JAVADA情報マガジン9月号 フロントライン-キャリア開発の最前線-

2013年9月号

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キャリア相談のありかたをスタイルでとらえる(2)
 ~キャリア・コンサルティングの状況的アプローチという考え方~

HRDファシリテーションズ 代表 大関 義勝 氏 《プロフィール》 
 (前・キャリア・コンサルティング協議会理事・事務局長)

4.状況的アプローチ

前号の図1~図3(図1図2図3)の二元的なモデルにキャリア・コンサルタントの態度尺度(協働的⇔示唆的)とクライエントのレディネスを加えると図4のような領域を持った図として示される。

クライエントの状況は様々にあることから、これらの状況を「キャリア・ レディネス」(クライエントのキャリア意識・キャリア形成行動・ある種の能力など)として代表的に表現すると‥‥

「クライエントのキャリア・レディネスによって、キャリア・コンサルティング・スタイルを変えられる柔軟性を持つことがキャリア・コンサルティングの効果性を高めるとともにキャリア・コンサルタントの領域拡大と専門能力の向上に役立つ」と考えられる。

つまり、クライエントが違えば、キャリア・コンサルティングのスタイルも変わるし、同じクライエントであっても状況が変われば対応も変わるというきわめて当たり前のことについて、キャリア諸理論と対比して実践の中で意識することがキャリア・コンサルタントの成長に欠かせないのである。

状況的アプローチは2通りの考え方がある。

どのような状況にあるクライエントであるかによってはじめの接し方を決める。(多くはカウンセラースタイルから始まる)
同じクライエントであっても、一連のプロセスの中で状況が変化した場合はスタイルを柔軟に変える。(後戻りもありうる)

普段自分が行っているキャリア・コンサルティングの流れをかえりみて、固定的なスタイルでキャリア・コンサルティングをしていないかと自己点検することが大切である。ほとんどのケースに対して、いつもしている固定的なスタイルで対応するキャリア・コンサルタントは、KYキャリア・コンサルタント(空気が読めないキャリア・コンサルタント)と呼ばれることになるだろう。それは、傾聴という名の事情聴取や、指導という名の押し付けをしているのに気づかず、クライエントが来所しなくなったときに「あの人はいい加減なクライエントだなぁ」と他責して嘆くことになる。

《状況的アプローチの着想》キャリア・コンサルティングにおける状況的アプローチの着想の元となったものはP.ハーシーとK.H.ブランチャードによる「状況に呼応するリーダーシップ理論(SL理論:シチュエーショナル・リーダーシップ理論)」である。この理論は様々なリーダーシップ理論の中でも比較的新しく、それまでリーダーシップを解き明かすためにリーダーの特性で説明したり、リーダーの類型で説明したり、リーダーの機能で説明したり、様々な研究がなされてきた中から生まれてきたもので、「状況」という因子とメンバーの成熟度(マチュリティやレディネス)の関係の中で指示的リーダーシップ・支援的リーダーシップ・参画的リーダーシップ・委任的リーダーシップという4つのスタイルを使い分けることが効果的なリーダーシップを発揮できるとし、多くの国と企業で受け入れた考え方である。
(参考文献:「行動科学の展開」P.ハーシー、K.H.ブランチャード共著、山本成二、水野基、成田攻訳、日本生産性本部発行)

キャリア理論の世界においても、リーダーシップ研究と同様に過去から特性因子理論、職業発達理論、期待理論、意思決定理論、社会的学習理論、構造理論、機会遭遇理論、職業選択理論、転機理論等々の変遷があり、現場の実務家にとっては、これらの理論と実践との適合が課題のひとつとなっている。キャリア・コンサルティングにおける状況的アプローチの考えは、状況的リーダーシップの概念にキャリア理論を重ねてみることによって、簡便に自分のキャリア・コンサルティング・スタイルを振り返りしやすくするものでもある。

 

 

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