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2018年5月号

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第2回 人事評価は何段階が妥当なのか

株式会社日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 シニアマネジャー
   林 浩二 氏 《プロフィール

あなたの会社の人事評価は何段階評価だろうか?

長年、企業の人事制度を見てきて非常に興味深いことの一つは、会社によって人事評価の段階数にかなりの差があることである。一般的には5段階評価がポピュラーであるが、私自身が直接確認した事例では、13段階の評価ランクをもつ会社もあった。このようなバラツキが発生するのは何故だろうか?本稿では、人事評価の段階数に潜む企業の"思い"について考察してみたい。

人事評価の段階数など瑣末な問題ではないかと考える方もいるかもしれない。しかし、意外とこの問題は奥が深い。少し大げさに言えば、人事評価の段階数は、その企業の人事思想を示すリトマス試験紙のようなものなのである。

 

ミニマムは2段階

評価を行う以上、評価ランクが1段階というのは論理的にあり得ない。ミニマムは2段階である。「2段階評価など本当にあり得るのか?」と考える方もいるかもしれないが、アルバイトやパートタイマーなどで定型度がかなり高く、「できて当たり前」の仕事の場合には2段階評価で構わない。この場合、たとえば次のような評価段階になる。時給を上げる必要がある否かを確認するだけであれば、「特に支障がなければB評価、加点要素があればA評価」というように、2段階評価で十分なのである。

(表1)2段階評価の例

評価記号 定義
A 独力でスピーディに仕事ができていた
B 特段の支障なく仕事ができてきた

 

差をつける必要がなければ3段階でよい

仕事がもう少し複雑になると、2段階評価では足りなくなる。もう一段階加えて3段階評価とするが、この場合には二つの方向性があり得る。

一つの方向性は、表1の評価ランクを上方に伸ばす考え方である。Aの上にもう一段階追加し、S評価を設ける。たとえば、単に独力でスピーディに仕事ができる(=A評価)だけでなく、周囲に対する指導・助言までできればS評価と考えるのである(表2)。昇給査定というよりも育成に主眼を置き、能力の伸長度合いを評価したいと考えるのであれば、こうした評価段階が適している。

(表2)3段階評価の例

評価記号 定義
S 周囲に対する指導・助言までできていた
A 独力でスピーディに仕事ができていた
B 特段の支障なく仕事ができてきた

もう一つの方向性は、表1の評価ランクを下方に伸ばすやり方だ。この場合には、たとえば「業務に支障をきたしていればC評価」というように、期待レベルに到達していない場合の評価ランクを一つ追加する。

アルバイトやパートタイマーの人事評価の場合、3段階で十分な場合が少なくない。また、数としてはそれほど多くないが、正社員の場合であっても3段階評価を採用する企業は存在する。差をつけることが主眼でなく、「突出した社員とパフォーマンスに問題がある社員とをきちんと見極めることができれば十分」と考えるのであれば、3段階評価で問題ない。3段階の評価ランクを設定する背景には、このような人事思想が潜んでいるのである。

 

オーソドックスな5段階評価、その変型版の7段階評価

最もオーソドックスなのは5段階評価だ。たとえば下表のような評価段階をもつ企業は少なくないと思う。

(表3)5段階評価の例

評価記号 定義
S 期待レベルを上回り、特筆すべき水準
A 期待レベルをやや上回り、申し分ない水準
B 期待レベルにほぼ到達しており、十分な水準
C 期待レベルにやや物足りなく、時々指導が必要な水準
D 期待レベルを下回り、早急な改善が必要な水準

「期待通り」を真ん中の評価(上表ではB評価)とし、「期待を上回った場合」と「下回った場合」を評価できるようにする。しかし、評価をつける立場からいうと、中間的な評価ランク、すなわち「期待をやや上回った(下回った)」という段階があった方が評価しやすい。実際、意見や感想を質問するアンケート調査では、「どちらでもない」を真ん中にして、「とてもそう思う」「ややそう思う」「どちらでもない」「あまりそう思わない」「全くそう思わない」というように5段階の評価尺度で回答できるようになっていることが多い。評価を行う側にとって、5段階だと迷いも少なく評価をつけやすいのである。

さらに、5段階評価の変型版として、表3のB評価を更に「B+」「B」「B-」の三ランクに区分し、合計7段階の評価ランクとするのもポピュラーである。たとえば、昇給評価は5段階とするが、(評価ランクが一つ異なった場合の金額差が大きくなる)賞与評価では7段階とする企業の例はしばしば見かける。

 

評価段階を敢えて偶数とする企業のねらい

特殊例である2段階評価を除くと、評価は中心となるランク(表3の例ではB評価)を真ん中にして奇数の段階数を設定するのがオーソドックスな考え方だ。しかし、興味深いことに、少なからざる企業が偶数段階の評価ランクをもっている。下表がその例(6段階の例)である。

(表4)6段階評価の例

記号 定義
S 期待レベルを遥かに上回り、特筆すべき水準
A 期待レベルを上回り、申し分ない水準
B+ 期待レベルにほぼ到達しており、十分な水準
B 期待レベルにやや物足りないが、実務上は支障がない水準
C 期待レベルを下回り、指導・援助が必要な水準
D 期待レベルを大きく下回り、直ちに改善が必要な水準

敢えて偶数の評価ランクを設定する企業の言い分は、次の①か②のいずれかである。

① 人事評価はどちらかというと甘くなりがちである。表3のような5段階評価にすると、真ん中のB評価ではなく、一つ上のA評価に分布が偏る。そうすると意図せざる昇給原資の膨張を招くおそれがあるので、表4のように最初から6段階にして、B+評価のときに標準昇給が確保されるようにしておきたい。

② 人事評価には中心化傾向がある。表3のような5段階評価にすると、安易に真ん中のB評価をつけようとする上司が後を絶たない。白黒をハッキリさせ、どっちつかずの曖昧な評価ができないようにするため、最初から偶数の評価段階を設定したい。

①はやや消極的な理由から偶数段階とする企業の例、②は積極的に偶数段階とする企業の言い分である。②の場合には、「人事評価を通じて社員個々人のパフォーマンスの是非を明確にしたい」という企業の強い意思がにじみ出ている。

 

7段階を超えると「査定色」が強くなる

評価ランクが7段階を超えると、「人事評価」というよりも「賃金査定」の色合いが濃くなる。「社員のパフォーマンスの微妙な差を漏らすことなくチェックし、昇給・賞与できめ細かな格差をつけることで社員の動機づけを行いたい」という企業の意思が推察できる。

営業主体の会社など、成果が定量的な数字でハッキリと出やすい企業の場合にはあり得るが、そうでなければ7段階超の評価ランクはあまりお勧めしない。違いが曖昧なところに無理矢理差をつけることになるので評価ランクの差を合理的に説明することができなくなり、評価に対する社員の納得感が下がってしまうためである。これでは「社員の動機付け」どころか、社員がやる気を失ってしまうことにもなりかねない。

 

グローバルスタンダードは5段階評価

海外に目を向けるとどうだろうか?「アメリカなどグローバル企業では成果主義だから、多数の評価段階を設けて細かく従業員のパフォーマンスをチェックしているに違いない」と考える方がいるかもしれない。しかし、表5にあるとおり、実際には6段階以上の評価ランクをもつ企業は全体の一割にも満たず、5段階評価が圧倒的に多いのである。

その理由は先に述べたとおりである。評価段階数が増えると、従業員に対して評価差を合理的に説明することが難しくなる。このため、多数の評価段階を設けて微妙な処遇差をつけることを回避する傾向があるためと推察される。

(表5)アメリカなどグローバル企業における評価段階数

2010年 2012年 2014年 2016年
n= 1,126 844 529 489
None 0% 0% 1% 0%
Two (2) 0% 1% 1% 1%
Three (3) 12% 12% 12% 12%
Four (4) 27% 23% 20% 21%
Five (5) 54% 57% 60% 58%
Six (6) or more 7% 7% 7% 8%

(資料出所)WorldatWork 調査 "Compensation Programs and Practices Survey"

 

育成や動機付けの視点から人事評価の段階数を考える

以上、人事評価の段階数のバリエーションとそこに込められた企業の"思い"について考察してきた。5段階評価がグローバルスタンダードといえるが、最終的には自社の人事ポリシーにマッチした評価ランクを設定することが必要であることは言うまでもない。

ここ数年、人手不足が深刻になり、今後も暫くこの傾向が続くと予想される。企業の人材戦略は、「採用した人材を早期に即戦力化し、長期にわたりつなぎ止める」という方向にシフトして行かざるを得ない。この目的に資する人事評価制度とは、社員の能力の伸長度合いを確認し、本人に対するフィードバックを通じて育成や動機付けにつなげていくことができる仕組みである。こうした視点に立って、人事評価の段階数を再検討してみてはいかがだろうか。

 

 


 

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