JAVADA情報マガジン12月号 フロントライン-キャリア開発の最前線-
◆2013年12月号◆
第1回 NEET状態の若者の現状(1)とキャリア形成支援の必要性 |
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特定非営利活動法人ICDSキャリアデザイン・サポーターズ 理事長 |
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皆さま初めまして。今までは本マガジンの一読者として楽しませていただく立場でしたが、今回から4回の執筆を担当させていただきます。NEET状態の若者等の話題は、本マガジンでは2008年以来かと思いますが、その約5年の間に変化した部分もあろうと思いますので、お付き合いいただければ幸いです。 連載では、NEET状態等の若者自身へのキャリア・コンサルティング上のアプローチ手法についてのみではなく、実際に企業等でNEET状態の経験を持つ若年者らが活躍し、本人も企業もWin&Winとなるための分析をゴールにしたいと考えております。 【予定】第1回「NEET状態の若者の現状(1)とキャリア形成支援の必要性 第2回「NEET状態の若者の現状(2)とキャリア形成支援のポイント」 第3回「NEET状態の若者を人材化するための提言」 第4回「NEET状態だった若者を人財化する方策~全職員中22.8%が元NEETの職場から~」
1.【若年者の就労支援の必要性】厚生労働省が「若者自立塾」(若者職業的自立支援推進事業)をスタートした2005年(2006年から地域若者サポートステーション事業開始)の頃は、『若者が《社会的弱者》に転落する』(宮本みち子,2002)の中で示されるような視座がようやく社会全体に広がりだした黎明期であり、当時はまだ「NEET怠け者論」とか「精神疾患論」など誤解や偏見を持つ意見も多く、NEET状態の若者の就労支援などムダという意見も多く耳にした。今ほど声高に「若者は労働市場の弱者」といった世論は形成されていなかったように思う。 その後、リーマンショックを経て、若年者を取り巻く労働市場の環境の厳しさが改めて広く一般に理解されたわけである。しかし、リーマンショックの際、主に話題となったのは「派遣切り」現象であり、NEET状態とは少し違う次元の問題としてクローズアップされていた。しかし、そうした労働市場環境が、いわゆる「普通の若者」をNEET状態に追いやっているのである。筆者が本年行った調査(92人の地域若者サポートステーションの利用を開始した若年者が対象)の結果をご覧いただきたい(図1と図2)。 図1では全調査対象者の中で年齢が25歳の階級が最大であり、リーマンショック後で新卒採用が激減した時期に大学を卒業した年次と一致する。(データ数が少ないので今後、規模を拡大した調査が必要であるが)また、図2では大卒と大学中退を合わせると40%以上の比率となる。NEET状態の若者は低学歴であることが多いと指摘されることもあるが、この結果から支援を求めに来るNEET状態の若者の中では、高等教育段階まで進んだ者が、最も高い比率である。(逆に見れば、高等教育まで進んだ人だから「支援を求める」という課題接近スキルを有しているとも言える。) いずれにしても、今やNEET状態の若年者は特別な存在ではなく、ごく普通の大学生だった若者であってもNEET状態になりうることがご理解いただけよう。 また、非正規労働者が全雇用者に占める割合は38.2%(平成24年就業構造調査 総務省)と着実に増加しつづける社会の中では、NEET状態を脱却して就労したとしても非正規労働に就かざるを得ないケースが多く、戦略的なキャリア形成支援を推進しないと「NEET状態」⇔「非正規雇用」といったサイクルになりかねないであろう。ましてや、本年4月より施行された、有期契約が通算5年を超えた場合、本人が希望すれば、無期の契約にしなくてはならないという労働基準法の改正により、5年以内で契約を打ち切る組織が出てくることは当然予測され、平成30年の頃には、労働移動は現在以上に活発になるであろうという仮説に立てば、本人のためには加齢とともに就労機会が減少しない職業キャリアを積む方策や計画を持つ支援が必要であろう。一方、労働基準法の精神を順守するホワイト組織ばかりだという仮説に立つならば、組織としては、今までは有期雇用で都合よく人材を調達できていた分を、今後は5年の有期雇用の中で雇用した非正規労働者をいかにして「人財化」するかがポイントになってくるであろう。その際に、予めNEET状態の若者を特別な存在ではなく、彼らの魅力と課題を認知しておき、課題への対処方策を検討しておくことは、採用の間口を広げ、より多様な人材を採用し自組織の強みにつなげることに有益であろう。 以上のように、NEET状態を含めた若年者の就労支援は、個人が幸せな職業生活を送るためにも、組織の発展にとっても、今後ますます必要性が高まるであろう。
2.【NEET状態の若年者の現状】続いて、前述の調査はNEET状態の若年者の就労に向けたキャリア・コンサルティングでどのような働きかけが必要かを心理学的に分析するために、複数の心理尺度を用いて行った。その結果と考察をご紹介する。 調査では、進路選択に対する自己効力感の強い者は、進路選択行動を活発に行い、努力をする。という(冨安1997)の説に基づき、進路決定自己効力:CDMSE-U:J(Career Decision-Making Self-Efficacy scale for Undergraduates in Japan)(冨安, 1997)の中から、進路選択に関する14項目を測定した。また、多くの研究者(楠奥ら)の仮説での「ソーシャルスキル」(対人関係を円滑にはこぶために役立つスキル。)が高まることでCDMSE が高まり、職業未決定の解決へ繋がるという前提に立ち、KiSS-18(菊池, 1988)を用いて「ソーシャルスキル」を調査した。質問紙は全て5件法(弱い:1~5:強い)で回答してもらい、調査数107名の中から回答不備を除いた92名分のデータを分析した。それぞれの質問内容は表1と表2で示す。 CDMSE-U:Jの質問への回答を集計した結果が、表3である。5件法であるので単純に、中央値は「3」を回答した場合が、平均的な意識といえるので、「3」を下回る2.8以下であった項目を太字で示した。 質問1~4、7、8が低い結果である。この結果から言えることは、NEET状態の若年者の多くが「将来の目標や職業が分からず、立ちすくんでいる。」状態であり、それ以外の質問については平均点の意識であることが分かる。ここでも、前項で述べたNEET状態の若年者が特別なものではなく、就労に向けた目標設定が苦手であるという点が弱点であると言えよう。この点だけで言えば、キャリア・コンサルタントやキャリア・カウンセラーにとっては、「では、自己分析と仕事理解をしましょう!!」というアプローチが必要であることは一目瞭然であろう。 ところで、「自己分析と仕事理解」だけで状況が改善されるならば、NEET状態になる前に大学等での就職支援やキャリア教育的なアプローチで十分だったはずではなかろうか?そこで、前述の前提に戻り、CDMSE-U:JとKiSS-18の因子間の相関の有無を見てみると表4の結果となった。なお、ここで紹介したCDMSE-U:Jの14個の質問は「進路選択」というキーワードで表現される1因子であり、KiSS-の18個の質問は(1)積極的な会話スキル(質問1,5,10,13,15)、(2)自己統制スキル(質問9,12,14,16,17,18)、(3)ストレスマネジメントスキル(質問4,6,7,8,11)、(4)マネジメントスキル(2,3)の4因子で分けることができる(楠奥 2009)。 表4は、各項目の相関が強さを、*:p<.05,**:P<.01 ,***:P<.001の基準で右肩に示しており***が最も相関関係が強いものである。表4をご覧いただくと、自己統制スキルはCDMSEの全質問項目に対して強い相関を示している。KiSSの質問9、12、18は仕事上の経験を問うているのでNEET状態の若年者は一度も就労経験のない者(アルバイトを含め)が多数を占めることから、KiSSでの回答得点が低いことは当然であり、考察に値しないが、質問14、16、17は日常生活でも他者との協同作業等を「うまく」経験していれば高い値は望めるはずである。このことから、「自己分析と仕事理解」だけでなく、他者との協同作業を通した自己概念を変容させていく支援が有効であろう。もともと、NEET状態を含めた若年者の弱点として「コミュニケーション能力」が指摘されていたが、「コミュニケーション能力」は当然として、実行ベースの「協同能力」を高めることがツボであると考えることが出来るであろう。
引用文献
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