JAVADA情報マガジン7月号 フロントライン-キャリア開発の最前線-

2018年7月号

←前号 | 次号→

第4回 人事評価サイクルをどのように設定すべきか

株式会社日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 シニアマネジャー
   林 浩二 氏 《プロフィール

4月号から4回にわたり、人事評価をめぐる考察を行ってきた。最終回となる今回は、人事評価サイクルの問題を取り上げてみたい。

4月号で「人事評価不要論」について検討した。その際、不要論の根拠の一つが、「ビジネスのスピードが速すぎて年次評価(年1回の評価)ではとても追いつかない」ということであると述べた(JAVADA情報マガジン【全国版2018年4月号】参照)。それでは評価サイクルを短くすれば問題は解決するのかというと、事はそれほど単純ではない。成果主義型の報酬管理が広まるのに呼応して、評価面談やフィードバック面談の拡充・強化や、評価調整プロセスの精緻化が進んでいる。報酬格差が拡大するのであれば、その根拠となる人事評価制度にもそれ相応のきめ細かさが求められるからだ。一方で、現場は日々の業務に忙殺されている。人事評価制度の運用に多大な時間を割くことはできない。評価サイクルを短くすれば、現場の負荷が増大する。単純に「評価サイクルを短くすれば良い」というわけにはいかないのである。

また、評価サイクルの長短だけでなく、評価の始期・終期をどのように設定すべきか、という問題もある。年度(4月~翌年3月)単位で人事評価を運用している会社もあれば、その会社の会計年度に合わせて評価サイクルを設定している会社もある。たとえば、小売業には2月決算の会社が多いが、会計年度に合わせて3月~翌年2月の評価サイクルが小売業では一般的である。さらに、後述するように、全く別の理由で、独自の評価サイクルを設定する会社もある。会社によって多種多様な評価サイクルのバリエーションが存在するのである。

 

人事評価の目的別の望ましい評価サイクル

6月号で人事評価基準の「粒度(きめ細かさ)」を検討した際、人事評価の目的について整理した(図表1)。ここでは、人事評価の目的に即して本来的に望ましい人事評価サイクルを検討してみたい。

(図表1)人事評価の目的

目的 内容
社員を方向付ける 経営理念や経営方針に沿った業務目標や行動基準を示すことで、社員のベクトル合わせを行う
公正な処遇を実現する 働きぶりを適正に昇給・賞与等に反映させることで、貢献度に応じた公正な処遇を実現する
人材を育成する 社員一人ひとりの強み、弱みを把握し、本人の成長を促す

まず、「社員の方向付け」という観点からは、その会社の会計年度に合わせた評価サイクルを設定することが必要だ。たとえば、12月決算の会社であれば1~12月の評価サイクル、7月決算の会社であれば、8月~翌年7月の評価サイクルである。

会社の事業計画は会計年度ごとに作成されるはずである。事業計画達成のための予算が組まれ、それが各部署に割り振られ、最終的に個人目標へと展開していく。まさに「目標の連鎖」という目標管理のプロセスそのものだ。会社目標の達成に向けて社員を方向付けることを何よりも重視するのであれば、業績管理と人事評価のサイクルをシンクロナイズ(同期)させる必要がある。すなわち、人事評価サイクルは会社の会計年度と一致しなければならない・・・・・・・・・のである。

次に、「公正な処遇を実現する」という観点からは、社員へのインセンティブ効果を最大化するよう評価サイクルを決定する必要がある。IT企業A社では、評価サイクルを上期:5月16日~11月15日、下期:11月16日~翌年5月15日と設定している。この期間設定はA社の会計年度と一致しているわけでもなく、しかも月のど真ん中(15日)で評価期間がスプリット(分離)されており、一見すると合理性を欠く評価期間の設定にみえる。しかし、これには理由がある。賞与支給を通じた社員へのインセンティブ創出である。インセンティブ効果を最大化するためには、評価期間が締まってから可及的すみやかに「賞与支給」という目に見える形で社員にフィードバックする必要がある。世間一般の通念として、賞与支給は6月(夏期)と12月(冬期)であるが、この支給時期にギリギリ賞与支給額の算定が間に合うように評価期間を設定した結果、上記のような(一見すると摩訶不思議な)評価サイクルになっているのである。

また、投資顧問業B社では、運用部門の一部のファンドマネジャーの評価期間を3年(!) に設定している。ファンドマネジャーの運用成績は景気や為替の動向など、本人がコントロールできない要因に左右され、極めて業績のボラティリティ(変動性)が高い。こうした状況の中で、単年度の運用成績だけで評価を決めてしまうと、処遇が非常に不安定になり、ファンドマネジャーのモチベーションが維持できなくなる。そこで、B社では、当年度の評価6割、昨年度の評価3割、一昨年度の評価1割の加重合計で評価を行っているのである。単年度でみると、「たまたま運良く」あるいは「たまたま運悪く」ということが起こるかもしれないが、3年程度のサイクルでみれば、本人の実力が適正に反映されると考えてよいからだ。

A社、B社のように、処遇重視の発想で評価サイクルを設定するのであれば、社員へのインセンティブ効果やモチベーション強化を念頭に評価期間を検討する必要がある。

最後に、「人材育成」を重視するのであれば、基本的には4月~翌年3月のサイクルで評価期間を設定することが望ましい。育成重視であれば、新入社員が入ってくる4月を始期とした評価サイクルが運用しやすいからである。ただし、必ずしも定期異動が4月でない会社もあり、育成重視であれば、自社の人事異動時期その他の事情を踏まえて評価サイクルを検討してみるとよいだろう。(図表2)

(図表2)人事評価の目的別の望ましい評価サイクル

目的 望ましい評価サイクル
社員を方向付ける 自社の会計年度と一致させる
公正な処遇を実現する 社員へのインセンティブ効果やモチベーション強化を考慮して評価期間を設定する
人材を育成する 原則として新入社員の入社時期に合わせて4月~翌年3月であるが、定期異動の時期など自社の個別事情を踏まえて設定する

 

こまめなフィードバックを通じて人事評価の実効性を確保しよう

どのような評価サイクルを設定するにせよ、共通して留意すべき事項がある。「こまめなフィードバック」である。評価期間を1年単位とするか半期単位とするか迷っている会社もあると思うが、私自身は、評価期間そのものは1年でも半年でもどちらでもよいと考えている。

重要なのはこまめなフィードバックである。専門サービス業C社では、年次評価(1年単位の評価)を基本としつつ、4半期ごとにフィードバック本位の面談を実施している。経営トップにその理由を尋ねてみると、評価のバラツキの回避と部下の納得感の向上だという。1年間、何もフォーマルなフィードバックを行わない状況で年次評価を実施してしまうと、評価の納得感が維持できない。部下の側としても、「土壇場になって低い評価をつけるのであれば、もっと早い段階で軌道修正の指示を行って欲しい」と考えることだろう。こまめにフィードバックする仕組みを構築しておけば、自己評価と上司評価が著しく乖離するおそれも少なくなる。結果として、評価に対する納得感も向上する。

理想論としては、四半期単位ではなく、毎月、上司と部下がフィードバック面談を行い、目標の進捗状況を確認することが望ましいが、毎月の面談実施は現場の負荷を高めるおそれがある。そこで、評価期間が1年の会社であっても半年の会社であっても、少なくとも四半期に一度、C社のようにフォードバック本位の面談を実施することをお勧めしたい。フィードバック面談には、評価の納得感向上という効果だけでなく、上司と部下のコミュニケーションの活発化というねらいもある。

今回の連載を通じて、人事評価の段階数(5月号)評価基準の粒度(6月号)について検討したが、どのような仕組みを構築するにせよ、評価制度を有効に機能させるためのカギは、上司と部下の密接なコミュニケーションである。自社に適した評価制度を検討するとともに、コミュニケーションの活発化を実現するための仕掛けづくりを考えてみていただけると幸いである。

 

 


 

前号   次号

ページの先頭へ