JAVADA情報マガジン2月号 フロントライン-キャリア開発の最前線-

2022年2月号

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40代・50代がキャリアデザインを考えるにあたって<1>

オフィス キャリアステージKC 代表 菊地 克幸 氏 《プロフィール

私、菊地克幸は長くクレジット関係の仕事に携わり数度の転職を経験してきた。50歳になる年に大きなキャリアチェンジを決断して、自らも設立に関わった米国自動車メーカーのクレジット会社から、業界も業種も全く異なる再就職支援会社に転職した。以来キャリアコンサルタントとして約16年半勤務し、主に中高年層を対象にしたキャリアコンサルティングを通じて就労支援、働き方、セカンドライフ、キャリアデザイン等に関するセミナーの企画・運営・講師になどに従事。2015年に独立して、現在は幅広い年齢層を対象に就労・キャリア形成支援、企業や職業訓練校等でのキャリア支援、セミナー講師、キャリアコンサルタントの育成などに携わっている。

私が20数年間のキャリア支援を通じて40代・50代に感じることは、今の自分のスキルを的確に認識していない人、色々な形で訪れる人生の節目において自分の役割変化への"自覚"や"Reset"ができていない人が意外に多くいることだ。こうした人達の多くは、40代では自己効力感が下がったり、自分の専門性に迷いが生じたり、キャリアの目標が揺らいだりしている。又、50代では自己概念さえもが揺らぎ、これからのキャリアの有り様に不安を抱いている。スキルの自覚や自分のライフステージでの役割やResetなしで前に進んでいくことは容易でない様子が伺える。

人生には幾つもの節目がある。役職定年など役割の節目、転職など自分で作り出す節目、還暦など年齢による節目、現況のコロナのような社会状況による節目や病気など突然訪れる節目もあるかもしれない。私も職業生活面では数度の転職という節目や個人生活面でも思わぬ入院など幾つかの節目があった。人生100年時代と言われて久しいが、ユングの言う「人生の午後」を迎える40代・50代は、時間の経過と共に訪れる一つの節目と言える。金井壽宏氏が著書「働くひとのためのキャリアデザイン」のなかで"正午より後には影であったところにも光があたる"と述べている。自分を振り返り、影を見つめること。見つめれば必ず新たな発見がある。私の経験からも「人生の正午」という節目で前に進むための大事な作業だと思う。

私が会社勤めを始めた1970年代の定年は55歳が主流であったが、その後法律により、希望すれば働き続けることが可能な年齢が引き上げられ、2013年の改定では2025年からは60歳から65歳に、更に2021年4月からは70歳までの雇用機会の確保が努力義務として求められるようになった。平均寿命の伸長、少子高齢化による労働人口の減少、年金問題等々様々な要因・背景があるにせよ、働き続けることが求められる時代になったことは間違いない。会社に全てを委ね定年まで保障された時代は去り、自らのキャリアは自らが考え創り上げていく時代になった今、人生の午後に向けての生き方、働き方は大きな課題と言える。

 

=40代の節目とキャリアデザイン=

人生の午後は午前と違ったキャリアデザインが必要になる。私は、人生の午後のキャリアデザインを考える上で重要な要素の一つが"エンプロイアビリティー"と考えている。しかし、支援をしていて働き盛りの40代の"エンプロイアビリティーの意識"の低さが気になっている。転職の機会でもない限り正面から自分と向き合い、振り返ることは殆どなく、その時間も持てないのが実情であろう。実は私も30代で外資系の新会社設立にそれなりの立場で関わり、その経験から人生の正午近くで転職して会社再建に携わった際、エンプロイアビリテーの意識は高くスキルも備えていると思っていた。しかし、実際に携わって、業務に必要なスキル不足を痛感し、改めて自分と向き合いスキルを見直した経験がある。スキルの過不足を認識した上で"意識して仕事に取り組むこと"でキャリアに磨きをかけるのが40代ではないかと考えている。第四次産業化革命といわれる変化の時代においては尚更のことだ。私は「エンプロイアビリティーの意識=社会人基礎力の確認×スキルギャップの認知×ポータブルスキルの獲得」と捉えている。この3つの視点を疎かにしてはキャリアデザインも描きようがないと思っている。

①社会人基礎力の確認:40代で社会人基礎力かと思う人もいると思うが、支援をしていて、どこまで身につけているのだろうかと思うことが少なくない。業務遂行の基本能力である社会人基礎力は、仕事や立場に関わらず必要な力であり、エンプロイアビリティーの基でもある。この社会人基礎力、いつの間にか意識の外に置かれて疎かになっていないか。30代までに積み上げてきたから大丈夫などと甘く見ず、2006年に経済産業省が提唱した3つの能力・12の能力要素と2018年の「人生100年時代の新社会人基礎力」で加えられた3つの視点をしっかり見直すことを勧める。社会人基礎力は何も若い人だけの課題ではない。

【図1 社会人基礎力】

図1 社会人基礎力

②スキルギャップの認知:業務に必要なスキルは時代とともに変化して行く。"今のスキルが「仕事が求めているもの・役割が求めているもの」に合っているかの確認を怠ってはならない。第四次産業革命時代では必要なスキルも多岐にわたるだろう。業務内容をしっかり把握し、意識して仕事に取り組まないとスキルは減価償却し陳腐化して行く。私はスキルギャップを自覚している人がどれほどいるのか不安を感じている。自分のエンプロイアビリティーを判断するためにもスキルギャップの認知は不可欠である。私自身も独立したとはいえ、時代に合ったコンサルティング力、講師力などにスキルギャップが生じていないか常に考えるよう心掛けている。

【図2 スキルギャップ】

図2 スキルギャップ

③ポータブルスキルの獲得:世界・政治・自然等々仕事を取り巻く多くの変化要因があり、変化のスピードも速い。コロナ禍であることも考えると先が読みにくい職業人生、一つのところに留まり続けることは考えにくくなっている。異動・転職に限らず仕事の仕方・働き方が多様化していく中で、時代に合ったポータブルスキルは適応力を高め、活躍する場を広げる武器となるはずだ。「仕事の仕方」や「人との関わり方」に関してコロナ禍で重要視されるスキルもあるだろう。人生の午後で自分らしさを発揮できるポータブルスキルは何か、節目ごとに棚卸をして確認することを勧めたい。

【図3 ポータブルスキル】

図3 ポータブルスキル

"エンプロイアビリティーの意識"を考える上で3つの視点に触れた。キャリアデザインを考える前に"不十分"と感じたら今すぐReset。‶木を植えるのは今"、まだ遅くない。植えた木は人生の午後の中で必ず成長する。

<1>の終わりに「人生Cha‐Cha‐Cha」。誰においてもキャリアに無駄はない。しかし、私は、仕事は「意識」して取り組んでこそ本物のキャリアになると考えている。意識の持ち方が人生を変える。私は30代の外資系会社への転職時、講師から「意識が行動を変え、行動が習慣を変え、習慣が人格を変え、人格が人生を変える」という言葉を聞き強く感じるものがあった。以来毎年手帳にこの言葉を書き、「日々新たな気持ち」で仕事に臨むことを心掛けている。「毎日の"意識"の持ちようが変化を生むきっかけを作る(Change)。自分の意識が変われば、自分も変わり日々新たな気持ちになる。自分を取り巻く環境も変わり、まわりの見方も変わってくる。そこに機会(Chance)が訪れる。漫然と毎日を送っていても機会は訪れない。訪れてもそれ(Chance)に気がつかない。チャンスに気づけばやってみる(Challenge)。新たな機会に挑戦する勇気も、意識の持ち方次第と言える。キャリアデザインは、「人との出会い、意識の持ち方、仕事の仕方」によって質と方向性が変わる」。これは私の40代のキャリア支援の姿勢でもある。

【図4 人生Cha-Cha-Cha】

図4 人生Cha-Cha-Cha

 


 

<訂正>
本文中、引用図書名の著者名に誤りがありました。
「働くひとのためのキャリアデザイン」の著者は正しくは金井壽宏氏です。 訂正し、お詫びいたします。(R4.3.17)

 

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