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◆2011年9月号◆
第2回「人材開発の基盤となる人事制度」 |
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【基幹人事制度】前回は、当社の人材育成方針とキャリア開発の視点についての概括的な考え方を述べてみましたが、人材育成の成否は、育成や配置の仕組みに止まらず、その企業における社員の重要度をヒエラルキー(1)化した社員格付け制度(職能資格制度や職務等級制度等)の設計思想や、これを含む基幹人事制度運用の巧拙が重要なポイントになります。 つまり、当社はどんな社員を重用していくのかという期待する社員像と、それを段階的に実現していくための社員格付け制度・人事評価・昇格運用といった基幹人事制度の実際が人材育成の方向性を決してしまうからです。たとえば、年功色の極めて強い人事制度が定着している企業では、社員は若いうちから能動的な自己啓発を継続するかというと疑問が残りますし、逆にいわゆるノルマ管理的な成果主義を徹底的に貫いている企業であれば、社員間の優勝劣敗の構図が鮮明となり、社員の流動化が促進されるなど、「人を育てる文化」は定着しにくくなることが想定されます。 このように、社員処遇の基軸となる基幹人事制度は、社員一人ひとりを動機付けたり、逆にヤル気を削いだりというように、社員のメンタリティに大きな影響を及ぼすことになります。したがって、社員の自律的な成長を促すためには、社員処遇の哲学を確立し、それを具現化できる基幹人事制度を整える一方、制度に込められた精神を隅々まで浸透させていく努力が求められると考えます。 当社の基幹人事制度の特徴は概ね次の点に集約されます。 1.社員格付け制度(図表1)
2.人事評価制度当社は業績評定と行動評定の2種類の人事考課を1回/年実施しており、評価結果は昇給、賞与、昇格それぞれに反映している。
3.昇格(降格)の運用
【職能資格制度と職業能力評価基準】前述した基幹人事制度の中で、人材育成の観点からまず重視すべきは、一般社員に適用される職能資格制度です。この制度は、職務遂行能力の発展段階に応じた適正な処遇を実現すること、等級毎の職能要件の明示により能力開発の羅針盤としての機能を担保できることなど、優れた設計思想に基づく特長を有しています。 しかしその反面では、当社も含め多くの企業が、年功的な格付けを行う、職能要件のメンテナンスが進まず陳腐化させてしまう等、運用面の拙さも手伝い、元々曖昧な「能力」概念の序列化を徹底できず、制度本来の機能を自ら変質させてしまう結果を招いていたと言えます。更に、その能力の捉え方が、その企業固有の基準で定義されていることから、その企業内での経験の蓄積=年齢や勤続年数といった年功要素が序列決定の最大の説得材料となってしまい、職務遂行能力を客観的基準で評価するという本来的な機能は十分に発揮されていなかったということができます。 当社は、平成16年に職能資格制度の大幅な改定を実施しましたが、その際重視したのは、自身の担当職務分野において、他社でも通用する汎用的な専門能力を具備することであり、そのガイドポストとして、信頼性を有する外部インデックスの活用を試みました。 それは、厚生労働省が策定した「職業能力評価基準(事務系職種)」であり、当社に存在するほぼすべての職務について、レベル区分(4段階)、職務行動例、その職務を遂行するために必要となる知識等が能力細目毎に整理されており、当社はこれを最大限活用することにより、職群別職能要件書に取り入れる形で活用することにしました。(図表2) これにより、上位職群に昇格するためにはどんな知識・能力を身につけていかなければならないのか、そのためにどんな学習が必要になるのかというように、自身のプロモーションと能力開発目標とがリンクすることになり、制度の可視化と透明性の向上を図ることができたと自認しています。
【目標管理制度と人事評価】当社は平成8年から目標管理制度による業績評定を導入しています。この制度も運用を誤ると単なるノルマ管理に陥り、自己統制を通して計画的に目標を達成していこうという制度本来の目的が損なわれることになります。当社の目標管理制度はオーソドックスなスタイルだと思いますが、運用面で注意を払っているのは、①管理職の組織業績は厳格に個人評価に反映すること、②一般社員は結果だけでなくプロセスも重視するとともに、目標そのものをストレッチ(水準を引き上げる)し、チャレンジ性を織り込むことであり、この目標管理のサイクルそのものが、極めて有効な人材育成施策になり得ると考えます。(図表3) また、日常の職務行動(目標達成行動に止まらず、目標項目以外の職務行動を含む)全般について、職群毎に求められる職務行動(コンピテンシー)に対し、実際にどんな行動をとっていたかを評価する行動評定もまた、社員の行動特性を分析し、効果的な指導を行っていくうえで重要な評価であり、いずれも単に昇給・賞与・昇格の査定ツールに止まらず、的確な指導と動機付けが必要条件とはなるものの、貴重な人材育成施策として機能していくことが期待されます。 このように、人事評価結果は、社員格付け制度と相まって、自社が追求する社員像に対して在籍する社員の水準がどうなっているのか、不足する知識・スキルは何なのか、本人の職務適性にマッチした適正な配置がなされているかなど、育成のニーズを発掘するうえでの情報の宝庫となります。しかし、評価情報が有用性を持つためには、当然に精度が求められるため、評価技術の向上は言うに及ばず、あらゆる評定エラーを排除するため、評価者に対する継続的な指導が必須になってくることは言うまでもないことです。
【配置政策】当社の取扱商品は会社の規模の割には多岐に亘っており、7つの営業部門が製鉄、非鉄金属、総合建設、自動車、建設機械、電機、機械と、凡そ我が国の基幹産業に位置する業種の殆どと対面する幅広さとなっています。このことは、業界毎の商慣習、当社のポジショニングの決定的な違いに繋がり、更に社員のキャリア形成についても無言の障壁を作り出す構造となっています。 つまり、1つの業界で培った経験・知識・人脈等は、その業界内での無形の知的資産となるため、簡単に部門を跨いだ異動が行えない環境にあるということです。したがって、社員からすれば、一旦配属された部門を変わるということは、それまでの職業キャリアをリセットするに等しいインパクトがあるということになります。 こうした硬直性を余儀なくされる配置の実際を踏まえ、社員のキャリア形成の視点からは、若年層社員の自己申告による異動希望を可能な限り実現させること、そして、次世代幹部育成の視点からは、会社を牽引する幹部候補については、強制的に複数部門を経験させることで、アッパー・ゼネラリストとしてのキャリアを積ませるなど、制約の中でも実現可能な配置政策のオペレーションに腐心しているところです。 しかし、社員の価値観の変化や労働力の漸減傾向を勘案すると、将来に向かっては、自律した社員が能動的に自身の職業キャリアをデザインし、その実現を会社がサポートする体制を構築し、個人の成長と会社の発展を同時に実現していくという崇高な理念こそ、配置政策の根底に据えるべき考え方とすべきでしょう。
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