JAVADA情報マガジン3月号 フロントライン-キャリア開発の最前線-

2022年3月号

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40代・50代がキャリアデザインを考えるにあたって<2>
=50代の節目とキャリアデザイン=

オフィス キャリアステージKC 代表 菊地 克幸 氏 《プロフィール

私が講師を務める中高年の就労支援や働き方に関するセミナーでは、参加者から"50歳になった。このままで終わりたくない""次のステージを考えたいが具体的な方策が浮かばない""60歳を過ぎても働き続けたいが何ができるのか..."、といった声を多く聞く。50歳を過ぎて会社の中で自分に立ち位置がほぼ見えてきたり、55歳前後に役職定年を迎えたり、「定年」が頭をよぎる時、このままの自分でいいのだろうか、との思いが沸き上がってくるのだろう。

私は、人生の午後に入った50代のキャリアデザインを考えるにあたっても、<1>で述べた「エンプロイアビリティーの意識=社会人基礎力の確認×スキルギャップの認知×ポータブルスキルの獲得」は継続し、パーソナリティーを確認する視点で「VPI検査」も加えても良いのではないかと考えている。しかし、50代では、まず、働き方や生活スタイルに大きな影響を与える"ライフステージの確認"と節目での"Reset"から始めることを勧めたい。50歳を過ぎると、40歳代までと違い、年を重ねるごとに心身や生活環境に影響を与え兼ねない人生イベントが多くなり、それによって自分の置かれている状況=ライフステージも変化していく。私自身、ある朝、通勤途中の路上で普段とは違う胸の苦しさを感じ動けなくなった。その場は30分程で治ったが、いつもと違う違和感があったので夕方病院へ行くと、医者から不安定性狭心症の疑いがあると診断され、そのまま救急外来へ行くように言われた。検査が必要との診断で、人生で初めて緊急入院を経験したことがある。又、90歳の母親が自宅で転倒骨折、入院治療後のリハビリによる介護サポートなどもあった。こうした予期せぬイベントもあれば、主に妻の役割となっているが、共働きをしている二人の子供達夫婦の子育てサポートや住まいのリフォームなど自らが計画して行うイベントもあった。人生イベントによる自分を取り巻く環境の変化、自分の役割の変化、生活スタイルや働き方の変化、心身の変化は「老い先」に不安を抱きがちだが、「老い先」に悩むのではなく、「生い先」と捉えることが大事だと思う。変化への対応として、ブリッジズが「キャリアトランジッション(転機)1990」の中で述べている「転機において、何が変化するのか、変化による影響は何か、思い切って捨てるものは何か、終了した(する)ものは何か、安定しているものは何か、継続するもの・維持するものは何か」を考えることは、極めて大事なことだ。50代はこのことを認識した上でキャリアデザインを考える必要があると思う。

【図1 人生イベントと変化】

図1 人生イベントと変化

 

<節目ごとのReset>

①「心のReset」

私が一番大事だと思うことは「心のReset」だ。ブリッジズが転機で終わったものは何か」をしっかり認識し、「終わったことを引きずらない」ことだと言うものの、心のReset はある意味自分を変えることであり容易なことではない。終了した(する)原因に、辛さや口惜しさ、無念さ、悲しさ、寂しさなどの感情が混じっていれば尚更である。50代になってからの意に沿わない異動・出向、役職定年、定年、又業績不振等で心ならずも退職、予期せぬ会社の倒産、或いは大切な人との突然の別れなど...、これらにおける辛さは、他人が考える以上のものがあると思う。私の最後の転職は、一緒に立ち上げた社長の突然の死が大きな節目となった。熟考して自らの決断で退職し、新たなチャレンジとして全く未経験の領域であるこの職を選んだ。一からの再スタートなので収入の大幅な減少は覚悟の上であったが、いざスタートしてみると、あまりの生活の変化に本当にこれで良かったのかとの思いが数ヵ月、心の片隅方から離れなかった。あれだけ覚悟を決め、気持ちを切り替えたはずなのに、である。その思いが完全に吹っ切れたとき、新たな職業人生が前を向いて歩き始めたと思う。心のReset ができないと「自己概念」にも大きな影響を与え、自分が見えなくなって気力が萎えたり、自信が喪失して心の病(うつ病)になりかねない。50代のキャリアデザインの入り口として「心のReset 」はとても大事である。

 

②「体のReset」

体力は年とともに落ちていく。これは仕方のないことだ。体力は意識して維持する年代であることを認識すべきである。数年前の養命酒のTVCMに使われた前漢時代の東洋最古の養生書と言われる「黄帝内経」の身体観には、男は8の倍数で、女は7の倍数で変化するとある。人間の体は男性32歳、女性28歳でピークを迎え次第に低下していき、男女とも56歳で筋力が衰え体力が低下、男性64歳、女性63歳で心気が衰え始めるという。こうした体の変化は二千年を経た今でも医学的に当てはまると聞いたことがある。50代になったら毎日Wellnessの意識をもってResetするくらいの気持ちが必要だろう。離職や定年などの場合は特に注意をしたい。毎日が日曜日といったダラダラした過ごし方は決して良いことではない。働ける体を維持していくためにも、せめて毎日同じ時間に起きて、一日の生活のリズムを作りたいものだ。

 

③「働く意欲のReset」

会社での立ち位置が見えたと感じた時、役職定年、定年という節目では注意しよう。働き続けたいたいと思っているが、どこかで「意欲」に区切りをつけていないか。今まで一所懸命に働いてきたので、「これからはゆとりをもって」と考える。それはそれで良いが、「気持ちにゆとりを持つ」=「意欲に区切りをつける」ことではない。働く意欲は働き続ける限り、又どのような働き方を選択するにせよ重要だ。企業から見れば、働く意欲が中途半端な人、意欲の萎えた人を雇用したいとは思はないだろう。働く意欲は一度萎えると回復が思いのほか難しいと感じている。

 

④「働き方のReset」

働き方は仕事が求める役割など携わる仕事によって変わってくるが、自分のライフステージによってより大きな変化をももたらす。フルタイムで働きたいと思っても、自分の体調変化や親の介護、子供夫婦へのサポートなどのために叶わないこともある。「今」は何を優先して働き方を選択するのかよく考える必要がある。働き方は人生のイベントが多くなる「生い先」の中で変化していくことだろう。ライフステージに合わせた働き方が求められる。

 

⑤「生活スタイルのReset」

働き方の変化は当然収入(家計)にも影響を与え、生活スタイルの変化を余儀なくされることが多い。慣れ親しんできたこれまでの生活スタイルをResetすることは簡単ではないが、自分の役割、収入等に合わせた生活スタイルの再構築が必要ではないか。私の場合も50歳の転職時、大幅な収入減で廃車、保険の見直し等々生活水準や生活スタイルを変更した。その後も60歳、65歳、独立という節目で働き方と共に見直してきた。

【図2 人生の節目と5つのReset】

図2 人生の節目と5つのReset

"Reset"しないままにキャリアデザインを考えても積み上げてきたキャリアの活かし方が見えてこない。人生多毛時代。変化するライフステージに合わせ、シニア時代に向けたキャリアデザインを描くためにも5つの"Reset"は欠かせない要素だと実感している。 最後に、もう50代でなくまだ50代、これからも生き生き・ハツラツと働くために、人生100年、生活の質を高めるため、3つの「こう齢者」:年を重ねるごとに幸福感を増す「幸齢者」・好感度が良い「好齢者」・自分を耕し続ける「耕齢者」と3つの力:「生きる力・生活する力・つながる力」をご紹介してコラムを締めくくりたい。

【図3 人生100年の設計】

図3人生100年の設計

【図4 人生100年・3つの力】

図4 人生100年・3つの力

 


 

 

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