JAVADA情報マガジン フロントライン‐キャリア開発の最前線-
◆2011年8月号◆
第1回「人材育成方針とキャリア開発の視点」 |
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【会社概要と経営理念】トピー実業株式会社は、1947年に鋼材問屋として創業した商社であり、その後数度に亘る合併により事業領域を拡大し、現在では、鉄鋼原料、非鉄金属、一般鋼材、機械設備、自動車用ホイール、建設機械部品、情報通信機器等多彩な取扱商品群を有しています。売上高は1,238億円、従業員数は327名(いずれも2010年度単体ベース)と、事業規模としては典型的な中堅企業に位置づけられます。 経営理念は『私たちは、高度な専門性を備えたプロ集団として、グローバルな視野を持ち、お客様・市場に対して、「限りなく良質の商品とサービス」を提供し、「安心と信頼」を高めると共に、トピーグループの専門商社として、広く社会に貢献し、躍進し続ける企業を目指します。』と明文化されています。 人材が唯一無二の経営資源である商社にとって、「個」のレベルアップは正に企業の存続・成長のための生命線となってきます。「人」がビジネスを生み、さらに価値を創造することによって顧客の信頼を得ると共に、そのビジネスの過程で掴んだノウハウや当社ならではの強みといった有形無形の資産の蓄積が、事業の方向性を決する側面を持っているため、高度の専門性をいかにして具備していくかが理念を実現するための最大のポイントになります。
【人材育成方針】当社の人材育成方針は、図表1によって表わすことができます。成果主義人事の進展、社員の自律意識の高まりを背景とした企業と個人との関係性の変化を踏まえ、人事管理(配置・任用・評価・処遇・能力開発)面における個別管理の比重を増しながら、経営戦略・中期計画との連動・一体化を図ったうえで、経営目標の達成と社員の成長を同時に実現していく、つまり「人材育成とは正に経営課題そのものである」という確固たる認識が、組織全体に浸透していることが重要であり、経営課題の解決に整合的な人材開発計画の策定が人事部門に課せられた命題であると言えます。 そして、人材開発計画を個別の教育施策にブレイクダウンし、実行・評価していくサイクルをスパイラルアップしながら、時に軌道修正を恐れない姿勢が、実効性を伴った人材育成施策の昇華に結びついていくものと考えています。 しかし、経営理念に明記された「高度の専門性を有するプロフェッショナル」は、一朝一夕に育成できるものではありません。そのため、段階的かつ合目的な取り組みが必要となってきます。具体的には次のポイントに力点を置いた人材開発を推進しています。
【人材開発体系】具体的な人材開発施策は、2001年に策定した「能力開発基本計画」をベースに、前述した人材育成方針を踏まえて図表2のとおり体系化しています。基本計画を策定した当時は、人員削減や事業の再構築といったリストラクチャリングが一段落し、縮小していた教育訓練投資を復活させるタイミングであったため、凡そ考えられる教育施策を単に網羅的に配した内容となっていました。 2004年には、経営トップの人材育成に対する強い問題意識を受け、当社の経営戦略上の課題を解決するための人材育成のあり方について、トップ層自らがその有り様を模索し到達ゴールを定めていくという趣旨で「人材育成プロジェクト」を設置し、役員・人事部がその活動を牽引しました。具体的には、社員各層へのサーベイ、他社へのヒアリング、学術的な研究等を重ね、育成の方向性、求める人材像、具備すべき能力などを明示し、人材開発の方向性をトップが共有し推進する体制が整いました。 しかし、人材開発体系とは、単なる教育メニューの提示に止まるものではなく、組織構造や人事制度といった制度インフラの有機的な連関を通して整備されるものです。そして何より影響が大きいのは「風土・文化」であり、当該組織を構成する社員全員が醸し出す平均化された心理的特性がサイレント・マジョリティ(声なき多数派)を形成し、社員の行動に影響を及ぼすという点に注意しなければなりません。つまり、自律的に自己を成長させようとするメンタリティをいかに組織全体に浸透させていくか、モチベーションマネジメントの効果的な展開は、人材開発を機能させていくうえでの普遍的課題になると言えるでしょう。 前述したとおり、当社の従業員は300名程度であり、人材開発を展開するうえでのリソースには限りがあります。しかしながら、人材開発の必要条件となる教育投資はシームレスに実行し、少なくとも人材育成に対する姿勢の面で、大企業の後塵を排することのないよう意志を貫いていきたいと考えています。
【キャリア開発の視点】ここでは最狭義の職業キャリア~社内におけるキャリア開発に対し、会社としてどう向き合うべきかについて考えてみます。従来、企業はCDPの導入を図りながら、個人と組織両者の欲求を合致させ両者をともに発展させようと腐心してきました。しかし、近年では採用人員の減少、職務の高度化、短期業績を重視した成果主義の浸透等の影響もあり、計画的なジョブ・ローテーションを実施しにくくなったとの声をよく耳にします。 当社においても、事業部制組織が成熟期を迎え、短期業績へのコミットメントが強まった結果、特に中堅以上の専門能力を有する人材の囲い込みが続いています。高い理想とは裏腹に、組織サイドの都合と、職業生涯設計に対する自律性を封印した個人により、CDPの推進は困難を極めている状況にあります。 しかし、経営環境の変化は、従来にない人材スペックを要求します。自部門のプロ養成に止まらず、複数部門に跨る知識・経験を必要とする職務、事業部門のリーダーではなく経営者としての専門能力等、単なる若手育成のためのローテーションでは対応できない複雑なニーズに直面しています。したがって、全社的視点に基づく配置政策と、社員の自律的なキャリア形成を喚起するキャリア政策を同時に展開する必要があるのです。 そのためには、やらなければならないこと(経営目標=MUST)を、やりたい(価値観・動機=WANT)と思う社員が、できる(知識・スキル=CAN)しくみをいかに整備していくかがポイントになってきます(図表3)。つまり、「個」に焦点を当てた能力開発とは、教育体系のみならず、社員のキャリア形成に企業がどう関与し、どう実現させていくかという一連のプロセスにあると言えます。MUST-WANT-CANが一致したとき、それは生き生きとした目標・意思(WILL)となり、企業活力の原動力になっていくと確信します。 その意味で、社会人としての節目節目で、自身の職業生涯設計をデザインし、その実現に向けた具体的な能力開発施策を、企業・従業員が一体となって計画的・段階的に施していくキャリア形成支援への取り組みは、昨今の若年労働者の職業価値観の変容や雇用の流動化を勘案すると、ますますその重要性が高まっていると言えることでしょう。
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