JAVADA情報マガジン1月号 フロントライン-キャリア開発の最前線-

2014年1月号

←前号 | 次号→

第2回 NEET状態の若者の現状(2)とキャリア形成支援のポイント

特定非営利活動法人ICDSキャリアデザイン・サポーターズ 理事長
  有限会社キャリアサポーター 代表取締役 深谷 潤一 氏 《プロフィール》 

新年明けましておめでとうございます。皆様いかがお過ごしでしょうか?さて、2014年の嬉しくないビックイベントと言えば、4月からの消費税引き上げ。その結果、国内消費がどの程度落ち込むかによって景気、労働市場動向、さらにお国の税収も左右されるわけですから、キャリア・コンサルタントとして、これらに関する情報からも目が離せません。しかし、消費税引き上げに絡む消費の落ち込みとは別に、既に若年者の価値観として「プア充」※1もかなり浸透しているように思われます。高度成長期もバブル景気も歴史の教科書でしか知らない世代が多くなり、その後の平成景気(仮称。リーマンショックまでの景気が良かった時代)では、企業の業績は好調であっても、ほとんど個人の収入に還元されることのない現実を目の当たりにすれば、防衛機制として「高収入はいらない」と宣言してしまうのも一つの適応策と言えるかもしれません。そうしたモノ・金銭的な欲求が持ちにくい社会の中で、自らのキャリア形成を主体的に考えて取り組むことは、難しいテーマですが対応して行かなくては、個人の生活の豊かさも、社会的な豊かさも失われてしまいかねない重要なテーマだと考えます。今回は、前号を掘り下げ、NEET状態の若年者のキャリア形成支援に必要なエッセンスを具体的に提案したいと思います。

 

1.【NEET状態の若年者の現状(2)】

前号では、社会的スキル(KiSS-18)や進路決定自己効力(CDMSE-U:J)の調査結果を紹介したが、今回は「キャリア成熟度」(キャリアの選択・決定やその後の適応への個人のレディネスないし取り組み姿勢(坂柳, 1991)。キャリア発達課題へ取り組もうとする個人の態度的・認知的レディネス(Super, 1984))を測定するために「キャリア・レディネス尺度(CRS=Career Readiness Scale)」(坂柳1996)を用いた調査結果を紹介する。CRSの構成は表1で示す「人生キャリア・レディネス(以下、LCRと表記する)」と「職業キャリア・レディネス(以下、OCRと表記する)」の2つを柱とし、それぞれ「キャリア関心性」、「キャリア自立性」、「キャリア計画性」の3項目に分かれ、その項目中に細項目として志向性・探索性・一体性といった内容が示されている。また、表中の番号は質問番号を示す。質問内容は表2「人生キャリア・レディネス」表3「職業キャリア・レディネス」で示す。なお、本来は、因子分析等を実施したうえで検証すべきであるが、調査途中での原稿の締め切りを迎えたため、先行研究の指標をそのまま踏襲して以下を紹介する。

表4はLCRとCDMSE-U:J(前号参照。表中ではCDMと省略表記)との相関係数を分析した結果である。 ご覧いただくと、CDMSE-U:Jとの相関係数が高い項目は、人生キャリア自律性:LCAの中の「向上性」、人生キャリア計画性:LCPの中の「目標性」と「現実性」の相関が強いことが分かる。

次に、表5のOCRとCDMSE-U:Jとの相関係数を分析した結果では、職業キャリア関心性:OCCの中の「探索性」、職業キャリア計画性:OCPの中の「目標性」と「現実性」について相関が高いことが分かった。これらのNEET状態の若年者の現状とそれに対する支援策について次項で言及したい。

 

2.【NEET状態の若者のキャリア形成支援のポイント】

1.の結果で示した、人生キャリア自律性:LCAの中の「向上性」の質問要素は次の3つである。

6 今後の人生を充実させるために参考となる話に、耳を傾けるようにしている。
15 まだしばらくの間は、責任のある生活はしたくない。
24 今希望している生き方は、またすぐに変わるかもしれない。

これらの質問に対して、肯定的に回答が出来ていない理由として想定されることは、「自立=責任の重さ」という面を過大に大変であると感じているのではないだろうか?自立によって得られる本当の意味の自由や、責任=自己有用感といった喜びや楽しみなどプラスの面を体感させる働きかけが必要なのではないだろうか。平凡ではあるが、夢や希望を感じる人生を描けるように働きかけることが有効であろう。そのために、弊法人の運営する地域若者サポートステーションでは、社会人・職業人を招いての講話やワークショップなども実施しているが、身近な社会人を子どもの頃から見て、そうしたイメージを育むモデリング学習の機会の乏しさが原因の1つであろうから、我々社会人はすべからくモデリングの手本であるという認識を社会全体で高めることが根本的な解決であろう。

次に、人生キャリア計画性:LCPの中の「目標性」についての質問要素は下の3つである。

8 自分は何のために生きていくのか、真剣に考えたことがない。
17 今後の人生で困難なことに突き当たっても、自分なりに克服していこうと思う。
26 これからの人生設計は、自分の個性と社会状況の両面から十分考えている。

質問8は正に「自我同一性」についてであるが、アイデンティティの探索段階である青年期に、過度に適職・天職志向の特性因子論的アドバイスに触れることがマイナスの影響を与えることを、若年者のキャリア形成支援に携わる方にはご理解いただきたい。スーパー(Super, D.E.)らの示した14の命題でも「人はおのおの多くの種類の職業に対して適合性を示す」とされており、職業と自己の関係をあまりに固定的に捉えた助言や働きかけは危険な場合もあろう。即ち、広く社会全体を見て、為すべき役割を理解させる働きかけも有効なのではなかろうか。そのためには、社会・経済動向についての討論や、世の中のニーズを理解させる働きかけにより視野を広げることが肝心であろう。

人生キャリア計画性:LCPの中の「現実性」についての質問要素は下の3つである。

9 将来の生き方は自分にとって重要な問題なので、真剣に考えている。
18 人生を充実させるためには、面倒なことでも積極的にチャレンジする。
27 今希望している人生や生き方は、自分なりに実現できそうだと思う。

この質問に肯定的に回答するのは、一般的な社会人であっても困難な気もするが、「頑張って働こう」というモチベーションを得るには、仕事、就労だけがゴールではなく、「意義ある人生」を検討する働きかけが必要なのではないか。前述の夢や希望を感じる人生への働きかけ。しかし、若年者に「やりたいたいことは何か」と漠然と質問しても「分かりません」という答えがよく返されてくる。理由の1つには情報は溢れかえる社会の中で、自分にとって楽しい・充実した経験を体で得ることが少ないことがあろう。よって、頭だけで考えるのではなく、体験主義的な支援も必要であろう。さらに、現在、非正規雇用=低賃金不安定といったネガティブな面をクローズアップし、正社員になるのが望ましいという働きかけをする動きが多いが、そもそも正社員になることが難しい対象者も現実に存在する。そうした対象者に対して正社員至上的価値観を示唆するようなキャリア・コンサルティングは危険であろう。なりたくてもなれないという現実に直面せざるを得ない現在の労働市場環境の中で、非正規雇用で働くのは「負け組」的な受け止め方をさせてしまう環境では、当事者にとっては働くことに対してネガティブな気持ちから入ってしまう。前述の「頑張って働こう」に至る支援としては、まずは若年者自身が将来に対して希望や期待を持てるようにするアプローチを第一義とすべきであろう。ハーズバーグ(Herzberg, F.)の理論での、「動機づけ要因」をどのように実感させ、刺激するかがポイントである。さらに言えば、今後の日本社会で生きてゆくにはマルチワーク※2&ライフバランスとの折り合いをいかに見つけていくかというスタイルを考え、モデルを示すことが必要ではないだろうか。

続いて、職業キャリア関心性:OCCの中の「探索性」、職業キャリア自律性:OCPの中の「目標性」と「現実性」について考察する。関連する質問項目は次のそれぞれ3つである。

OCC=関心性-探索性要素の質問

2 職業や就職に関する記事には、よく目を通すようにしている。
11 就職の準備は、他の人から言われなくても自主的に進めることができる。
20 自分は将来どのような職業についているか、わからない。

OCP=計画性-目標性要素の質問

8 自分は何のために働くのか、真剣に考えたことがない。
17 職業生活を充実させるためには、面倒なことでも積極的にチャレンジする。
26 すでに計画に従って就職試験のための勉強(準備)をしている。

OCP=計画性-現実性要素の質問

9 職業選択や就職は自分にとって重要な問題なので、真剣に考えている。
18 職業生活を通して、さらに自分自身を向上させたい。
27 就きたい職業は決めたが、それに向けての積極的な努力は特にしていない。

以上の質問に肯定的に回答できるように支援する取組みとしては、個別的な対応としてはLCRでの前述した提案に基づき、職業選択の助言として特性因子論的なものだけではなくILP理論的(Integrative Life Planning "統合的生涯設計"(Hansen, L. S.))の視点などを取り入れた、視野の広い職業選択のアドバイスができるキャリア・コンサルテイングが必要であろう。もう一つ重要な点は、「ジョブ・クラブ」的な活動を組織し、主体的に就労に必要な社会動向、経済動向、仕事理解、労働市場情報を学ばせる環境を用意することが有効であろう。グループで運営させること自体が前号で指摘した「協同能力」を向上させることにも寄与するであろう。

このように、キャリア・コンサルティングの現場では1:1のカウンセリングスキルは当たり前であり、コンサルテーション能力、グループファシリテーション能力や、グループワーク等の企画力を自己研鑽し続ける必要とされている。率直に言って、標準レベルのキャリア・コンサルタント等の資格をとっただけで何年も安穏と働き続けられるような恵まれた職場は少ないであろうから、キャリア・コンサルタント自身のためにも自己研鑽に励んでいただきたい。

 


〔脚注〕

  • ※1:高収入や出世を望まず、限られた収入の中で自分の生活を充実させている人のこと。宗教学者の島田裕巳氏が著書『プア充 -高収入は、要らない-』で提唱。(早川書房2013)
  • ※2:筆者としては今後、正規雇用者の比率が増加するとは予測しておらず、ますます非正規雇用は増加するとなると1つの職場だけで生計を維持する収入を得る考え方に縛られず、複数の職場から収入を得るスタイル(マルチワーク)が増加すると考えている。

引用文献

  • 島田裕巳(2013)『プア充 -高収入は、要らない-』早川書房
  • 渡辺三枝子(2007) 『新版キャリアの心理学』ナカニシヤ出版
  • 冨安浩樹(1997). 大学生における進路決定自己効力と進路決定行動との関連 発達心理学研究8.1 15-25
  • 楠奥繁則(2009). 大学生の進路選択セルフ・エフィカシー研究:KiSS-18からのアプローチ 対人社会心理学研究9,109-116
  • 坂柳恒夫(1996). 大学生のキャリア成熟に関する研究-キャリア・レディネス尺度(CRS)の信頼性と妥当性の検討- 愛知教育大学教科教育センター研究報告第20号,pp.9-18
  • 木村周(2013)『キャリア・カウンセリング-理論と実際 3訂版』雇用問題研究会

 

 

前号   次号



ページの先頭へ