JAVADA情報マガジン6月号 フロントライン-キャリア開発の最前線-
◆2022年6月号◆
仕事を効率的に進めるために 第2回-マネジメントサイクルと問題解決のアプローチ- |
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成蹊大学 名誉教授、非常勤講師 渡邉 一衛 氏 《プロフィール》 |
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3.マネジメントサイクル1)PDCAサイクル前回、問題解決の7つのステップについて説明し、管理技術は組織における問題解決を支援する技術であることを述べた。一方、計画を立て(Plan)、実行し(Do)、評価し(Check)、対策をとる(Act)、いわゆるPDCAのサイクルが良く知られている。このサイクルは、マネジメントサイクルあるいは管理のサイクルと呼ばれている。マネジメントサイクルは、もともと管理技術の一つである品質管理の分野で用いられてきた問題解決のステップである。初めは、PDS(Plan,Do,See:計画、実行、確認)であったが、その後SeeがCとAに分割された。国際標準化機構(ISO:International Organization for Standardization)が制定した、ISO規格である品質マネジメントシステム(ISO9001)においてPDCAサイクルが採用され、その後マネジメントシステムの基本的な考え方として広まった。マネジメントシステムでは、このサイクルを繰り返し、より良い状況を継続的に生み出していくことが要求事項となっている。なお、マネジメントシステムにおけるActは「改善」と示されているが、個人的にはこのサイクルを回すことが改善活動であると解釈している。
2)問題解決プロセスとマネジメントサイクルの関係マネジメントサイクルと問題解決の7つのステップとの関係を図1に示した。①問題を認識し、②明確にし、③解決案を見出し、④意思決定するがPlanに、⑤実施するがDo、⑥評価するがCheck、⑦確立するがActにそれぞれ対応している。特に、Planは問題解決プロセスでは4つのステップに対応しており、重要な位置を占めている。改善活動において「まずは何でもよいからやってみてそれから考えよう」という方法も考えられる。しかしながら、改善活動を何回も行ってみるとPDCAサイクルにのっとって活動した方が、平均的には良い結果を生み出すことができると考えられる。 PDCAサイクルから派生して、SDCAというサイクルも提案されている。SはStandardizeすなわち標準化であり、まず標準化を行い、実行して評価し、予定通りの結果が出ていなければ対策をとる、とされている。問題解決プロセスでは手順化、標準化は7番目の確立のステップに対応しており、その状態が達成されたら次の問題解決プロセスに進むことでPDCAを適用しているという違いがある。なお、JIS Q 9023ではSDCAサイクルを日常管理、PDCAサイクルを方針管理における問題解決及び課題達成としてこの2つのサイクルを結び付けている(参考資料4)。いずれにせよ、問題を解決するためには手順に従って進めていくことをお勧めする。 図1 問題解決プロセスとマネジメントサイクル ![]()
4.問題解決のアプローチ1)問題とは問題解決について記してきたが、そもそも問題とは何かを考えてみよう。前回同様、まずは国語辞典でみると以下のように記されている(参考資料2)。 ①答えを求めて他が出しまたは自分で設けた、問い。 ② 問題①に似たあり方のもの。 ここで扱っている「問題」は、①㋑に対応していると考えられる。しかしながら、この2,30年間に出版されている問題解決に関する書籍における「問題」は、以下の表現で代表される。 何かをなしとげたい、ある状態を作りだしたいと思って、しかも現状からそこへ到達する道筋がわからない状況を問題という。(参考資料3) より簡潔にいえば、理想と現実のギャップを問題としている。このような問題を解決するためのアプローチには、分析的アプローチと設計的アプローチの代表的な2つの方法がある。
2)分析的アプローチ分析的アプローチは、リサーチアプローチとも呼ばれ、現状の事実を正しく把握・分析し、そこにある問題を明確化して解決する方法である。いわゆる「ムダ取り」はその一つであり、現状にあるムダを見出し、その原因を探り、対策をとる。例えば、トヨタ生産システムで示されている「7つのムダ」には、作りすぎのムダ、手待ちのムダ、運搬のムダ、加工そのもののムダ、在庫のムダ、動作のムダ、不良(不適合品)を作るムダがある。それぞれのムダの有無にスポットライトを当て、そのムダがあればどのような対策を取ればよいかが用意されており、改善がしやすいように工夫されている。また、IE(Industrial Engineering)の分野における種々の分析手法(例えば工程分析や稼働分析など)を適用し、改善を行うことも分析的アプローチに当たる。
3)設計的アプローチ設計的アプローチは、デザインアプローチとも呼ばれ、目的を明確化し、よりよく達成するためのシステムをはじめから創る方法である。IEの分野においてその代表的なものとして、クリック(E.V.Krick)の「デザイン・プロセス」やナドラー(G.Nadler)の「ワーク・デザインがあげられる。デザイン・プロセスでは、システムを状態A(始めの状態)から状態B(終わりの状態)への変化のプロセスととらえ、その変化のプロセスのアイデアを創造するという考え方をしている。また、ワーク・デザインでは、仕事のシステムは何かしらの機能を果たすものととらえ、その機能を明確化し、より上位の機能を追求していく「機能展開」という方法を用いてシステムの目的を決定する(参考資料3)。
4)2つのアプローチの適用について一般的には、分析的アプローチの方が多用されていると考えられるが、設計的アプローチを推奨するものもみられる。図2にはこの2つのアプローチの関係を模式化して描いている。分析的アプローチは、現実・現状からアイデアを出していくのに対し、設計的アプローチはあるべき姿あるいは理想の姿を描き、実行可能な具体的な案としていくという違いがある。前者は、いわゆる「改善(improvement, kaizen)」であり、後者は「改革(innovation) 」と言える。そして、分析的アプローチで得られた解決策よりも、設計的アプローチで得られた解決策の方が、よりあるべき姿に近づけると考えられる。しかしながら、改善を行うときに初めからあるべき姿を思い浮かべることは容易ではない。このような場合には始めの段階で問題点を列挙し、その後で設計的アプローチに入る方がよい。問題状況はさまざまであるので、より適切なアプローチを選択し、効果的な問題解決を行うことが大切である。 図2に、設計的アプローチを適用して、あるべき姿を具現化するときに重要な要因が3つ示されている。「技術力」は、アイデアを具体化するときに必要な要因である。高い技術力を持った企業の方が、あるべき姿に近い状態を実現できることは明らかであろう。「資金力」は、改善・改革のための資金がどれだけ用意できるかということである。改善・改革を行うときには少なからず投資が必要である。大型設備や情報システムの構築を行う場合、導入したらすぐに投資資金を回収できるわけではない。回収に数年を要することもある。その間持ちこたえられる資金力が必要となる。また、小規模な現場の改善でも改善資金がすぐに用意できなければ改善は進まない。改善のための資金を年間予算として準備できると、現場の改善が進むことになり、その企業の大きな強みとなる。そして、3番目が「創造力」である。前回、問題解決の7つのステップの④に示した通り、アイデアの創出ができなければその企業・組織は取り残されてしまうことになる。良いアイデアを導出し、資金を投入して自社の高い技術力で具現化し、回収していくというサイクルを回せる企業・組織を形成することが重要であり、そのためにはより高度な資質を備えた人財を育てていく必要がある。 今回は、問題解決のアプローチを主題として記してきた。次回は、問題解決に必要な目標や評価尺度について展開し、さらに問題解決に必要な人財のイメージを探る予定である。 図2 問題解決のアプローチ ![]()
参考資料
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