JAVADA情報マガジン7月号 キャリアに関する研究者からの提言【キャリアナウ】

2013年7月号

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1.大学生の実態と大学におけるキャリア教育

日本体育大学 体育学部 教授 本間 啓二 氏 《プロフィール

(1)大学におけるキャリア教育の実施の背景

キャリア教育は、小学校、中学校、高等学校で主に実践されていたが、大学審議会でも検討されるようになり、「グローバル化時代に求められる高等教育の在り方について」が2000年に答申され、「教育振興基本計画」にも初等中等教育段階から高等教育段階に至る教育の連続性に配慮し推進するように示された。その後、2011年の中教審答申「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方」では、生涯にわたる社会人・職業人としてのキャリア形成を支援する機能を充実させることが必要であるとした。

大学でのキャリア教育の具体的な取り組みが進み始めたのは、2010年に大学設置基準の中に第42条の2が新設され、2011年4月から施行となり、大学等の設置認可審査において、改正内容を踏まえて審査を行うようになったためである。新設項目の内容は「大学は、当該大学及び学部等の教育上の目的に応じ、学生が卒業後自らの資質を向上させ、社会的及び職業的自立を図るために必要な能力を、教育課程の実施及び厚生補導を通じて培うことができるよう、大学内の組織間の有機的な連携を図り、適切な体制を整えるものとする。」と示された。教育課程の編成における取扱いでは、教育課程の内容と実施方法に関する方針を定める中で、個別の授業科目のシラバスや、体系的な教育課程の編成を通じて、社会的・職業的自立に関する指導等の在り方を明らかにし、学生に対し、その内容の理解を図ることが求められ、その実施に当たっては、産業界や各種団体をはじめとする社会との連携と協力に努めるように示されている。更に、社会的・職業的自立に関する指導等の取り組みについては、広く社会に説明し公表していくことが求められた。 このような背景から、各大学等で、キャリア教育の実施について大学教育の柱として広く広報を図るようになったのである。

 

(2)大学生の実態

近年、高等教育機関への進学率の上昇に伴い、将来の生き方・働き方について考え、自らの強い意志で進路を選択・決定することなく、将来に向けた進路の展望や目的意識が希薄なまま、とりあえず進学する者が増加していることが問題とされている。

大学生の実態としては、AO入試など学力選抜を受けない学生の割合が増え、それまでになかったほどの基礎学力の低い学生や授業中の私語、勝手な行動など受講態度やマナーなどの生活指導や履修指導といった個別支援が必要な場合も多くなっている。また、将来の進路が決まらないままに入学してくる学生が4割以上となり、目標や目的を見失った学生への中途退学の防止にも苦慮している。

このようの状況の中で大学生は、大学進学の目的意識も明確に持てずに、無責任な態度や弱い自我意識とともに、対人関係能力やコミュニケーション能力だけでなく、基本的生活習慣やマナー等、職業人として必要とされる基本的な能力・態度も未成熟であり、職業への理解や職業観の未熟さ、働くことへの関心・意欲の低さなどが数多く指摘されている。

 

(3)大学生の自己理解

大学生であっても自らの個性理解や職業理解があまり進んでいないのが現状である。業界研究や職業研究、自らの将来展望なども十分な準備ができている学生はそれほど多くはない。学生にとっての就職活動は、これまでの人生の中でも、最も重大な岐路に立たされた大きな試練であると言える。これまでの学校での生活からいよいよ社会に出て働くようになり、職業世界に出て行く不安や戸惑い、焦りなどから、冷静に判断しにくい状況におかれている。若者達と職業との出会いは、初めての経験ばかりで、困難と失敗の連続である。しかし、その経験を通して社会人として、職業人として成長していくのである。

ホランドの職業選択理論の中には、「人は、自分のもっている技能や能力が生かされ、また自分の価値観や態度を表現でき、かつ、自分の納得できる役割や課題を引き受けてくれるような環境を探し求めている」と示されている。学生たちも自分が生かせる世界はどこにあるのか、自分の思いや価値を共有できる仲間はどこにいるのか、どの世界なら生きがいを持って働くことができるのかといった事柄を知りたいと思っている。

 

(4)自己理解を深化させる職業適性検査の活用

若年者用に開発されている厚生労働省編一般職業適性検査(GATB)やVPI職業興味検査、職業レディネステストなどは、職業選択のツールとして有効に活用されていくことが望まれている。

GATBは、11種の紙筆検査と4種の器具検査による15種類の下位検査から、9つの適性能を測定することができ、職業的能力の得意・不得意を知ることができる。

VPI職業興味検査と職業レディネステストでは、「ホランドの6類型」によって職業興味の志向性を知ることができる。

検査実施後は、自分で結果が解釈できるようにワークシート形式の「結果の見方・生かし方」を使ってプロフィールの作成とその特徴の解釈や適性職業群の確認ができるようになっている。職業適性検査のため適性職業群とのマッチングを図るように設定されているが、特に進路希望がなく将来やってみたい職業などがわからない場合には、適性能や職業興味から選ばれた職業群の中から、関心のある職業を選んで職業調べを進めてみる。希望する職業がある場合には、希望職種の課業を探し、検査結果から浮かび上がった適性能や職業興味が、職業の中のどの課業と一致するか、一致しない課業にはどのようなものがあるかなどを調べ、職業についたときの働き方や適応の仕方をシュミレーションすることができる。

どの職業についても得意な仕事と不得意な仕事があり、興味関心が持てる仕事もあれば興味の持てない仕事もある。一所懸命にやってもうまくできない場合や喜びをあまり感じない場合がある。このようなときに仕事に対する不安や不満が生まれてくる。適性検査の結果を理解し、自分にとって適性の低い仕事であることが分かっていれば、興味がもてなくても我慢して取り組んだり、不得意でも覚悟して取り組むことで結果が変わってくる。どの職業についても自分のよさを発揮できる場面ばかりではなく、不得意であったり、好きでない仕事を任される場合が多いものである。自分の職業適性を理解することで、うまく職業の中で自分を生かしていく場所を見つけていくことができるなど、職業への不適応を防ぐ効果は大きいと言える。若者に対する職業適性検査の結果の活用が、単に適性職業群を提示するだけではなく、学生の個性や職業適性への理解を深化させ、生涯にわたる人生選択の指針となるよう期待したい。

 

 

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