JAVADA情報マガジン6月号 キャリアに関する研究者からの提言【キャリアナウ】

2013年6月号

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ホワイトカラー資格の可能性 ~日米英調査に基づく考察~(3)

大分大学 経済学部 教授 宮下 清 氏 《プロフィール

3.日米英ホワイトカラーの資格評価

最終回となる今月は、日米英ホワイトカラーの資格に対する評価や取得状況について、調査結果(2009)に基づき報告します。日米英企業の人事、経理、営業、情報システムの四部門に所属する大卒ホワイトカラー、各国各部門から100名、国毎に400名、計1200名が調査対象者で、平均40歳前後、課長・専門職等の役職者が回答者の過半数を占めています。

 

(1)資格の効用

まず資格がどのように役立っているかとの資格の効用についての回答から、取得資格の評価には日米英三カ国でかなりの相違がみられた。特に「人事評価」「昇進」に有効との評価はアメリカ・イギリスでは4割程度あったのに対し、日本では1割程度に留まった。日本で4割と最も高かったのは「知識技能の社会的評価」で、給与や昇進での資格の効用を評価したアメリカ・イギリスの結果とは大きな違いがある。

また今後、資格を取得した場合としての評価は、アメリカ・イギリスでは「給与」「転職」「異動」「昇進」で有効との回答が5割前後となり、2~3割となった日本での評価との相違がみられる。一般的な資格についての認識やこれまでの調査結果からも、日本では資格の持つ雇用・評価・報酬等への直接的な効用はあまり認められておらず、資格制度が発達しない理由の一つと考えられる。

 

(2)資格取得の意向と希望分野

今後、取得したい資格について、日本では調査対象ホワイトカラーの8割以上が取得したい資格があると回答し、資格取得への強い意向が見出された。これは5割前後であったアメリカ・イギリスでの取得意向に比べても高く、資格の効用に対する評価とは相反するように思える。そうなった理由の一つとしては、日本のホワイトカラーは自己啓発や学習意欲が高いこと、それらが資格を通して実現されることが考えられる。さらに、日本においては資格の間接的・長期的な効用が存在しているものと思われる。そうした効用は高い人事評価や昇給には直結しないが、資格取得で示される向上心や前向きな姿勢が中長期的には評価を押し上げている。これはアメリカ・イギリスでの昇給・昇進などによる直接的・短期的な効用と対照的なものである。

今後、取得したい資格の具体的な分野・領域としては、日米英で共通し3割前後と最多になったのは「経理・財務」の資格であった。「経営・戦略」と「情報系」分野の資格が2割前後で続いた。日本では「経理・財務」がとりわけ高く、ここに集中していたことと、アメリカ・イギリスと異なり、「外国語」が二位となったことが特徴的である。日本にはホワイトカラーの仕事に関連する資格が少ないことやアメリカ・イギリスではMBAをはじめとするビジネス系学位が充実していることが影響したと考えられる。

 

(3)日本での取得資格

日米英ホワイトカラーが回答した取得資格と今後取得したい資格とは具体的にどのような資格であろうか。第1回に記した正社員に対する国内調査では「英語検定」が3割程度と最多となり、「技能検定」「日商簿記検定」「基本情報技術者」が1割程度で続いていた。今回の国際調査の集計結果から、各国の総計および国毎の人事、経理、営業、情報システム、四部門の取得資格を概観し、それらの特徴を明らかにする。

日本の総計(400名)では「簿記」が51件で最多、次いで「情報処理」(19、以下カッコ内は件数)「税理士」(13)「フィナンシャルプランナー(FP)」(11)となった。経理・財務、情報に関する資格が上位にあげられるが、これらの資格が経理や情報などの関連部門のみならず、全部門で取得されていることは注目すべき点である。

部門別にみると人事部門(以下、部門は省略)の最多は簿記(7)で、社会保険労務士(4)、税理士(3)、FP(3)と続く。経理では簿記(25)、税理士(9)、公認会計士(3)の順であった。経理は資格取得数が最も多い部門である。営業においても簿記(11)が最多となり、情報処理(9)が続いた。情報システムでは簿記、情報処理、FP (いずれも8)が多かった。日本では経理を除き、部門毎の専門資格(ホワイトカラー資格)がほとんどないため、簿記など全部門で共通に取得されている資格が多くあることが特徴である。

 

(4)アメリカでの取得資格

アメリカではMBAを含む「修士学位」が48件と総計(400名)で最多となり、「CPA」(公認会計士,22)、「学部学位」(12)、「IT資格」と「SHRM(人事管理協会資格)」(共に11)が続いた。取得資格はそれぞれの専門職務の部門に集中し、資格と職務(部門)の明確な対応がみられる。

部門別にみると、人事はSHRM(11)、MBA、Master、CPA(共に4)、学部学位(3)となり、専門資格であるSHRMに集中していた。経理ではCPA(18)、MBA(9)、Master(6)とやはり専門資格のCPAの取得に集中した。営業部門では専門資格が見当らず、Master(8)、MBA(5)と学位資格が取得されていた。情報システムはIT資格(11)、Master(11)、マイクロソフト資格(7)と専門資格と学位資格の双方で取得がみられた。アメリカではホワイトカラー資格として専門資格の浸透と共に、Master、MBA等の修士学位の取得も多くみられる。

 

(5)イギリスでの取得資格

イギリスの総計(400名)は「学部学位」(31)、「会計士資格」(30)、「IT資格」(30)、「CIPD」(人事教育協会資格,18)、「経理資格」(17)の順であった。MBAを含む「修士学位」は16であり、アメリカほど多くはならなかった。取得資格の総数は166と三カ国で最多(日本136,アメリカ120)となり、社会的な資格の浸透が伺える。

人事ではCIPD(18)が最多で、学部学位(13)、Master(5)の順となった。経理はCA/ACCA/ACAのような会計士資格(30)、CIMA/AATなどの経理資格(17) に集中した。営業はやはり資格が少なく、学部学位(11)以下、Master(5)、NVQ(3)、MBA(2)、CIM(2)等に分散した。情報はマイクロソフト/Ciscoを含むIT資格(30)に集中し、他には学部学位(8)、MBA、Master(各2)が取得されていた。イギリスでは専門資格が学位よりも多く取得され、伝統的な専門組織によるホワイトカラー資格が確立している。

 

(6)日米英のホワイトカラー資格

これまでみてきたように、アメリカやイギリスでは専門組織による資格(ホワイトカラー資格)が職務部門と対応し、一定の位置付けを得ていることがわかる。日米英三カ国の資格についてまとめてみると、日本では職務と直結する資格はないものの、資格取得には間接的かつ中長期的な有効性があると考えられる。アメリカでは専門組織による資格と大学・大学院の学位資格が併存し、それらの資格は直接的短期的に有効とされている。イギリスでは資格が重視され、多くの専門資格が存在し、一定の社会的位置付けを得ている。

今回のような調査結果だけから、日米英三か国のホワイトカラーや資格の状況をすべて的確に把握できたとは言えないものの、資格を取り巻くある程度の状況や一つの視点は示すことができたと思われる。資格の制度、活用のあり方については、アメリカ・イギリスのような資格制度の浸透や確立を目指すことが必ずしも良いとは言えない。日本においては、日本の社会、経営、雇用、育成や評価に適合した制度が求められる。一方、グローバル化の進展と共に、国際業務や人材の交流を進めるためには、一定のグローバル基準や共通の枠組みも重要となる。

今後のさらなる人材育成、グローバル化への対応から、学位資格とも連係したホワイトカラー資格、また日本の良さ・強みを生かした資格・制度の発展に期待したい。

 

以上、3ヶ月にわたり、日米英の調査結果に基づきホワイトカラー資格の可能性を論じてきました。新しい概念だけに、今後の有意義な論考に少しでも役立てていただければ幸いです。ご一読を頂き、誠にありがとうございました。


〔参考文献〕

  • 安藤喜久雄「能力主義時代の会社意識と仕事意識」雇用開発センター『資格・キャリア形成と人材開発』雇用開発センター,1994, 2-10.
  • 今野浩一郎・下田健人『資格の経済学』中央公論社,1995.
  • 藤村博之「公的資格取得と労働移動」連合総研編『創造的キャリア時代のサラリーマン』日本評論社, 1997,135-146.
  • 宮下清「ホワイトカラーの職務能力と公的資格」『日本労務学会誌』第7巻2号, 2005, 15-27.

 

 

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