JAVADA情報マガジン3月号 フロントライン-キャリア開発の最前線-

2014年3月号

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第4回 今後の労働市場(働き方)とNEET状態等の若者の人財化への提案

特定非営利活動法人ICDSキャリアデザイン・サポーターズ 理事長
  有限会社キャリアサポーター 代表取締役 深谷 潤一 氏 《プロフィール》 

皆様こんにちは。いよいよ本年度も終わり、世間は消費税8%への対応で慌しい雰囲気ですが、いかがお過ごしでしょうか?前号では、首相官邸が主導する「産業競争力会議」の中の「雇用・人材分科会」(以下「分科会」という。)の中間整理の内容について、今後やってくる労働市場の変化と課題をご紹介しました。今号は、キャリア・コンサルタントの活動や若年者の就労支援に関連する提案を紹介させていただき、私の担当させていただく最終回とさせていただきたいと思います。最後までお付き合いいただいた読者の皆様、編集をしていただいたJAVADAの皆様にこの場をお借りして御礼申し上げます。

①ジョブ型正社員などの限定正社員の増加と課題

前号で紹介した制度改革が進行してゆけば、正社員とはいっても雇用は流動的になり、現在の非正規雇用で働く38.2%(総務省就業構造基本調査(2012年))の人に加えて、労働移動がさらに頻繁になる(労働市場の活性化とも言える)のは必定である。そして、労働移動が円滑に進むためには労働者自身の職業能力が必要とされるのは労働市場の大きな潮流であり、今後ますますその流れは強くなるであろう。キャリアアップやキャリアチェンジといったスマートな文言の陰には自己責任が求められるのであろう。

そうであるならば、個人が満足度の高い幸せな人生を過ごすための課題として、ライフ・キャリアの中核であり過半数の時間を占めるワーク・キャリアをどのように過ごしていくか、その支援が今まで以上に重要になってくるであろう。

平成23年3月に厚生労働省から公表された平成22年度「キャリア・コンサルティング研究会」報告書のP27(資料1参照)を見る限り、現在のところ、キャリア・コンサルティングのニーズは「就職・転職活動の進め方」、「履歴書・エントリーシートの書き方、添削」といった就職・転職のためHow to 指南が圧倒的である。そのこと自体が問題ではないが個人のキャリアを資料2のように図示してみると、四角形で示す転機とその間をつなぐ線の部分があり、現在は四角形で示す転機の部分でのニーズが高いと言えよう。しかし、時間として長いのは圧倒的に線の部分であり、その充実が課題である。言うならば、四角形の部分は人生という時間軸の中では点に過ぎず、線の部分をいかに過ごすか、その支援に着目した働きかけをキャリア・コンサルタントは意識すべきであろうし、特に若年者のキャリア支援においては重要であろう。

具体的には、四角形の部分での支援においては、特性因子論的なアプローチや発達理論、中でも自己概念に焦点をあてたスーパー(Super, D. E.)の特性因子論的アプローチのような支援も有効かつ重要であろうが、線の部分にウェイトを置くにはスーパー(Super, D. E.)であってもライフ・ロールやライフ・スパンを意識した理論や、スーパー(Super, D. E.)以降のキャリアの概念を前提にした働きかけが課題であろう。

 

② 若年者のキャリア形成支援上の課題と具体的な方策

若年者のキャリア形成を支援するに際して、①で示した線の部分に対する意識を如何にして啓発してゆくかが課題であろう。

具体的な視点を示唆する理論の1つは、サビカス(Savickas, M. L.)のキャリア構築理論(Career Construction Theory)である。既に、2011年のフロントラインの中でも石川邦子氏によってキャリア・アダプタヒリティといった考え方を事例的に紹介していただいているが、改めてその考え方をおさらいしておくと以下のようなものである。

キャリア構築理論(Career Construction Theory)(Savickas, 2005)

「現代の変化の激しい社会状況(個人・組織)を踏まえ、個人がキャリアを構築するうえで職業行動の主観的な意味づけを強調し、過去から現在の経験に対する意味づけを踏まえ、今後の職業人生に自分らしい意味を見出していく一連の過程が個人にとってのキャリアであるとする理論。」

すなわち、若年者の支援等において、変化の激しい社会情勢を理解してもらい、安穏と構えていられる働き方はもはや一部のものであるという覚悟をもってもらうことが必要だと私は考える。そもそも「働く」とは自らの時間・労力と引き換えに対価を得る行為なのだから、より効率の良い人が重宝されるのは当然であり、そこには競争が生まれてくるのも当然である。そうした厳しい現実を理解せず、働くことと学生時代の延長のように捉えて、会社が教えてくれる・育ててくれることに対する過度な期待を持たせないための事例検討や、そもそも営利企業とは何かといった原点を理解するための取組みが必要であろう。

キャリア・アダプタビリティは「どのように職業を選択し適応していくか?」に対する答えであり、「現在および今後のキャリア発達課題、職業上のトランジション、そしてトラウマに対処するためのレディネスおよびリソースのことである」(Savickas 2005)とされている。変化する、様々な環境の中では、安定性を前提とした「個人-環境適合モデル」や「職業発達モデル」だけでキャリアを理解することは困難である。

私たちは、職場や地域社会から要請されている発達課題に取り組むだけでなく、予測できないトランジションや、それら伴う精神的ショックへも対処する必要があり、これらの対処行動を可能にするための態度や能力(キャリア・アダプタビリティ)を予め向上させておくことが求められているのである。ちなみに、キャリア・アダプタビリティは次の4つの次元で示される。

  • 「関心」(concern):職業上の未来についての関心。過去から未来への経験が連続しているという自信をもたらすもの。
  • 「統制」(control):自分の未来を所有している、または未来を創造すべきであるという信念であり、自らのキャリアに責任を持つこと。
  • 「好奇心」(curiosity):新しい経験を受け入れ、様々な可能性を試す価値があるという信念。自分自身と職業を適合させるために職業に関わる環境を探索すること。
  • 「自信」(confidence):進路選択や職業選択において必要となる一連の行動を適切に行うことができるという自己効力感。

(出所:新版キャリアの心理学 渡辺三枝子 2007 ナカニシヤ出版)

さて、以上の4つを自己分析して自己理解に繋げていくための具体的なツールとして何が浮かぶか?といえば、「ジョブ・カード」であろう。ジョブ・カードの書式を完成させることと相俟って、適切なフィードバックや助言が加われば、キャリア・アダプタビリティの4つの次元全てについて認識を高めることが可能なはずである。ジョブ・カードの取得者数は約91万人(平成25年7月)とされているが、そのほぼ100%近くは、何等か公共の職業訓練を受けるために義務的に作成した人たちであり、本来の労働者一人一人が個人でキャリアに責任を持つためのツールとして活用されていないのが現状であろう。

そのため、先の中間整理でも抜本的に見直し、「キャリア・パスポート」と改正される見込みである。それにしても、過去の歴史を振り返ると、平成17年頃は「ジョブ・パスポート」、平成20年以降は「ジョブ・カード」となり、そして今回、先祖返りのような名称変更というのもなかなかお茶目なネーミングである。

さて、今後、我が国において労働移動がされに活発になることが予見される以上、若年者を中心にしてプロティアン・キャリア(Protean Career)といった考え方も支援の現場において伝えてゆく必要があろう。それらを支えるツールとして「キャリア・パスポート」をより一層普及させるため、キャリア・コンサルタント等のキャリア形成を支援する人たちが、その意図を正しく理解し、普及・啓発に取り組むことが肝心であろう。

そして、そうした取り組みが若年者の人財化に貢献するものと確信する。

プロティアン・キャリアの特徴(Hall & Associates, 1996)

(1) キャリアは組織ではなく、個人によって管理される。
(2) キャリアは生涯を通じた経験・スキル・学習・転機・アイデンティティの変化の連続である。
(3) キャリア上の年数(career age)は、年齢に関係なく重要である。
(4) 発達とは、継続的な学習、自己志向性、関係的なものであり、仕事のチャレンジにおいて見出される。
(出所:働く人の心理学 岡田昌毅 ナカニシヤ出版)

 

③ 最後に、NEET状態等の若者の人財化への提言

いろいろと小難しいことを述べたが、実際にNEET状態の若者の就労支援となってくると、以上のような内容に加えたより現実的且つ基礎的な、実際に働くための基礎スキルを「訓練」によって体得してもらう必要がある。

現在、私の運営する法人では雇用者の22%以上が、元NEET状態の若者であり、御縁のあった元NEET状態の若者を原則3年程度継続的に雇用し、適性のある者はそのまま継続雇用し、そうでない者も最低限度の職歴として履歴書や職務経歴書で就労経験がPRできるように取り組んでいる。

彼・彼女らの入職前のトレーニング(過去の若者自立塾、現在の地域若者サポートステーション事業等)で実際に使用している職業能力評価基準を基にした「NEETトレーニング評価基準」を以下に紹介する。

参考:「NEETトレーニング評価基準」

以上には中級・上級版もあるが、これらコンピテンシー的要素や、前述の自己のキャリアに対する概念など、特性因子論的なアプローチを座学、OJT、JOBトレーニング、個別カウンセリングなど3か月以上の訓練の中で取りあえずマスターした上で、前述のような雇用に取組んでいる。

その経験からすれば、彼・彼女らは極めて真面目で指示された職務に誠実に取り組み、トラブル等は一切ない長所は共通している。短所としては、待ちの姿勢が多く能動性が弱い面はあるが、そのあたりの特性を理解すれば、大いに人財として活躍できる素養をもった若者が大勢いることが事実である。

但し、人財とするには不足している知識や経験を補う体制が不可欠であり、これを営利企業がゼロから取り組むことは難しいと言わざるを得ない。

現在、国策として展開されている「地域若者サポートステーション」も来年度の事業予算等は縮小される。近い過去では、若者の仕事理解や自己理解に有益であった「キャリア・マトリックス」は廃止された。さらに遠い過去では「若者自立塾」も廃止された。その背景にはいずれも、政治の動き(事業仕訳など)があり、若者に対する予算を投入することに否定的な方々もいるようだが、国の将来を担う次代の人材に投資しなければ、国が先細るのは当然であろう。今後の労働政策等の中核の1つに若年者の人材化を盛り込む必要性を提言したいと思う。キャリア・コンサルタントや若年者の支援現場の方々、良識ある大人社会の構成員にも是非、前号・今回で取り上げた課題について議論していただければ幸いである。


引用

  • 総務省就業構造基本調査(2012年)
  • 平成22年度「キャリア・コンサルティング研究会」報告書
  • 新版キャリアの心理学 渡辺三枝子 2007 ナカニシヤ出版
  • 働く人の心理学 岡田昌毅 ナカニシヤ出版

 

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