JAVADA情報マガジン4月号 フロントライン-キャリア開発の最前線-

2017年4月号

←前号 | 次号→

成長を出し続けられるビジネスパーソンを目指して
第1回 キャリアという言葉を意識する~社会人大学生時代の経験から

公財)日本女性学習財団キャリア形成支援士、国家資格キャリアコンサルタント、CDA
  産業ジェロントロジーアドバイザー
   松尾 規子 氏 《プロフィール》 

はじめに

21世紀になってまもなく5分の1が過ぎようとしています。
この間に私たちを取り巻く環境は、大きく変化をしています。
企業の属する個人も「担当業務に固有の知識・スキル」のような固定的なスキルだけではなく
「主体的に自分の力量を向上させるための知識・スキル」が求められています。

そこで、本稿は

  1. キャリアという言葉を意識する~社会人大学生時代の経験から
  2. 「従業員の自律的なキャリア形成の支援に取組む企業①」
  3. 「従業員の自律的なキャリア形成の支援に取組む企業②」
  4. 働き方改革の先にあるキャリア形成

のサブテーマ(予定)4回の連載を通じて企業人として職場の中で磨ける能力と職場では磨かれない能力について、私自身の経験や、また厚生労働省「キャリア形成支援企業」に認定された企業の中で運営されているキャリア形成についてご紹介をしながら、「成長を出し続けられるビジネスパーソン」について考えていきたいと思います。

読者の皆様にとって社会の一員として個人にとっても、また企業にとっても普遍的かつ課題となるキャリア形成についての一助になれば幸甚です。

 

1.「キャリア」という言葉を意識する

仕事生活の中で自らのキャリアを意識した機会は振り返ると大きく2回ありました。
今回は最初の転機となった社会人大学時代に初めて「キャリアの意味」を意識した事例を中心に進めていきたいと思います。

 

(1)社会人大学生時代

戦後の自然災害史上では最も大きな被害をもたらした阪神・淡路大震災。

「ありふれた日常生活」が「瞬時に崩れる」事の人々の「意識」への影響は実に甚大でかつ、非常に深いものがありました。震災の復興が進む中で「30歳を迎えてもこのままでいいのか。」と、今思えばこの震災の影響も受けながら私はキャリアの転機を迎えていました。私の場合はすでに転職後数年経っていたため新たな転職ではなく「学び直し」の興味が強く社会的な視野と専門分野を広げるため勤労学生として関西大学社会学部へ1年生から学び直しを始めました。

①大学講義を通じて

大学での四年間は現在キャリアコンサルタントの基礎教養となる引き出しとそれ以外の専門分野の幅、人脈を増やすきっかけとなりました。
在学中には勤務先が長年のライバル社と統合して半年後。
社内ではまだまだ混乱状態でしたが、旧個社時代の良い社風を残しながらも新しい社風を創造しようという動きがありました。
その中で企業の中という一つの共同体の中で従業員としての成長と個人の成長の違いはあるのか、そこに企業の社風(環境)はどのような影響があるのか等、体系的に学びたく、人的資源管理を専門とする森田雅也教授の講義を受講しました。
講義の中では組織におけるヒトという資源を活用するさまざまな制度・仕組みの課題などを経営学、組織心理学の面からのアプローチが行なわれました。
組織の中でマネジメントのあり方、マネジメントのされ方(これは個人の働き方につながる)を学ぶことで「仕事生活」と「仕事を離れた生活」とのあり方について考察し、 仕事を離れた生活の中でもキャリア形成をすることができる事を体系的に学んだ講義でした。

図1 ii

図1

②夏季研究レポートから知る「キャリア形成の意識」

森田教授の講義において「仕事を離れた生活に、キャリアの積みあげはあり得るのか」との仮説のもとに夏季研究レポート作成。社会人(正規、非正規問わず、専業主婦含む20代から60代までの男女。男女比4:6)128名に「働くことについて」<仕事生活と仕事を離れた生活>アンケートを実施しました。過去から現在を振り返り将来について「仕事を離れた生活でキャリアあるのか。あるとすれば仕事生活に生き方にどのような影響を与えているのか」という考察について種々の設問を設定しました。

このアンケート結果で強く印象に残ったのが「セカンドキャリア(定年退職後の人生)ではなく、現役時代からもう一つのキャリア(パラレルキャリア)をもつ」という意見でした。就労形態問わず、男女差なく各年代層に比較的多く約7割から肯定的な回答を得ました。

「仕事を離れた生活での自己研鑽の場でのキャリアの積み上げは、仕事では達成できない『興味・価値観』と社会的に役立っているという自己肯定感を満たし結果として仕事にもつながっていく。」という意見が占める中で結婚前の就業中には意識をしていなかった「エンプロイアビリティー」について配偶者の転勤越で離職をせざるを得なかった女性から「配偶者の転勤による就業機会の逸失はライフイベントと匹敵する高い離職の一因である」との問題提起がありました(既婚女性の約3割からの提起)女性の労働力率(15歳以上人口に占める労働力人口(就業者+完全失業者)の割合)は、結婚・出産期に当たる年代に一旦低下し育児が落ち着いた時期に再び上昇するという、いわゆるM字カーブiiiを描くことが知られています。アンケート結果で見えてきた彼女達の声は、このM字カーブ論以外の離職理由。企業の転勤制度による配偶者の転勤にともなう女性の就業機会の逸失は暗黙知の世界そのものであると思いました。それゆえ、本アンケートについても「冷静に自分の生き方、キャリアを見つめるきっかけになった。」「仕事生活(業界特有)の潰しが効かない資格取得やキャリア形成ではなく、世の中でも通用するキャリアの積み上げが必要だと痛感した」と言った声に驚きました。政府が女性活躍推進を掲げ女性雇用者の職場定着が年々進む中、企業としてはこの問題をどのように対処していくのか。近年「夫の転勤で仕事を辞める女性は毎年2万人転勤がもたらす社会的コスト」viとしてクローズアップされてきていますが、この研究レポート作成時から15年経緯した今、キャリアコンサルタントとしてこの課題についてワークライフバランスや人的資源管理面、そして組織にどのように働きかけていくのか。これは組織の中で一従業員として働くキャリアコンサルタントとしても課題でもあり「働き方改革」の一つとして意識を持つ事が必要であると思います。

上記の他に個人の役割にとらわれないパラレルキャリア(もう一つのキャリア)の必要性や「自分らしいキャリア」について多くの人が興味と必要性を感じてはいても「では、一体どうすればいいのか」と行動に移す段階までにはいたっていないことがアンケート結果からわかりました。

社会がこれだけ激変している現代においては仕事生活のキャリアではなかなか「社会的な貢献ができると実感することができない」という回答も多く、「自分らしいキャリアを構築するのに年齢制限はあるのか」とうい問いかけに対し「社会との繋がりの中で成長するキャリアには年齢制限はない」「現役時代から仕事のキャリアと社会との繋がりで得るキャリアの成長は可能である」という回答が83%もありました。年代が上がるにつれ「仕事を離れたキャリア」は自分の満足や生計のための個人的な職業選択だけではなく、もっと社会的な視点で、自分がどこで役立つことが出来るかを考えることができる機会でもあり大事なのではないかと思った。」との意見も多くありました。日本のビジネスパーソンはミドル層以降の成長が鈍化しやすいと言われますが、「社会的な意義を感じる働きがい」を盛り込む事でミドル、シニア層にも成長を出し続けるキャリア形成の支援、人材育成が実践できます。

では、企業においてはどのような方法で人材育成とキャリア形成支援を行なっているのか、次回にご紹介をしたいと思います。

 

 


  • 関西大学社会学部 社会システムデザイン専攻教授 森田雅也
    http://www2.itc.kansai-u.ac.jp/~morita/about1.html
  • 2002年の講義レジュメについては関西大学社会学部社会システムデザイン専攻教授 森田雅也氏の許可を得て掲載  また、レジュメ上の文献については
    ①企業戦略としてのワーク・ライフ・バランス 『日本労働研究雑誌』No.503 JUNE,2002版,PP1
    ②エントリーマネジメントの類型対比と結婚のメタファー 金井壽宏「個人と組織の短期的適応力と長期的適応力」
    企業行動研究グループ編『日本企業の適応力』 日本経済新聞社 1995年 所収,PP 107
  • 内閣府男女共同参画局
    http://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/h25/zentai/html/honpen/b1_s00_02.html
  • 太田聰一(慶應義塾大学経済学部教授)
    http://tkplus.jp/articles/-/14981

 

前号   次号

ページの先頭へ