JAVADA情報マガジン10月号 キャリアに関する研究者からの提言【キャリアナウ】
◆2013年10月号◆
人口構成の高齢化は絶好のビジネスチャンス(その1) |
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1.世界の最先端を行く日本の高齢社会日本の特徴は高齢化のスピードが速いこと日本社会の高齢化率(全人口に占める65歳以上の割合)は20%を超え、世界で最も高い水準になっている。政府は、公的年金の財政状況が厳しくなってきたため、年金の支給開始年齢を65歳に向かって引き上げている。今年4月に、改正高年齢者雇用安定法が施行され、企業に対して、65歳まで何らかの形で雇用の場を確保することが義務づけられた。 日本の高齢化の特徴は、そのスピードの速さにある。『平成22年版高齢社会白書』によると、高齢化率が7%を超えてからその倍の14%に達するまでの所要年数(倍化年数)は、フランスが126年、スウェーデンが85年、比較的短いドイツが40年、イギリスが47年であったのに対し、日本は、1970年から1994年の24年間で7%から14%になった。日本以上に高齢化のスピードが速いと予測されているのが韓国である。図1にあるように、2020年以降、急速に高齢者の割合が増加していく。 スピードは各国まちまちだが、高齢化自体は世界的な傾向である。図1に示されているように、ヨーロッパ諸国はもとより、アジア各国も確実に高齢者の割合は高まっていく。その中で先頭を切っているのが日本なのである。世界の最先端を行くとは、お手本がないため、自分たちで道を切り開いていかなければならないことを意味する。たいへんな道のりである。しかし、見方を変えれば、これほどチャレンジングでおもしろい課題はないとも言える。 事実、世界の国々は、日本の高齢化対策に注目している。ドイツの研究者は、「ドイツの高齢化問題は、日本よりも5年遅れてやって来るという印象を持っている。そのため、日本の施策の成功失敗を注意深く研究している。」と話す。お隣の韓国や台湾からは、多くの研究者が日本を訪れ、高齢化対策を研究している。いまや日本は、高齢者活用の分野で世界に範を示す国になっている。
人類の理想を実現しつつある日本日本の高齢化のスピードが速いのは、長寿化と少子化が同時に発生しているからである。不老長寿は、昔からの人類最大の目的であり、日本はその目的を達成しつつあると言うこともできる。それは、平均寿命だけでなく、健康寿命も世界有数だからである。2010年の平均寿命(0歳児の平均余命)は、男性79.64歳、女性86.39歳、同年の健康寿命(心身ともに自立して健康に暮らせる年齢)は、男性70・42歳、女性73・62歳だった。厚生労働省基準の健康寿命と世界保健機構(WHO)基準の健康寿命には、両者の定義の違いによって若干の差があるが、健康に長生きするという点でも日本は世界のトップを走っているのである。 このように書いても、心の晴れない読者は多いと思う。「確かに世界の最先端かもしれないけれど、人口構成の高齢化は問題ばかり多くて、決して手放しで喜べるようなものではない。社会保障費の負担は年々増大するし、公的年金に対する不安も増すばかりだ。未来に希望など持てないではないか」という声が聞こえてきそうである。 社会は、それぞれに問題を抱えている。暴動やテロなど生命の危険と隣り合わせの国や国民の大半が飢えに苦しんでいる国、言論が統制されていて自由に意見が言えない国など、日本ほど安全で自由な国は他に数えるほどしかない。人口構成の高齢化は確かに問題だが、解決できない課題ではない。しかも、世界中の国が日本の動向を注視し、成功した施策は他の国の指針になる。国民経済の規模では中国の後塵を拝するようになったが、高齢化問題への対策では、他国から尊敬され、模範となることができる。日本の叡知を世界に示せる絶好の機会である。
2.高齢者の労働意欲の高さは日本の財産図2は、60歳以上の有職者を対象に、いつまで働きたいかを内閣府が調査した結果である。2008年(平成20年)の結果を見ると、最も多いのは「働けるうちはいつまでも」(39.9%)であり、「70歳くらいまで」(26.1%)がそれに続いている。60歳を過ぎて働いている人は、元気なうちは働きたいと考えていることがわかる。 このデータをヨーロッパの研究者に見せると、彼らは異口同音に「日本はいいな」と言ってくれる。高齢者雇用に関わる問題を解決するには、経営者が持っている高齢者に対する偏見(高齢者はコストが高いとか使いづらいといった思い込み)と、働く人たちの勤労意欲(高齢期になっても働き続けたいと思うこと)を同時に解決しなければならない。ヨーロッパの人々には、早期引退願望が根強いため、高齢者雇用を進めるには、人々の考え方を変えていくことが欠かせない。それには大きなエネルギーが必要である。企業が持っている高齢者に対する偏見だけでなく、働く人々の気持ちも同時に変えていかなければならないのだから、二重の課題を背負っていることになる。 それに対して、日本では、従業員側の労働意欲の問題はほぼないに等しい。あとは、企業側の偏見を打破し、働きたいと思っている人が働けるようなしくみを作っていくことである。働く意欲があっても働く場がなければ、意欲を維持することは難しいからだ。高齢者が持っている「就業希望意識」を大切にしなければならない。そのためには、60歳代以上の人たちは、引き続き日本社会を支えていくだけの能力を持っており、働き場所も確保されることを具体的に示すことである。日本はなかなか良い位置にいることが、ヨーロッパ諸国との比較から見えてくる。
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