 学 編著  東洋経済新報社

 

 

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