JAVADA情報マガジン7月号 フロントライン-キャリア開発の最前線-
◆2017年7月号◆
成長を出し続けられるビジネスパーソンを目指して |
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公財)日本女性学習財団キャリア形成支援士、国家資格キャリアコンサルタント、CDA、 |
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はじめに第2回目、第3回目は「成長を出し続けることができるビジネスパーソン」として企業が正規、非正規社員に対して実施している取り組みを厚生労働省の表彰事例を参考にご紹介してきました。 最終回は、「働き方改革」 i です。今回は皆さんご自身がどんな「働き方」をされているのか、「働き方」の「改革」についてどのような意識をされているのか、それぞれ立場での「働き方改革」を一歩俯瞰して見つめながら、今後のご自身の自律的なキャリア形成の一助となれば幸甚です。
1. 「働き方改革」ってなんだろう多くの企業で長時間労働体質や「残業を前提とした働き方」からの脱却に向けてプロジェクトを推進しながらも、取り組みが行き過ぎることで競争力低下に繋がらないか、といったような懸念や課題と対峙しでいる状況でないでしょうか。この「働き方改革」に敏感に反応したのは世相を反映するCMの世界。4月から始まったサントリー食品インターナショナルの「クラフトBOSS」のCMテーマは「働き方」 ii 。上司役の堺雅人が出社するとオフィスは人が少なく閑散とし・・・で、始まるこのCMで男性の若手社員が公園で育児をしながら作業中。そこに堺が「なんで会社にこないんだ?」とスカイプ画面から問いかけると「なんで行かなきゃいけないんですか?もちろん作業はちゃんとやりますよ」と切り返す。こうしたやり取りの後、困惑した堺には新しい風が吹きつける・・・。 iii このCMをご覧になって上司役の堺雅人同様に困惑や違和感を覚えた方、「新しい風」に何か期待感を持った方など様々な感想があると思います。このCMの別のシリーズでオフィスを見て宇宙人ジョーンズが「この惑星の職場では何かが変わりはじめている」 iv と呟く様子は、「顔を見合わせていなければ分かり合えるはずはない」(だから在宅勤務、リモートワークはうまくいかないのだ)というような固定観念や、1980年代後半の「24時間戦えますか」 v とイケイケのバブル時代の企業戦士とは全く異にする対極の言葉です。働き方、特に長時間労働の見直や、ワークスタイルを変えていく取り組みが行われていますが、なぜ私たちは長時間労働になるのでしょうか。長時間労働の何がいけないのでしょうか。
(1)なぜ長時間労働になるのか長時間労働になる理由をヒアリング調査の結果、下図 vi のような理由が挙げられました。 ![]() どの理由も、「一体これの何が悪いの?」と思いませんか。ある調査によると日本人の働き方の年間総労働時間はOECD平均をやや下回り1765hです vii 。ところが、正社員のホワイトカラーは平均2239h。 viii この数字、私たちの生活に馴染みのある風景で考えてみるとパパは夕食を一緒には食べないという日本のごく普通の家庭の食卓の風景が目に浮かびます。 ix 実際に諸外国と比べても週 7 回家族全員で夕食をとる割合が日本は少ないのが現状です。 x 様々な調査から諸外国と比べても日本の正社員=「何時間でも働く人」であり、そのためパパは家族とすら平日に一緒にはご飯を食べれない風景は、長年にわたって日本の家庭の食卓の風景として当たり前の風景となっています。他にも別の調査では、長時間労働の基本的な事実、労働時間と転職、満足度、業績等との関連性について、以下のような調査結果がありました。 xi ① 労働時間が長いほど転職意向が高い ② 労働時間が長いほど仕事満足度が低い ③ 長時間労働と業績に相関はない (業務もオーバークオリティになりやすい xii ) 日本の正社員は残業ができるという潜在的な価値観は日本の高度成長期に限らず企業の競争力そのものであり日本を経済大国にした大きな役割を果たしてきました。 xiii 一方で、この価値観を前提での人的資源管理では今日では「ダイバーシティ&インクルージョン」(以下、D&I)推進の妨げにもなっているのです。 xiv (2)インクルージョンがなぜ必要なのかよく、ダイバーシティを経営上の価値観にしていますとう言葉を目にしますが経営上の価値にするには、&インクルージョン(D&I)していることが肝要となります。例えば、男性や、子供のいない女性、家庭を持っていない女性は残業をし、小さい子供のいる女性が早く帰れば良いだろうという配慮や考え方、これはダイバーシティの典型的な一例です。事情のある人だけのワークスタイルの「配慮」だけではインクルージョンは達成されません。事情がある人は早く帰ってもいい、事情がない人は時間の許す限り残業ができる、「頑張っていればなんとかなる(その根性こそが素晴らしく、がむしゃらに長い時間頑張ることが評価されるべき)」という日本では普通の思い込み。こ状況は事情があって早く帰る人と残業できる人の貢献の差を仕事に対する能力ではなく別なところで(評価、昇進など)でつくっているという状況を生み出しています。そして、残業ができる人が組織のコアメンバーであり、はやく帰る人は組織のコアメンバーではないと言う無言の共通認識をつくり出し無言のメッセージにもなっています。社会心理学において日本社会の中ではこのような前提を無意識に型にはめてステレオタイプを持つことで、私たちは、安心を得ている xv と言われていますが、特に「~してはいけない」、「~すべきだ」がモチベーションになったままの働き方では働き方改革と同様に論じられている「生産性の向上」には繋がっては行きません。 ではなぜインクルージョンが必要なのでしょうか。インクルージョンとは人は一人一人が異なる存在で、異なることを尊重し、能力を引き出し、それが組織の価値となるよう活かすことです。すなわち、安心できるからこそ、貢献しようという行動は、その組織の中で自分の存在が100%許され受容されていると認識した時です。その職場において自分は受け入れられていない、味方がいない、と感じている人は組織へのコミットメントやコミュニケーションがとりづらくなり如いては協働性も消極的になります。どの組織においても子育て、介護、病気治療中の勤務など色々な事情のある人がたくさん増えてきています。このような働き方(時間など)に制約があることで「あなたたちはコアメンバーではない」というメッセージばかりだと組織は崩壊します。すなわちインクルージョンなしのダイバーシティが進めば組織は崩壊してしまうのです。 D&Iの浸透している組織とは下図のようにイメージです。様々な違いがあることをあるがままに認識し受け容れ合うことで自分の存在は100 %許されている歓迎されていると全ての人が信じられる場 xvi ではないでしょうか。 xvii D&Iは変化に対応するための基礎体力。ダーウィンの「生き残る種とは、最も強いものではない。最も知的なものでもない。それは、変化に最もよく適応したものである。」の名言のように「インクルージョンすることで違いを活かし競争優位につなげることができるからです。 xviii 下イメージ図:筆者作成) ![]() (3)なぜ、今、働き方改革なのか次に働き方改革について少しマクロの視点で考えてみましょう。すでに21Cになって新しい世紀の第一四半世紀が過ぎようとしています。そして世界の価値観が大きく変化をしようとしています。19Cはフロントエンドを求めて大航海、大商業時代の植民地時代を築き、20Cは重工業主義に変化しました。産業革命によりリソースを投入することで規模の経済をつくりあげました。このように世界的にみても社会の価値観は100年おきに変化をしていくものだということがわかります。「働き方改革」とう言葉に戸惑ってしまいますが、歴史を振り返ると今までも言葉こそ違え、働き方の改革は行われてきたわけです。 そして今は、新世紀21Cの新しい価値観を模索している期間。日本では2020年の東京オリンピック後急速に新世紀の価値観へ人の感覚がシフトをすると言われていますが、2025年までは全盛期の常識が慣性となって残っていくと言われています。教育や社会保障などをみても昭和価値観や制度が残り、現状を取り巻く環境の変化 xix ついていけない状態に当てはめようとすると歪になってしまう、そのため現代がVUCAの時代 xx とも言われているのもうなずけます。 ではこの後はどうなっていくのでしょうか。21Cを代表する価値観とはどのようなものでしょうか。少なくとも21Cの主役は今の10代から20代のです。この年代の人たちが、どのような働き方、こんな社会に生きていきたいと望んでいる事、「いいな、やりたい」と思う事や仕事が新しい21Cの価値観へと昇華していくのではないでしょうか。そして、このVUCAの時代に大人として生きている私たちができることは、次の世紀を生きる人たちへのキャリアの価値観をサポートできるような基盤をつくっていく事、土台を積み上げておく事だと思います。特に、キャリアコンサルタントだからこそできる、次の世紀を生きる人たちへのキャリア形成の土台や多様な価値観の受容。働き方改革は、キャリアコンサルタントとしてまさにこの新しい時代をつくっていく10−20代の人たちへ社会インフラとして貢献できるチャンスだと思います。 (4)「みんな違って、みんないい」 xxiこのような状況の中で長時間労働時間の効率に向けて様々な本が出版され、他企業での好事例取り組みも目に機会が増えツールも公開されているため xxii に取り組みを進められている企業も多いと思います。では、長時間労働のない、新しい組織のカタチとはどんなカタチでしょう。長時間労働のない、新しい職場の形とはひとにぎりの職業戦士だけで勝つ時代の終焉です。「仕事もそれ以外の生活も大切にする多数の人々」 の総合力で業績を上げことになります。 今まで「仕事→家に帰って寝る」というような長時間労働に慣れているため、急に「仕事以外の時間」と言われて、早く帰れるようになっても何をしたらいいのかわからないと戸惑う方もいるかもしれません。 なぜなら、イノベーションは人と同じことばかりやっていてもうまれません。他の人がやらないこと、やっていないことをやっていることに価値があります。働き方改革には、個人がやっていることに意義を感じてエンゲージメントの高い状態になることもキーポイントであり、実現したいサイクルは下図のような「時間以外の資源」を元手に大きな付加価値を生み出す仕事を目指すこと。例えば、アイディア、ネットワーク、フットワークは時間以外の資源の代表例であり、これらは全て職場で机に向かっていても磨かれないものです。まずは、会社の事しか知らない、会社の人しか知り合いがいないという状態から、一歩踏み出してみましょう。 ![]()
2. むすび第2−3回で論じたように日本では職業に関する能力は「企業」で身につけるのが当たり前と考えているため啓発も企業内教育止まりとなり企業外で学べる場、学び直しの場の機会を得るのはなかなか難しいと思います。平日の夜や土日の時間をもっと個人が自由に使えるようになるような「働き方」の「改革」が必要だと改めて感じた次第です。連載第1回目に社会人大学生時代について述べましたが、個人が4年間大学に通うことのハードルは高く、朝早く出社しても残業ができない「引け目」もありましたが、企業外で能力を高める機会が多様に揃っていると、私たちのキャリアに関する選択を広げることができるのだと痛感しました。 日本では企業外部の学びの評価が低すぎるため学びへの「投資」が企業人には「見合わない」と思われていますが、実際に社員が仕事以外に大事にしたいことに使う時間を確保することで企業にとっての新しい価値を生み出すことなど経営的な意義が大きく、また、現場で意欲を持って働く社員にとっても成長実感をもたらすメリットがあるという調査結果もあります。 xxiii 今後、企業ではキャリアの学びの途中で「学びにいく」ことを可能にする人事制度や労働契約の構築や、人的資源管理、そして「成長を出し続けることができるビジネスパーソン」の輩出のために新しい時代に応じた「やってみなはれ」 xxiv の精神が必要になってくるのではないでしょうか。一人の職業的キャリアが一つの企業の内部で終了することはこれから稀になってきます。自らのキャリアを他者と比較することなく、「これでいい」と納得し、自分の人生を生きる姿勢がより問われていく時代に『仕切りなおして何度でも』 xxv 個人が仕事生活と仕事以外の生活で職業的キャリアを自律的に構築できるようになるための「学び続ける社会」を社会や企業に働きかけていくこともキャリアコンサルタント大きな役割になっていくと思います。 さて、本稿をもって私の執筆は最終回となりした。今回の機会を下さいました事に感謝するとともに、キャリアを学術的に考察する上でご指導下しました関西大学の森田教授 xxvi 、私に社会人としてキャリアコンサルタントとしての"安全地帯"を飛び出すためのアドバイスご教授くださるASキャリア xxvii の瀬谷・浅田両氏には改めて深謝いたします。この私の連載は特に個人のキャリアコンサルティングに軸足をおいている多くのキャリアコンサルタントの方々とは異なる視点からの考え方の提供であったと思います。ご異論も多々おありでしょうが、この連載をここまで読んでいただけたとすれば、これもある種のD&I的な行動なのかもしれません。愚見がキャリアコンサルタントの固定枠からはみ出し、新たな取り組みへのスモールステップにお役に立てるとすれば、望外の喜びです。
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