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2021年4月号

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大学・短大におけるキャリア支援の今
 第4回 個別相談の現状と課題について
     ~相談内容、相談体制(実施日時、相談員)~

宮城大学事業構想学群 教授
   高橋 修 氏 《プロフィール

「大学におけるキャリア支援のリアル」をテーマとするこの連載では、キャリア支援を、①正課教育としてのキャリア教育、②課外セミナー・ワークショップ、③個別相談という3つの活動の総体として捉えています。この第4回では、個別相談の現状と課題についてお伝えします。

 

1.個別相談の内容と体制(一例)

大学における個別相談の現状をお伝えするために、一例として筆者の前任校のケースをご紹介しましょう。この大学のキャリア支援センターでは、事前予約制にて対面での個別相談を実施しています。相談時間は月曜日から金曜日の10時から17時で、1回当たりの相談時間は原則として30分です。相談員は、キャリアコンサルタント等の有資格者である専任教員、特任教員および非常勤相談員の計10名が担い、年間延べ約3,000件の相談に対応しています。

図表1は、キャリア支援センターで対応している個別相談の内容です。延べ相談件数の内訳をみますと、③就職に関する相談が70%弱、②インターンシップに関する相談が約14%と、この2つで全体の約8割を超えているのが現状です。

図表1 個別相談の内容

図表1 個別相談の内容

また、⑥個別相談in東京は2017年度から継続して実施しています。年間を通して週に1日程度、新宿に借りている就職活動拠点へ仙台から教員が交替で出張して対応しています。教員の負荷や出張経費は小さくありませんが、学生からは「東京で就職活動をしているので、新宿でも個別相談ができるのはありがたい」、「週に1日ではなく、もっと新宿での開催日・時間を増やしてほしい」などの声が寄せられています。

 

2.個別相談を行ううえでの留意点

学生に対しては、毎回「個別相談利用案内」を提示して、記載内容に関する同意を得たうえで個別相談を行っています。図表2はその抜粋です。

図表2 個別相談利用案内(抜粋)

図表2 個別相談利用案内(抜粋)

この利用案内ではまず、専門の相談員(キャリアコンサルタント等)が相談内容に応じることや、すべての悩みや問題を解決するというものではありませんが、目標達成や問題解決のための支援をすることなど、個別相談の趣旨や進め方を説明しています。

そのうえで、相談内容についての秘密は厳密に守られること、キャリア支援センターの相談員間での情報共有を行うことがあること、自傷他害のおそれがある場合等には、例外的に本人の同意が得られなくとも関係者に情報を開示することもあることなど、相談内容の守秘について明示しています。

さらに、相談の記録をとり、学籍番号や連絡先等の個人情報とあわせて保管しますが、キャリア支援センターの相談員・関係者以外は相談記録を閲覧することはできませんと、学生の個人情報が厳重に保護されることを説明しています。

一方、相談員に対しても、①相談者を国籍・性別・年齢・心身の障害等によって差別することなく、専門家として相談者との信頼形成に努めること。②個別相談を通じて知り得た事実、資料、情報について守秘義務を負うこと。③個別相談に関係する資料や情報を厳重に管理すること、などを求めています。また、個別相談の質的向上のために、利用者に毎回事後アンケート(個別相談の満足度とその理由、要望事項等)への回答を求めていることを伝えています。

 

3.利用者の声

学生による事後アンケートでは、個別相談の満足度を5段階で評価してもらい、その理由を聞いています。その一部をご紹介しましょう。概ね満足度は高くなっています。

  • 現在の悩みだけでなく、進路選択の先でどんな悩みに陥る可能性があるかという点まで話をしていただき、考えの幅を広げてもらうことができました。
  • インターンシップについてよく分からないまま利用しましたが、自分の知識のレベルに合った話をしてくださり非常に参考になりました。
  • こちらの状況を把握して、とても親身になってアドバイスをしていただけました。これからの就活に対する自分の考え方や方針を固めるのに役立ちました。
  • 志望動機や自己PRなど、わかりやすく整理していただけました。加えて、その他就活の悩みについても相談に乗っていただけました。
  • いい感じの緊張感があったため、面接本番の対策になりました。またフィードバックがとても丁寧で、改善すべき点やよかった点などを指導していただきました。
  • 今後の就職活動の不安を親切に聞いてくださり、とても安心することができ、気持ちを固めることができました。これまで何度も相談に乗っていただきました。おかげさまで、第一志望の企業から内定をもらうことができました。

一方で、以下のような意見や要望も寄せられています。真摯に耳を傾ける必要があります。

  • 個別相談の枠が埋まっていることが多くて大切な時機を逃してしまうので、枠を増やしていただけたら嬉しいです。
  • 1回の相談時間をもう少し長くして欲しいと思いました。
  • エントリーシート(ES)の添削を頼みましたが、改善点がゼロなのは逆に不安にも思いました。
  • 公務員の相談枠がすぐに満員になるので、何かイベントを開いて欲しいです。
  • 発達障害学生向けの就職活動についての書籍や情報など揃えてほしいです。

 

4.個別相談の課題

最後に、上述した学生による事後アンケートの結果も踏まえながら、今後の課題を指摘したいと思います。まず、年間を通して利用者数の推移を見極めながら、相談需要に対応できる相談枠を確保することが求められます。

また、個別相談を繰り返す学生の中には、希望する進路や就職が叶わずに強いストレスを感じて、日常生活や学生生活に支障を来たすケースも散見されます。配慮を要する学生に関する情報共有の場を設けるなど、保健管理センターや学生相談所との連携強化を図る必要があります。

さらに、2020年2月頃からは新型コロナウィルスの感染拡大防止が喫緊の課題となりました。そのため、毎月実施していた個別相談in東京は、3月の実施を見送りました。また、キャリア支援センター内での個別相談については、学生の入退室時にアルコール消毒をする、マスクを着用する、相談員と学生との距離を空ける、換気を良くするなどの対策を講じたうえで実施しました。その後、オンラインによる個別相談に切り替えましたが、この点に関しては次回にお伝えします。

最終回の次回は、オンラインによるキャリア支援についてお届けします。

 


 

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