JAVADA情報マガジン5月号 フロントライン-キャリア開発の最前線-

2022年5月号

←前号 | 次号→

仕事を効率的に進めるために 第1回-問題解決のステップと管理技術-

成蹊大学 名誉教授、非常勤講師 渡邉 一衛 氏 《プロフィール

今回から3回にわたりコラムを担当する、成蹊大学の渡邉一衛です。第1回は、企業組織の中で経験する問題解決と管理技術について取り上げることにする。

 

1.管理技術とは

まずは、管理技術の管理の意味を考えよう。国語辞典で「管」の文字を引くと、「中のうつろな円筒形のもの」と記されている。その穴から中を覗くと今まで全体が見えていたのがその一部しか見えなくなる。そこから「ものを見る目の限られてせまいこと」という意味が生まれる。この表現はよくない意味に感じられるが、「範囲を区切る」という観点から問題解決で重要なキーワードとなる。そして3番目の意味として「範囲を限って支配する」という内容が示される。範囲を区切ることは、別の言葉でいえば「制約条件を明確にする」ことでもある。一方、「理」の始めに「玉をみがきととのえる」が出ており、下図のように石を磨いて良い形にすることの意味だった。このことから「ものごとのすじめを立てる、とりさばく、おさめる」という意味に転じてきた。ととのえるためにはその方向性が重要であり、「目標に向けて整えること」がキーワードとなる。すなわち、管理とは範囲を区切り、目標に向けて進んでいく様子を示している。

図1 管理とは

図1 管理とは

次に、技術について見てみよう。技術は「科学の原理を(産業や医療・事務などの活動に)役立てて、ものを生産したり組織したりするしかた・わざ」と記されている。科学は真理を探究する活動であり、大学では主として理学部、技術は主として工学部が担当してきた。今では日本の多くの大学が理工学部になり両面から研究・教育しているが、欧米ではいまだに区分しているところも多い。そして、技術のキーワードは「役立つモノこと」をアウトプットすることである。技術は固有技術と管理技術に分類される。固有技術は、例えば物流の分野では、包装、輸送、保管、荷役、流通加工、関連情報などの技術であり、モノづくりでは、物理的に対象物を変化させて製品を生み出すための技術である。他方、管理技術は、例えば品質管理、コスト管理、納期管理などいわゆるQCD(Quality, Cost, Delivery)について良い方向に導くための技術である。工学部では一般に電気、機械、建築・土木、化学など固有技術の研究・教育が行われており、管理技術に関する学びはいわゆる経営工学の分野で扱われているに過ぎない。しかしながら、企業・組織では、種々の固有技術と管理技術を活用しながら、それらを車の両輪として発展していく必要がある。

図2 技術とは

図2 技術とは

 

2.問題解決の基本ステップ

ここでは、企業・組織における問題解決のステップについて考える。問題解決をキーワードとした多くの冊子が出版されており、それぞれの著者がそれぞれの分野における手順を紹介している。以下に示す内容はその中の一つとして位置付けていただければ幸いである。

まず、問題解決全体の流れを紹介する。

問題解決は、組織において、⓪経営上の目的を達成するために、① 問題を把握し、②明確にし、③解決案を見出し、④意思決定し、⑤実施し、⑥評価し、⑦確立することである。
以下でこれらのステップについて具体的な内容を示す。

 

⓪ 経営上の目的

問題解決を行うためには、企業・組織が抱えている問題の方向性が示されていることが大切である。その方向性の上位にあるのが企業や組織の「理念」である。理念は、定款における組織の目的に明示されている内容につながる。次の段階が「方針」である。方針は経営者の意思が反映される。経営者が変わると方針の変更があることが多い。また、時代背景の変化により方針の変更が行われる。この方針に基づき、「目標」が設定される。目標には、5年から10年程度を期間とした長期目標、2年から5年程度を期間とした中期目標、1年以下を期間とした短期目標が考えられる。特に、短期目標では数量化した目標値を示しておく必要がある。

① 問題の認識

問題を認識する方法として「問題が与えられる」ことと「問題を発見する」ことの2つが考えられる。例えば、新人研修で現場に入り、その職場での問題が示されてその解決方法を考えて発表する、上司から直接この問題を解決してほしいと依頼されるなどの状況は、問題が与えられる場合である。一方、自ら現場に行き、この職場ではこのような問題があるということに「気づく」状況は、問題を発見することにあたる。管理者として問題発見力の向上は必須である。現場で長年働いているパートやアルバイトの方々はこのような気づきをたくさん持っており、それらをもとに現場の改善を進めることも管理者の役割である。

② 問題の明確化

問題を明確にするためには、「制約条件」と「目標・評価尺度」が必要である。先に示した「管理」の役割がここに登場する。範囲を区切ることは、制約条件を明確にすることである。また、目標や評価尺度が明確でないと問題が解決できない。問題解決に当たっているそれぞれの人が思い込みで制約条件や目標・評価尺度を勝手に決めて行動すると、問題が解けない状況になってしまう。従って、これらの要因を明文化し、情報の共有化を図っておく必要がある。

③ 解決案の導出

このステップでは、制約条件や目標・評価尺度を意識せず、より多くのアイデアを出すことが重要である。アイデアの導出は、全体を通じて最も難しいステップである。それは、こうしたら必ず多くのアイデアが出るという方法があるわけではないからである。発想法はその一つであり、参考資料3には30以上の発想法が紹介されている。ブレインストーミング法は一般的に良く利用され、それを整理するKJ法や親和図法がある。また、大谷翔平選手が高校時代に活用したマンダラートや、アイデアを図示しながら自由に広げていくマインドマップなど、自分が使いやすい発想法を見出すとよい。

④ 意思決定

③で導出された多くのアイデアの中から、良い案を選択するステップである。ここで②で設定された制約条件と目標・評価尺度が考慮されることになる。まず、アイデアの中で制約条件を満たしているアイデアを選択する。次にその中から目標・評価尺度に基づいて、最もよいアイデアを選択する。アイデアの数が少ない組織と、多くのアイデアを出した組織とを比較すれば、多くのアイデアを出した組織が優位となることは明らかである。それゆえ、③のステップの重要性が理解できるであろう。

図3 意思決定の考え方

図3 意思決定の考え方

⑤ 解決案の実行

ここでは、④で得られたアイデアの具体化とその試行を行う。例えば、実験を行う、シミュレーションにより種々の条件下での結果を比較検討するなどアイデアを具体化してその数値データを積み重ねて検討していく。うまくいかない場合には③や④のステップに戻り再検討する必要もある。

⑥ 解決案の評価

⑤で行った結果の最終的な評価を行う。⑤の段階でも検討されてきているがそれでも目標に達しない場合も発生する。一般に、プロジェクトを組んで現場の設計・改善を行うときには期限がある。この結果で良しとするか、引き続き期限を延長して進めるかの判断が必要となる。

⑦ 確立する

このステップでは、誰が行っても同じ結果が得られるように、標準化、手順化する活動が行われる。いわゆる「歯止め」である。設計・改善の活動を行ってもある特定の人だけが実現できる方法では、その人がいなくなると実行できなくなる。作業手順書は、作業者の研修でも必須の書類であり、これを整えていくことが重要である。

 

以上、管理技術と問題解決のステップについて示してきた。管理技術は問題解決を進めるうえで助けとなる技術である。次回は、問題解決のアプローチと評価尺度について考えることとする。

 

 


参考資料

  • 渡邉一衛「日本ロジスティックスシステム協会、日本インダストリアル・エンジニアリング協会での講義資料」2021年版
  • 西尾実ほか編「岩波国語辞典第6版」岩波書店、2007年(第5刷)
  • 星野匡著「発想法入門第3版」日本経済新聞出版社、2010年(第3刷)

 

前号   次号

ページの先頭へ