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2021年5月号

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大学・短大におけるキャリア支援の今
 第5回 オンラインによるキャリア支援について
     ~新型コロナウイルス感染症対策としての取り組みと課題~

宮城大学事業構想学群 教授
   高橋 修 氏 《プロフィール

「大学におけるキャリア支援のリアル」をテーマとするこの連載では、キャリア支援を、①正課教育としてのキャリア教育、②課外セミナー・ワークショップ、③個別相談という3つの活動の総体として捉えています。最終回の今回は、オンラインによるキャリア支援についてお伝えします。

 

1.新型コロナウィルス感染症対策を契機としたオンラインによるキャリア支援

筆者の前任校では、従来、キャリア教育、課外セミナー・ワークショップ、個別相談はすべて、講義室やキャリア支援センター内の個別相談室における対面状況の下で実施してきました。しかし、2020年に入って以降、新型コロナウィルスの感染拡大が懸念される状況となってきたことから、キャリア支援センターの活動についても、感染拡大を防止し学生の健康と安全を守る対応策が求められるようになりました。そこで、2020年4月から順次、対面状況による支援からオンラインによる支援に切り替えました。

 

2.オンライン授業によるキャリア教育の実施

教室で実施する授業でなくても、教員がインターネット等を介して十分な指導を行い、かつ、学生の意見交換の機会が確保されていれば、大学が履修させることのできる授業として認められています(平成13年文部科学省告示第51号 )。対面授業に対し、このような授業を「遠隔授業」または「オンライン授業」と呼びます。そして、オンライン授業の基本的な形態は、「オンデマンド型授業」と「リアルタイム型授業」に大別できます。

オンデマンド型授業では、学習管理システム等を利用し、教員が用意した教材をもとに学生が個別に学習します。学生は、自分の好きな時にインターネットにアクセスして学習管理システム等にログインしたうえで、講義動画や講義資料を用いて学習します。一方のリアルタイム型授業では、Zoom等のビデオ通話システムを利用し、教員が無人の教室や研究室等からオンラインで授業の配信を行い、学生は同じ時間にその通話システムに参加して視聴したり、他の学生とディスカッションしたりします。

取り組みの一例を挙げますと、筆者が担当した「ライフ・キャリアデザインB」では、ゲスト講師を招いた5回はリアルタイム型授業を行った結果、ゲスト講師と学生間での質疑応答が活発に行われました。一方、心理検査の実施などの個人ワークを通して自己理解を深めることをねらいとする10回では、オンデマンド型授業を実施しました。このように、各授業回の目的に照らして授業形態を選択しましたが、まだまだ試行錯誤の段階です。

 

3.セミナー動画のオンデマンド配信

キャリア支援センターでは、それぞれの発達段階に必要となる知識を伝えることを目的として、課外セミナーを講義室において対面形式で行ってきましたが、2020年4月以降に開催予定であったセミナーを全てオンライン(セミナー動画のオンデマンド配信)に切り替えて実施しました。

その結果、8月末日までの視聴者数は配信した6講座合計で、前年度同時期に開催したセミナー(対面形式6講座)の参加者数を約20%上回る結果となりました。時間的なメリットや地理的なメリットというオンライン形式の特徴が現れたかたちとなりました。

 

4.オンライン個別相談の現状と課題

第4回で述べたように、キャリア支援センターでは従来から事前予約制にて対面での個別相談を実施していました。しかし2020年4月からは、新型コロナウィルスの感染症対策として、ZoomやGoogle Meetを用いたビデオ通話による個別相談(以下、オンライン個別相談という)を実施することとしました。

ここでは、オンライン個別相談を利用した学生を対象としたアンケート調査の結果(高橋 修・冨田京子・猪股歳之「オンラインによるキャリア支援の取り組み-新型コロナウィルス感染症対策を契機として-」東北大学高度教養教育・学生支援機構紀要第7号,2021年)の一部をご紹介しながら、オンライン個別相談の現状と課題を明らかにしたいと思います。

オンライン個別相談を利用するメリットについて、9つの選択肢を示して5件法(1:全く当てはまらない~5:非常に当てはまる)で尋ねました。そして平均点(5点満点)を算出した結果が図1です。「キャリア支援センターまでの移動時間が必要ないこと」4.56点、「自宅などで受けられるので、利用できる時間の選択肢が広がること」4.29点と時間的なメリットが上位となりました。次に、「キャリア支援センターとは離れたキャンパスにいても利用できること」3.81点、「大学から遠方の実家にいても利用できること」3.76点と地理的なメリットが続きました。さらには、「あまり家から出たくない気分の時でも利用できること」3.50点と心理的なメリットも3点を超えていました。

図1.オンライン個別相談を利用するメリット

図1.オンライン個別相談を利用するメリット

次に、オンライン個別相談のデメリットや不都合な点については、6つの選択肢を示して同様に5件法で尋ねました。図2は、それらの平均点(5点満点)を算出した結果です。「Wi-Fiなどのインターネット接続環境が不安定で、フリーズしたり切断したりしやすいこと」3.52点、「パソコン、タブレット、スマートフォンなど機器の不具合が発生しやすいこと」3.33点と技術的なデメリットが上位となりました。また、「タイムラグが発生するので、会話の間合いがとりにくいこと」3.19点や、「モニター越しの会話のため、相談員との親近感を持ちにくいこと」3.18点とオンラインに固有なコミュニケーションに関するデメリットも3点を超えました。

図2.オンライン個別相談のデメリットや不都合な点

図2.オンライン個別相談のデメリットや不都合な点

さらに、個別相談に対する要望を複数回答で尋ねた結果が図3です。「1回当たりの相談時間を長くしてほしい」24.3%や、「個別相談の枠を増やしてほしい」21.3%と相談機会の拡充を求める意見が多くなりました。また、「今後も、ビデオ通話による個別相談を実施してほしい」24.3%とオンライン個別相談の継続を望む声も多かったです。その一方で、「対面での個別相談を復活させてほしい」(16.0%)という要望にも留意したいところです。学生にとって現在の選択肢はオンライン個別相談しかありません。しかし、例えば「相談内容がエントリーシートの添削指導なので対面で相談したい」、「来週はキャリア支援センターの近くに行く機会があるので、対面で相談したい」という場合もあるでしょう。反対に、「あまり外に出たくない気分なので、オンラインで相談したい」という時もあるでしょう。つまり上述の要望は、学生自身の状況に応じて対面とオンラインのいずれかを選択できるようにしてほしいという意思の現れと解釈できます。

図3.個別相談に対する要望(複数回答)

図3.個別相談に対する要望(複数回答)

そこで今後は、新型コロナウィルスの感染状況を考慮しつつ、インターネットの接続環境の不安定さやパソコン等の不具合、オンラインに固有なコミュニケーションの不自然さ等のデメリット(図2)を改善したり、1回当たりの相談時間や個別相談の予約枠を拡充してほしいという要望(図3)を踏まえたりしながら、対面での個別相談とオンライン個別相談とを併用していくことが課題といえるでしょう。

 


 

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