JAVADA情報マガジン11月号 フロントライン-キャリア開発の最前線-

2013年11月号

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キャリア相談のありかたをスタイルでとらえる(4)
 ~キャリア・コンサルティングの状況的アプローチという考え方~

HRDファシリテーションズ 代表 大関 義勝 氏 《プロフィール》 
 (前・キャリア・コンサルティング協議会理事・事務局長)

7.キャリア・コンサルタントの自分は、どのスタイルをとりがちだろうか

キャリア・コンサルティング・スタイルという発想は、自分が

  • 「教師スタイル」 T
  • 「アドバイザースタイル」 A
  • 「カウンセラースタイル」 Cu
  • 「コンサルタントスタイル」 Cn

のどのスタイルをとりがちかを考えさせてくれる。キャリア・コンサルタントとしてのクライエントへの接し方のスタイルを自分の傾向としてとらえ、これからのキャリア・コンサルタントとしての成長に新たな着眼点を提供してくれる。

多くのキャリア・コンサルタントは、例えば普段Cu(カウンセラースタイル)を取っていて、副次的にA(アドバイザースタイル)を取っているというように、4つのスタイルのどれかひとつを優先し、副次的にもうひとつのスタイルをとっていて、時折他の2つを使うと考えられる。
優先的なスタイルと副次的なスタイルの現れ方は、他の現れ方とは異なる特徴を持っているので、棒グラフ的にいくつかのパターンを比較すると自分のキャリア・コンサルティングに対する示唆を与えてくれるだろう。

 

■ T・A型(教育・助言型)【先生スタイル】

T・A型(教育・助言型)

きちんと教え、的確なアドバイスができ、クライエントから頼りにされる反面、過干渉になることがあるために、自律心を萎えさせてしまう(依存させてしまう)こともある。時として、「何でやらないのか!」といった焦燥感が起こりやすい。少しずつ、タズナを緩め、自分で考える余地を多くしてあげることでクライエントの自律を促進できる。
⇒キャリアが少ない人を扱うときや、急がれている場合には有効。

■ A・Cu型(傾聴・助言型)【教育ママスタイル】

A・Cu型(傾聴・助言型)

無難な路線。クライエントの気持ちを大切にして的確なアドバイスができ、二人三脚の親切な姿勢だが、クライエント自身に考えさせたり、選択させることがないために、ノラリクラリのプロセスを辿り、キャリア・コンサルタント自身が悩み、時としてお説教になる。場合によって分析・指摘することを考えないと、徒労感が出やすい。
⇒いろいろな選択肢や仕事をある程度分かっているクライエントには有効。

■ Cu・Cn型(傾聴・判断型)【師匠スタイル】

Cu・Cn型(傾聴・判断型)

よく聴き、分析してあげる。その先は自分で考えるのですよと、クライエントの裁量に任せるので信頼されるが、予期せぬ状況になったときに、端的な指示や的確なアドバイスがないからクライエントは見放されたと感じることもある。状況把握が甘いと何度でも同じことの繰り返しになりやすい。
⇒よく分かっていて、意思決定をしたいようなクライエントには有効。

■ Cn・T型(分析・教育型)【救急救命士スタイル】

Cn・T型(分析・教育型)

状況判断がうまく、一通りクライエントの事情を聞くや、アセスメントや情報提供をし、専門家として信頼される反面、クライエントの背景や感情への配慮が欠けるため、誤解やクレームが発生するかもしれない。説得を試みたり同行する姿勢をとることで、より的確なキャリア・コンサルティングができるようになる。
⇒急いで結論を出したいクライエントには有効。

■ Cu・T型(傾聴・教育型)【古参刑事スタイル】

Cu・T型(傾聴・教育型)

クライエントの事情を受け止め、いろいろ教えてあげるので、感謝される反面、両刃の結果になりやすい。気に入ったクライエントには傾聴的に接し、そうでないクライエントには指示的に接する傾向もあり、結果にムラが出たり、えこひいきと見られることもある。キャリコン自身のクライエントに対する感情を棚上げして接すると良いだろう。
⇒現状に問題が無く、キャリアアップをしたいと願うクライエントには有効。

■ Cn・A型(分析・助言型)【キャリアの母スタイル】

Cn・A型(分析・助言型)

クライエントの状況を見抜くのがうまく、直ぐにアドバイスをするので他のキャリア・コンサルタントより早く処理できる反面、クライエント任せになりがちなので、後戻りが起こりやすい。調子がいい人と思われがち。じっくり受け止めてあげるといいだろう。
⇒キャリア選択をある程度決めているクライエントには有効。

■ 万能型(安定型)【スーパー・キャリコン】

万能型(安定型)

各スタイルが均等な特徴を示す理想のキャリコンといえる。つまりどんなクライエントでも、どんな状況でも適切な接し方をする人である。しかし、現実的には極めて少数であり、個性が無いとか優柔不断と思われ、不信感を与えるかもしれない。キャリア・コンサルタントとしてのパーソナリティをどう出していくかを考えると高いステージに行けるかもしれない。
⇒キャリア・コンサルティング・プロセスをマネジメントできていることからして、スーパーバイザーとしての役割が期待できる。

 

8.キャリア・コンサルティングは千変万化

キャリア・コンサルティングは毎日が特別な状況なのである。だから、「この手でいこう」とう考えは初めから抱かないことだ。キャリア・コンサルタントも人である以上、得意/不得意があるし、学習の限界もある。だからこそ今日のクライエントに学び、次に活かすにはどうするかと考察しなければならない。くれぐれも、学習に励むことで力がつくと考えず、自己を振り返り、深く学ぶ必要を感じた時に、専門的な講座や大学院に通えばよいと思う。

キャリア・コンサルティングの形は千変万化、同じクライエントでも明日は違う対応が必要にもなる。だから、自分の利き腕(得意パターンであり癖ともいえる)を考察し、不得意なパターンについても研鑽しなければならない。現実的にスーパービジョンを受けるのが難しいなら、グループでのケース検討やケース・ロールプレイングなどでもよい。さまざまなキャリア・コンサルタントの見解を受け止めて、自分とどう違うか、なぜ違うかを考えるだけで、利き腕の範囲が広がっていくだろう。

アメリカの自由主義神学者のラインホールド・ニーバー(Reinhold Niebuhr, 1892- 1971)の有名な詩がある。(訳はさまざまな形がある)

過去と他人は変えられないが、今からの自分は変えることができる。

変えられることはそれをかえる勇気を、

変えられないことはそれを受け止める謙虚さを授けたまえ。

キャリア・コンサルタントは絶えず自己を振り返り、次のクライエントには今日よりもいい支援をするという姿勢が大切である。

 

 

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