JAVADA情報マガジン2月号 フロントライン-キャリア開発の最前線-
◆2014年2月号◆
第3回 産業競争力会議「雇用・人材分科会」中間整理の考察と課題 |
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特定非営利活動法人ICDSキャリアデザイン・サポーターズ 理事長 |
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皆様こんにちは。寒さが一番厳しい時期となりましたが、いかがお過ごしでしょうか?前号まで、私の仕事の1/2である「キャリア・コンサルタント」の任務の1つとして、若年者のキャリア形成支援の必要性を環境に働きかけることを目的として、NEET状態の若年者を心理的側面から考察し、必要と思われる支援プログラムの要諦を述べさせていただきました。 残り2回は、若年者の就労支援を主な業務とする組織の経営者の立場から、若年者を組織の人材として活用していく中で感じる課題と対処についてレポートするため第3回「NEET状態の若者を人材化するための提言」 第4回「NEET状態だった若者を人財化する方策~全職員中22.8%が元NEETの職場から~」というタイトルを予定していましたが、第2回の原稿を書き終えた昨年12月26日付で、首相官邸が主導する「産業競争力会議」の中の「雇用・人材分科会」(以下「分科会」という。)の中間整理が公開されました。そこで予定を変更させていただき、分科会での議論の動向の考察と若年者の就労支援、キャリア・コンサルタントの活動にも関連するマクロな課題を検討しご紹介したいと思います。 皆様ご周知のことと存じますが「産業競争力会議」は、アベノミクスの第三の矢とされる「日本再興戦略」(平成25年6月14日閣議決定。資料1参照)を着実に実行するため、我が国産業の競争力強化や国際展開に向け残された課題について分野別に集中的な議論を行うために開催するとされています。 分科会は昨年9月以降6回開催され、12月26日付で中間整理が公開されました。そのタイトルは~「世界でトップレベルの雇用環境・働き方」の実現を目指して~とされており、何やら期待をさせてくれるタイトルにも思えますが、その内容から我々働く個人は何を読み取り、何に備えるべきなのでしょう。個人のキャリアを取り巻く社会動向の理解と個人や環境に働きかけるべきテーマをご一緒に考えていただければ幸いです。
①中間整理 ~「世界でトップレベルの雇用環境・働き方」の実現を目指して~の概要と分析1.従来の「日本的雇用システム」は、抜本的に見直し、変革するべきである。冒頭に登場するのが「雇用システムの変革」である。年功序列賃金や終身雇用(終身といっても定年制を設けていればその年齢までの雇用契約)制度は崩壊したと言われるが、年功序列賃金については資料2をご覧いただけば、男性については限りなく年功序列の色合いが残っている。また、終身雇用制度も、雇用者中の61.8%(総務省就業構造基本調査2012年)は正社員であり、正社員は終身雇用が前提である。以上のような点からすれば、変革の本丸とは、未だ過半数を占める正社員の解雇ルールを変革することであろう。 2.働き手の多様化として、働く意欲のある優秀な女性、健康で社会貢献意欲のある高齢者、プロフェッショナルな働き方を求める若者、優秀な外国人材を我が国に惹きつけ、存分に活躍してもらうことが必要。「優秀」や「社会貢献意欲」、「プロフェッショナルな働き方を求める」など、働き手の資質や意識に条件をつけて活躍をしており、広く全体の能力を引き上げたり、意識を高めるという方向性よりも、そうした素養を持つ働き手の活躍を期待しているわけであろう。即ち、逆説的に言えば、個人がそうした能力や意識を持たないことには、多様化した労働市場で活躍出来ない時代が到来すると言えよう。 3.経済環境の変化により、グローバル競争やIT化の進展が、内外の産業構造の急速な変化をもたらした結果、一つの企業に雇用を依存するリスクは高まり、正規雇用か非正規雇用かの二者択一しかない中で、雇用の二極分化が一層顕在化してきた。これに加え、技術革新の加速による熟練の陳腐化、製品・サービスの高付加価値化の要請から、働き手の主体的なキャリアアップの取組を支える教育・訓練インフラや、円滑な労働移動のための外部労働市場が重要。2.と呼応して、「働き手の主体的なキャリアアップ」がキーワードと思われる。文脈からは、既に個人がそうした意識・意欲を持って取り組んでいるのを支援するといったニュアンスに読める。しかし、正社員以外の労働者については自己啓発への取り組みは22.1%と正社員の1/2以下である。1.で推測したような方向性に雇用制度が変革してゆくならば、現在の正社員と呼ばれる存在がますます減少してゆくであろうことから、「働き手の主体的なキャリアアップ」への意識づけ・啓発が行われない場合、自助努力・自己責任論に基づく格差の拡大に拍車をかけることになろう。(参考資料:資料3) 4.新たな「日本的就業システム」に向けて、職務等が限定されたジョブ型の働き方を拡大し、日本の強みとグローバル・スタンダードを兼ね備えた、新たな「日本的就業システム」を構築しなければならない。新たな日本型就業システムとは、ジョブ型正社員の導入のようである。2013年の5月から6月頃に各種のメディアでクローズアップされた「限定正社員」(勤務地や業務内容、労働時間(残業)などを限定した雇用契約を使用者と結んで働くもの。雇用期間が無期限という意味では「正社員」であるが、当然、勤務地や担当業務が事業縮小などになれば解雇が予測される。)と何が異なるかと言えば、何となく、名称がカタカナでスマートな感じがすることと、「限定」という語感から感じる閉鎖的イメージが「ジョブ」に置き換わることで専門職的なイメージに変わる程度である。 5.「世界でトップレベルの雇用環境」とは、以下の3つの社会像が実現された社会である。
ここでは、若年者の労働参加や能力発揮は綺麗さっぱりと無視されている。次代を担う若い世代への期待も配慮もなしで世界トップと言えるのであろうか?今のところ我が国では欧米のように若者の声が強く社会に出てくるケースが少ないから、識者とされる方々の思考から漏れているのか、本気で若者に期待をしないのか、どちらなのか分からないが、今回は中間整理であり、最終段階までに見直しを期待したい。 6.「働く側の視点」として職務・能力が明確化され、多様な個人の意思と選択により自由で柔軟に働くことが可能であること。その際、心身ともに健康を保ちながら、自身のキャリアアップ・キャリアチェンジを円滑に行い、能力を最大限に発揮できる環境が整備されていること。「企業側の視点」としては自社の発展・成長に必要な職務・能力を持つ人材を機動的に確保することが可能であること。また、多様な労働力の特性や外国企業も含めた企業の多様性などに応じた選択が可能な制度となっていること。「経済成長を実現するための視点」として成熟産業から成長産業へと必要な人材が円滑に移動していること。前半は当然のことであるが、ここでの要旨は「キャリア・チェンジ」「多様性」「移動」であろう。方向性として労働移動がより多くなる状況が望ましいとされている。
などが記されており、末尾には「行き過ぎた雇用維持型から労働移動支援型への政策転換」という提言も登場し、いよいよ終身雇用的な制度は終焉することを予見させる。
②中間整理から読み取る、今後の雇用の在り方とキャリア・コンサルタントの使命現状では正規雇用(無限定正社員)or非正規雇用という雇用形態の二極化状態であるため、中間層としてジョブ型正社員(職務内容等の限定をつけた限定正社員)を割り込ませ、労働者にとっては非正規雇用と比較すれば若干の安定感・安心感を得るというメリットを提供し、企業にとっては労働力が余剰に陥った際、レイオフや整理解雇を円滑にできるというメリットがあるということであろう。そして、労働契約に関わるルールの予見可能性が低い現行の「日本的雇用システム」や労働契約法などの制度改革が必要なわけである。 当然であるが、企業が労働者とジョブ型正社員(限定正社員)として労働契約を結ぶためには、現行より明確なJob Description(職務記述書)が要求されることとなるが、そのような整備をしている余裕のない企業にとってJAVADAが開発を進めている「職業能力評価基準」は絶好の雛形となり、未だ周知や活用されていない企業などに広く活用を提案することもキャリア・コンサルタントの使命であろう。 また、「キャリア・コンサルティング」の定義は、「個人が、その適性や職業経験等に応じて自ら職業生活設計を行い、これに即した職業選択や職業訓練等の職業能力開発を効果的に行うことができるよう個別の希望に応じて実施される相談その他の支援」 キャリア・コンサルタント自身も、中間整理に見られる「優秀」や「社会貢献意欲」、「プロフェッショナルな働き方を求める」という存在でなければ活躍が困難になってゆくと仮定すると、下線部のような支援に必要な知識・スキルを自己研鑽することが使命であろう。
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