採用基準と採用方法
みなさんの会社では、どのような学生を採用したいと考えているでしょうか。コミュニケーション能力が高く、積極性があり、自ら問題を発見し解決する能力がある、いわゆる社会人基礎力の高い学生でしょうか。あるいは、特定の技能を持った即戦力となる学生でしょうか。しかし、このような学生は、自社だけでなく他社も獲得したい人材であることに間違いはありません。また、採用方法も新卒採用サイトや合同企業説明会で母集団を形成し、書類審査、採用試験、グループワーク、面接といった行程を経て採用を決定するという、これも他社とほとんど同じような方法がとられていることが多いのではないでしょうか。つまり、多くの会社が同じような特性を持った学生を、同じような基準と方法で選別しているといえます。
大学教員として、これまで就職活動をする学生を見てきましたが、社会人基礎力の高い学生は、多くの企業からの内定をいただいています。その場合は、会社規模や将来性、仕事内容や就労条件などが比較要素となり、学生にとって有利な企業を選択することとなります。結果として、内定を出した会社の大多数は、せっかく内定を出したにも関わらず内定辞退という残念な結果となります。私も、企業の人事部に在籍した時には、学生の内定辞退連絡に、「こんなに一生懸命採用活動したのに」という、内心では腹立たしさを覚えたこともあります。
求められる発想の転換
ところで、みなさんは「マネーボール」という映画を見たことがあるでしょうか。この映画は元プロ野球選手のビリー・ビーン(俳優:ブラッド・ピット)がメジャーリーグのオークランド・アスレチックスのゼネラル・マネージャーとして、リーグ優勝するまでの道程が描かれたノンフィクション映画です。私は授業の中で、イノベーションや組織変革を考えるための教材として学生に見せることがあります。この映画のあらすじを少しだけお話ししますと、アスレチックスは優秀な選手を獲得することができないほど貧乏な球団でした。そこで、ビリー・ビーンはこれまでメジャーリーグの各球団で伝統的に行われてきた選手獲得や起用方法をやめ、データ重視の運営方法に球団が勝つための突破口を見いだします。この運営方法によって、彼はチームを優勝に導くことに成功します。この映画は、企業の人事を担当される方々に採用に関するヒントを与えてくれると思います。
このような一律の採用の考え方から脱却した例について、服部(2016)は、新潟県にある製菓会社の採用方法を紹介しています。その会社では「応募者数=内定者数」という理想を求め、心からこの会社で働きたいと思っている人にアプローチする方が効率的だと考え、エントリー者数の獲得を目指したナビサイトの活用をやめてしまいます。そして、「新潟で働ける?(=ニイガタ採用)」、「おせんべいが好き(=おせんべい採用)」という日本一短いエントリーシートを用いた採用活動を行っています。その他にも、企業側が学生の指定する場所に面接に出向く出前面接など、これまでにはなかった方法で採用活動が行われ、首都圏などからの採用も増加しているといいます。
通年採用で変化する採用
経団連は新卒学生の就職活動について、春の一括採用に偏った慣行を見直して、通年採用を広げていくことで大学側と合意しており、2022年春入社から通年採用が広がっています。こうした通年採用の動きからは、これまでの横並びの一括採用と年功序列そして終身雇用を象徴とする日本型の雇用慣行が大きく変わろうとしています。
この数年の学生の就職活動を見ていますと、新型コロナウイルス感染拡大の影響もあり、就職活動の早期化、そして内々定取得の早期化が感じられます。学生との接触を早期に持ちたいという企業の表れが、インターンシップであるといえます。インターンシップは本来、企業が学生に就業体験の場と機会を提供し、基本5日間程度のプログラムに学生が参加する制度です。このインターンシップの学生にとってのメリットは、
1)ワークショップや実務体験などの活動を通じて、より企業側との接点がもてるため、具体的に会社の雰囲気を感じることができる
2)実務を体験してみることで、職場の雰囲気や業務内容が理解できミスマッチを防ぐことができる
3)参加した学生がグループで活動することで学生同士の交流が生まれ、就職に有益な情報を得たり、就職活動を支えあう仲間づくりも期待できること
4)実務に関わることを現場の従業員に聞けるなど社会人と接する機会となること
などでしょう。
しかし、ここ数年、採用活動の一環として1dayインターンシップを開催する企業が急増しています。この1dayインターンシップは、当初は企業説明会と同じような内容であることから、私は「企業セミナー」として従来のインターンシップと区分けし、参加は学生の自主性に任せていました。最近では内容も工夫され、学生にとっては合同企業説明会などでは知りえない企業の雰囲気に触れることができ、企業研究や業界研究にも活用できるため参加するよう勧めるようになりました。さらに、1Dayと中長期のインターンシップを組み合わせて実施する企業も増えているようです。つまり、1Dayインターンシップに参加した学生の中から、興味のある学生を次のステップとして5日間のインターンシップに参加してもらうなど、最終的には採用選考までを視野に入れた取り組みがなされています。企業にとっては、参加する学生は自社に関心を持って参加しているので、こうした学生との継続的な交流によって、学生の傾向やニーズを掴み、今後の採用活動に反映することができます。
インターシップの内容に関しても、社内ベンチャーに取り組んでいる会社では、学生に新規事業提案をインターンシップの課題としたワークショップを実施している会社もあります。そのような会社のインターンシップに参加した学生からは、高評価が聞かれています。自社の事業を学生たちと考えることで、学生たちは働く楽しさを感じられるだけでなく、企業にとっても斬新なアイディアや事業のヒントが生まれる可能性があるという、双方にメリットがあります。また、多くの企業では、インターンシップ学生と接する企業担当者は若手社員が多いと思います。むしろ、若手社員ではなく、中高年がすべてを取り仕切っている会社は、若手社員の活躍の場が少ない会社とも考えられ、学生には組織の雰囲気をよく見るように指導しています。社内では若手であっても、学生からみれば立派な社会人であり、「この先輩社員のようになりたい」「この人と一緒に働いてみたい」として、入社を決めた学生を私は何人も知っています。また、若手社員がインターンシップに関わることで、自社の採用活動に関わっているという責任感が普段とは違うモチベーションになることも期待できます。
人手不足が社会問題になっている現在、いかに優秀な人材を獲得するかが、企業成長のためには重要です。マイナビ(2020)では、インターンシップに参加した学生は79.8%であり、平均参加社数は4.5社であったことを報告しています。これまでは、社会貢献や会社の認知度を高める目的でおこなわれていたインターンシップでしたが、今では会社への志望度を高めるためや母集団形成など直接採用につなげる目的でも活用されています。学生の多くはインターンシップを経験することで、その企業への志望度が高くなったという調査もあるようです。インターンシップを効果的に実施することで、より自社に合った学生の採用につながるメリットもあると思われ、自社にあった活用方法を見つけたいものです。
【参考文献】
- 服部泰宏(2016)採用学, 新潮社.
- マイナビ(2020)2022年卒大学生 インターンシップ・就職活動準備実態調査(10月).
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