JAVADA情報マガジン11月号 キャリアに関する研究者からの提言【キャリアナウ】

2013年11月号

←前号 | 次号→

人口構成の高齢化は絶好のビジネスチャンス(その2)

法政大学 経営大学院イノベーション・マネジメント研究科 教授
  藤村 博之
氏 《プロフィール

3.高齢者がイノベーションを起こす

イノベーションの出発点は問題に気づくこと

企業が競争を生き抜くにはイノベーションが必要である。イノベーションとは、新しい技術や仕組みを生み出すことであり、一般的には、若年層や壮年期の人によって担われると考えられている。しかし、組み合わせ方を変えることもイノベーションの一形態であり、その分野で高齢者が活躍できる範囲は広い。

ピーター・ドラッカーは『イノベーションと企業家精神』の中で、イノベーションの例をたくさん示している。割賦販売の仕組みを導入して農機具を買う資金を持たなかった農民が農機具を手に入れられるようになったこと、トラックの荷台を切り離してコンテナとして貨物船に積み込めるようにしたこと、17世紀の半ばにチェコで発明された教科書を使った教育方法など、今となっては当たり前になっていることが実は当たり前ではなかったことがわかる。

イノベーションの出発点は、私たちが感じている問題や不自由さである。何かうまくいかないとか、もう少しこうなったらいいのに、といった感覚から、新しい製品やサービスが生まれてくる。高齢者が増えてくると、これまでは問題にならなかったことが問題になる。それにいち早く気づくのは高齢者自身である。それゆえ、従業員の中に変化に気づける人、すなわち高齢者がいないと、企業はイノベーションの種を見逃してしまうことになる。

不自由さに気づいたら、それへの解決策を考え出すチームを作る。若年層、中堅層、そして高齢層を混合して編成することが有効である。高齢者は、長い職業生活の中で蓄えてきた情報が豊富である。若年層や中堅層は新しい技術を知っている。これら年齢の異なる層が議論することで、新たな「知の創造」が起こる。

例えば、高齢者にとって当たり前のことが若手には理解できない場合がある。そんなとき、高齢者は、若手にわかってもらえるように説明を試みる。言葉を選び、具体例を示しながら言葉を綴る。すると、そこから新たな発見が生まれる。読者の方々にもご経験があるのではないだろうか。誰かに説明するために話していると、自分自身の考えが整理され、物事の新たな側面に気づくことが...。

 

組み合わせがイノベーションを起こす

高齢者の持つ知識や経験が単独で生きることは少ないと考えられる。でも、そこに別の情報を組み合わせることで、世の中にはなかった新しいものが生まれてくる可能性がある。例えば、プロジェクトチームの中に海外駐在経験が豊富な高齢者を加えると、議論の幅が広がる。日本の社会インフラは、世界一整っている。停電はまれだし、鉄道は正確に運行されている。郵便は正確に届くし、ほぼ24時間欲しいものを買うことができる。このような便利さは、日本にずっと住んでいると当然のことになり、その素晴らしさがわからなくなる。海外に初めて赴任した日本人が最初に面食らうのは、生活面の不自由さである。

しかし、現地の人たちはその中で普通に暮らしている。不自由さや不便さを補う生活の知恵を持ち、快適に生き、人生を楽しんでいる。海外駐在経験者は、そのような実態を目の当たりにし、さまざまなことを考えてきた。日本のことしか知らない若手や中堅とは異なる視点を提供できるはずである。

このようにして、高齢社会の不自由さをいち早く解決する財・サービスを生み出すことができれば、これから高齢化する他の国々に売ることができる。1960年代の公害問題に苦しんだ日本が、世界最高の公害防止技術を生み出したのと似た現象がこの分野でも起こることになる。

65歳以上人口が全人口の4分の1を超えるような社会は、私たちにとって未知の領域であり、不安になるのは当然である。しかし、他国も同じように高齢化しているいま、大きなビジネスチャンスにあふれていると考えることもできる。果敢に挑戦して世界の範となることが日本の使命である。

 

4.高齢者雇用が日本復活のカギ

少子化の責任者は誰か?

高齢者を雇用しようとすると、マイナス面ばかり強調する人たちがいる。今回の法律改正にともなう60歳以降の雇用義務化についても、経営者から後ろ向きの発言が相次いだ。「公的年金に関する政策運営の失敗を民間企業に押しつけるのか」という趣旨の意見がその代表である。あたかも自分たちは被害者であるかのような言い方に違和感を覚えたのは、筆者だけではないと思われる。

公的年金の財政運営が厳しくなっているのは、少子化と長寿化が同時に進んでいるからである。少子化は、女性が子どもを産み育てたいと思うような社会を作ってこなかったことに起因している。1990年代以降、多くの日本企業は、安定した収入を期待できる正社員の数を極力抑えると同時に、子育て世代の従業員に長時間労働を求めてきた。このような人の使い方が少子化に拍車をかけていることを認識すべきである。

公的年金の仕組みは法律によって定められ、法律は国会の議決を経て制定される。政府の政策が悪いというのなら、法律を決める国会議員に責任があることになる。国会議員は、私たち国民が選んでいるのだから、結局は、選挙権を持つ国民が責任を負わなければならない。他責では何も解決しないのである。

 

経営者の決断が欠かせない

高齢者は体力が落ちていて動作が鈍い、新しい技術に対応できない、頭が硬い、文句ばかり言って動こうとしないなど、問題点を指摘し始めればいくらでも出てくる。しかし、そういった意見をはねのけ、高齢者雇用が持つプラスの側面を強調して企業の人事施策の中心に据えるには、「これはわが社にとって必要なことだから断固進める」という経営者の決断が欠かせない。

経営者をその気にさせるには、ダイバシティ・マネジメントの考え方を強調すると良い。人口構成の高齢化は、お客様が高齢化することを意味する。顧客が本当に必要としているものは何かを知るには、従業員の中に顧客の気持ちのわかる人たちがいなければならない。すなわち、高齢の従業員である。

企業の目的は、世の中の困っている人に解決策を提供することである。その解決策をお客様が使ってくださり、支持してくださるからこそ、売上が立って従業員に給料を払えるのである。企業である以上、利益を出すことは必要だが、利益は結果であって目的ではない。もし、企業が利益をあげることを第一の目的として行動するならば、その企業は早晩衰退していくだろう。

日本企業の経営者が高齢者雇用の持つ可能性と重要性をしっかりと受け止め、先頭を切って挑戦するようになれば、日本は世界中から尊敬される国になるはずである。「日本復活のカギは高齢者雇用にある」と言っても過言ではない。

 

 

前号   次号

ページの先頭へ