JAVADA情報マガジン フロントライン‐キャリア開発の最前線-
◆2011年11月号◆
第4回「人材開発の課題と今後の運用」 |
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【スペシャリストとアッパー・ゼネラリスト】第1回で述べたとおり、当社の経営理念にうたわれた「高度な専門性を備えたプロ集団」を形成するためには、まず若手や中堅社員といったベースライン強化が必要となりますが、並行して高度な専門能力を有するスペャリストが存分に力を発揮できるような配置政策も要求されます。会社が提供する価値を高め、成果の極大化を図るためです。 つまり、事業部組織のようなSBU(1)(ストラテジック・ビジネス・ユニット)内の人的資源管理においては、スペシャリスト集団の形成という明確な目的の下に、配置政策・人材開発施策が機能していくことが肝要となります。また、スタッフ部門についても、同様に高度な専門性に基づく企画・立案・調査・分析能力が要求されるため、経営企画・マーケティング・経理財務・人事労務・情報システムといったすべての職能組織において、経営補佐機能やラインへの助言・勧告機能の十分な発揮が求められることになります。 このように、経営課題が複雑化・深淵化する現代の経営環境においては、それに対峙できるだけの専門能力が必須となるため、第一義的には、スペシャリストの育成こそ人材開発戦略上の要諦ということができるでしょう。 一方、経営環境の不確実性がますます高まる中、組織を牽引するリーダー人材の育成は企業の浮沈に関わる重要な課題となっています。組織を牽引するリーダーには、組織凝集性を高め、目標達成に向かって人を導くエンパワーメントが要求されます。そこには、特定分野の専門知識は必ずしも必要ではなく、むしろ、意思決定に必要な知識を幅広く保有し、組織構成員の内発的動機付けを高めるとともに、適切な意思決定に結びつけることができるダイナミズムが必要となります。したがって、こうした経営リーダーの育成は、スペシャリストの育成とは異なるアプローチによって取り組んでいく必要があるでしょう。 当社では、経営リーダーに求める要件として、まずは優れたスペシャリストであることを挙げています。これは、自身の専門分野において、他者を凌駕(2)する専門性を具備できたという実績そのものが、その社員のポテンシャルの高さを証明したことであり、組織を牽引する資質を有している、との判断によるものです。現在の専門能力の高さではなく、そこに至るまでのコンピテンシーの高さを認めるということです。つまり、一芸に秀でた人材は、他の分野でも十分にその力を発揮するだけのタレント性を保有しており、集団浅慮(3)に陥ることなく、高い視点から複雑かつ多岐に亘る経営課題を解決に導くことが期待できるという帰結になります。 そして、こうした基幹人材に対しては、ラインとの軋轢(4)を恐れず全社的視点に基づく配置を行い、困難なミッションを課す一方、教育資源の積極的な投入を行うなど、意図したアッパー・ゼネラリスト育成策を展開することが喫緊(5)の課題であるといえるでしょう。
【ミドルマネジメントの育成】こうしたアッパー・ゼネラリスト候補の対象となってくるのがミドル・マネジメント層です。ミドル・マネジメントとは文字通り中間管理職を指します。当社ではグループ長(課長クラス)がこれに該当しますが、トップの掲げた経営目標をブレークダウンし、組織の末端に至るまで方針を浸透させ、実行状況を管理しながら目標達成に向けて誘導していく、いわば連結ピンの役割を担う企業経営上の枢要(6)なポジションとなります。 ミドル・マネジメントの育成にあたっては、たとえば教育プログラムの充実化、サクセッション・プラン(7)の導入等、選抜・育成施策の積極的な展開に目が行きがちになりますが、その前提として、組織のミッションをしっかりとコミットし、何が何でも目標を達成せんとする気概・メンタリティの醸成を図ることがより重要であるといえます。したがって、事業特性や企業風土を踏まえた社員格付、評価、処遇等の人事諸制度が有機的に機能しながら、ミドルのマネジメント行動そのものをスパイラル・アップさせ、経験を積ませることによって育成を果たしていく、という基本をまずは重視すべきであると言えるでしょう。
【サクセッション・プラン】しかしながら、アッパー・ゼネラリスト育成のためには、社外リソースを活用した先進的な育成プログラムの導入が不可欠なのもまた事実です。それは、経営戦略、経理、財務、マーケティングといった知識や、論理的思考力、リーダーシップといったスキルなど経営者として必須となる能力の醸成を図ること、他企業との異業種交流やチーム・ビルディング(8)による課題解決行動を通して高い視座を涵養(9)させることなど、社外資源に頼らざるを得ない研修項目があるためです。 従来は教育機会の均等付与という考え方が強く、幹部候補を選抜した特別教育は実現に至りませんでしたが、新興国市場の急成長に伴うグローバル化の急激な進展、経営組織の変容、団塊世代に代わるコア人材層の若返りなど、経済・経営環境が大きく変化する中、企業を牽引していくリーダー層には、変化に即応できる能力基盤の装備が求められます。つまり、リーダー層にこそ、教育資源を積極的に投入すべきであるということです。このことは「経営者とは果たして育成すべきものなのか」という命題に対する積極的な挑戦であり、役員が「好業績者の上がりポスト」ではなく、経営リテラシー(10)という高度の専門性を必要とする最高専門職であるはず、という前提の上に取り組むべき課題であると考えます。 しかし、ミドル・マネジメント層の中から適材を選抜し、アッパー・ゼネラリストとして育成していくためには、解決すべき多くの課題が横たわっているのも事実です。
特に、研修修了者のキャリアパスについては、所属部門の抱え込みやそれ以前の問題としての後任者不在の問題、あるいは重要課題の意思決定を伴う実践経験をどう積ませていくのかという問題など、配置・任用という根源的な課題が重く伸し掛かっている状況にあります。今後の本格導入を見据え、こうした課題一つひとつと真摯に向き合い、トライ&エラーを繰り返しながら制度の定着・浸透に取り組んでいきたいと考えています。
【おわりに】全4回にわたり、当社の人材育成とキャリア開発の実際についてご紹介してまいりました。経営理念の実現と経営計画の確実な達成のために人材開発はいかにあるべきか、という普遍的な課題認識を持ちつつ、即応性を求められる課題に対し、タイムリーかつ効果的な対応を重ねていかなければならないという点で、人材開発担当者の多くが課題を共有しているのではないかと推察します。また、マンパワーや予算など、投入できる資源には限りがあるため、講じる施策にも自ずと制約が生じてしまうのも現実であると思います。 しかし、「教育は国家百年の計」と称されるように、企業の人材開発というテーマは、その企業の将来を左右する重要な経営課題となります。私は、この点について経営者と認識を共有し、万難を排して人材開発諸施策の位置づけを高めていくことが、人材開発担当者に課せられた使命であると考えています。人材開発の重要性を共有した組織には、能動的な「学習する組織」としての好循環が生まれ、社員の自律的な能力開発行動を引き出すことが期待できるからです。正に、人材開発担当者の熱意と腕の見せ所といえそうです。
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