JAVADA情報マガジン3月号 フロントライン-キャリア開発の最前線-
◆2021年3月号◆
大学・短大におけるキャリア支援の今 |
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東北大学高度教養教育・学生支援機構キャリア開発室准教授 |
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「大学におけるキャリア支援のリアル」をテーマとするこの連載では、キャリア支援を、①正課教育としてのキャリア教育、②課外セミナー・ワークショップ、③個別相談という3つの活動の総体として捉えています。この第3回では、課外セミナーやワークショップの現状と課題についてお伝えします。
1.課外セミナーやワークショップの実際(一例)図表1は、筆者の勤務校における課外セミナーの年間スケジュールをおおまかに示したものです。ご覧のように、学生のキャリア発達段階(Step1~Step4)に応じて、各種のセミナーを開催しています。開催時期は、5月~7月を第1クール、10月~2月を第2クールとしています。 図表1 課外セミナーの年間スケジュール(一例) ![]() Step1:大学生活・進路を考えるでは、大学院へ進学するか就職するか(特に理系学生)、就職するならどのような職業を選択するか、という多くの学生が直面する悩みを取り上げたセミナーを開催しています。主に私のようなキャリア教育担当教員が講師を務めますが、女性のキャリア、グローバル人材、大学教員など各回のテーマに沿ったゲスト講師を招くこともあります。 Step2:自分を知る(自己理解)では、なぜ自己理解が必要なのか(目的)、何について自己理解を深めるのか(内容)、どのように自己理解を行うのか(方法)などについて解説します。その上で自己理解を自己PRの作成につなげられるように促します。 Step3:社会・仕事を知る(職業理解)では、インターンシップに関するセミナーを開催しています。ここでは、低学年を対象とした比較的長期の就業体験を伴うものから、採用活動に直結するような短期間のものまで様々なタイプがあることを解説します。そして、それ故に自分がインターンシップに参加する目的を明確にした上でインターンシップ先を選ぶようにと学生に伝えています。また、業界・仕事研究セミナーでは、業界研究や仕事研究を行う目的や具体的な方法について解説します。さらに、ワークルール(労働法)のセミナーでは、就職後の社会人として、あるいはアルバイトをする学生として知っておきたい労働者の権利や義務について解説します。このセミナーは、法律に基づいた正確な情報提供が求められますので、講師は地元の労働局などにお願いをしています。 Step4:就職活動に備えるでは、まず就職活動の進め方に関するセミナーを開催しています。ここでは、現在の就職活動の流れやスケジュール、留意点、今から準備しておくべきことなどについて解説します。その後に、ビジネスマナーやエントリーシート対策、面接対策など具体的なノウハウを伝えるセミナーを開催します。「餅は餅屋」ということではありませんが、Step4の講師は、就職情報会社にお願いをしています。 他方、コミュニケーション能力やプレゼンテーション能力など社会で求められるスキルの習得を目的としたもの、あるいはグループディスカッションや個別面接、集団面接といった採用選考対策をテーマとしたものなど、少人数で実践的に学ぶ機会として正課外のワークショップを開催しています。
2.課外セミナーやワークショップの課題このような課外セミナーの課題としては、第1に開催時刻や開催場所に関する点が挙げられます。上述した第1クールも第2クールも正課授業が行われている期間です。課外セミナーが正課授業の妨げになってはなりません。そこで、筆者の勤務校では平日の18:30~20:00を課外セミナーの開催時刻としています。5時限の終了時刻は17:50ですので18:00開始でもよいのですが、本学はキャンパスが複数箇所に分散しており、課外セミナーが開催される(キャリア支援センターが所在する)キャンパスまで移動してくる時間を見込んで18:30開始としています。ちなみに、例えば毎週月曜日の5時限をキャリア支援関連の課外セミナーの時間に充てるなど、時間割の中で実施している大学もあります。 学生からは、「移動時間がかかるので、開始時刻をもっと遅くしてほしい」といった声や「1箇所だけではなく、私たちのキャンパスでも開催して欲しい」という要望が寄せられていますが、担当教職員のマンパワーの問題もあり、悩ましいところです。しかしこの点に関しては、新型コロナウィルス感染拡大防止の観点から、2020年度から課外セミナーをオンライン化したことによって、結果として課題解決に至りました。なお、オンラインによるキャリア支援については、第5回で改めてお伝えします。 第2の課題は、セミナーの種類によって参加者数のばらつき大きいということです。私たち提供者側としては、学生のキャリア発達段階に応じて低学年の時から積極的に参加してほしいセミナーも開催しています。その最たるものがStep1の「将来を考える」や「大学生活と進路を考える」です。しかし、私たちの想いとは裏腹に、こうしたセミナーは極めて集まりが悪いです。また、Step3の「ワークルール(労働法)」も参加者が少ないセミナーの典型です。反対に、最も数多く集まるのがStep4の「エントリーシート対策」や「面接対策」です。つまり、今の学生たちには、少し先のテーマに関するセミナーにはあまり反応せず、眼の前に迫った就職活動にすぐ役立ちそうなノウハウが学べるセミナーには敏感に反応するという傾向が見受けられます。 他方のワークショップに関しては、どうしても少人数単位での開催となるため、参加希望者全員を受け入れられないことが課題です。申し込み先着順で受け付けを行い、定員枠から漏れた学生に対してはキャンセル待ちの対応をしています。
3.課外セミナーとキャリア教育との連動上述した第2の課題に対する解決策の1つとして、課外セミナーとキャリア教育とを連動させた例をご紹介しましょう。図表2は、2年生前期の学生を対象とした「ライフ・キャリアデザインD」の授業計画です。この授業は、教室での授業に加えて、キャリア支援センターが主催する課外セミナーへ参加したり、職業興味検査を受検したり、キャリア支援センターでの個別相談を利用したりすることを通して、自分自身の進路選択についての考えを具体化していくことをねらいとしています。 図表2 ライフ・キャリアデザインDの授業計画 ![]() 学生は5~7月に開催される課外セミナー(全7回)のうち4つのセミナーを受講することが義務づけられています。また、その他にも職業興味検査の受検、2回の個別相談を実践した上で、毎回「学習ポートフォリオ(学習経過資料)」を用いて実践内容の記録と振り返りを行います。こうした学習を通して、将来の進路に関する自分の考えを深めていきます。 課外セミナーを正課授業の一部として位置づけるという半ば強制的な方法かもしれません。しかし、きっかけは強制的で受動的であったとしても、参加した課外セミナーが、自分自身の大学生活のあり方や進路について考えたり、新たな気づきを得たりするきっかけとなってくれればと考えています。
次回は、個別相談の現状と課題についてお届けします。
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