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2021年2月号

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大学・短大におけるキャリア支援の今
 ~第2回 キャリア教育の現状と課題 
          キャリア教育の内容、位置付け、効果等~

東北大学高度教養教育・学生支援機構キャリア開発室准教授
   高橋 修 氏 《プロフィール

今月号では、まずキャリア教育の捉え方について整理した上で、キャリア教育の現状と課題について考えてみたいと思います。さらに、キャリア教育の効果を測定した具体例をご紹介します。

 

1.キャリア教育の捉え方

「キャリア教育」という用語が初めて公に使用されたのは、1999年の中央教育審議会答申「初等中等教育と高等教育との接続の改善について」です。この答申では、キャリア教育を「望ましい職業観・勤労観及び職業に関する知識や技能を身に付けさせるとともに、自己の個性を理解し、主体的に進路を選択する能力・態度を育てる教育」と定義しました。

既に当時は、若年無業者(ニート)やフリーターの増加、高水準で推移する若年者の早期離職や失業率が社会問題となりつつありました。したがって、当時のキャリア教育は、こうした若年者をめぐる雇用問題に対応する必要性から、就職させることや職業キャリアに焦点が当てられていました。

その後、2011年の中央教育審議会答申「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について」では、キャリア教育を「一人一人の社会的・職業的自立に向け、必要な基盤となる能力や態度を育てることを通して、キャリア発達を促す教育」と再定義しています。

この答申の前提となっている社会背景には、2008年に発生したリーマン・ショックに伴う若年者の雇用環境の悪化があります。加えて、大学進学率が50%を超えたことに伴って、目的意識が希薄な進学者が増加したことも問題視されるようになりました。そこで答申では、職業的自立にとどまらず、広く社会的自立を果たし、生涯にわたるキャリア形成が可能となることを目指して、人間関係形成・社会形成能力、自己理解・自己管理能力、課題対応能力、キャリアプランニング能力という4つの基礎的・汎用的能力を中心に育成することが必要であるとしています。

以上の経緯を踏まえると、現在のキャリア教育は、学生の社会的・職業的自立を目的として、

①キャリア意識・職業意識
②自ら主体的に判断してキャリアを形成していくキャリアプランニング能力
③自己管理能力、対人能力、問題発見・解決力といった汎用的な能力

を育成することといえます。

そしてキャリア教育は、キャリアデザインやキャリアガイダンス等の科目名を冠し、ライフキャリアや職業キャリアについて学ぶ「キャリア教育科目」や、実習先の企業や団体等で就業体験を行う「インターンシップ」等の授業科目として行われることが一般的です。

 

2.キャリア教育の現状と課題

上述したように、キャリア教育が大学・短大に導入されてからまだ日が浅いのが現状です。また、当初のキャリア教育が若年者の就職支援に焦点づけられていたために、さまざまな課題があることも事実です。

例えば、「キャリア教育の問題点は、『就職を支援するための教育』の性格がみられること、キャリア教育の専門家・スタッフの不足、教育目標が『就職活動の準備』から『生き方の学習』まで幅がありすぎることなど」であるという指摘があります(国立大学協会・学生委員会報告書,大学におけるキャリア教育のあり方―キャリア教育科目を中心に―,2005年)。この指摘を裏付けるデータがあります。全国50の国公立大学(23校)、私立大学(27校)で開講されているキャリア教育科目のシラバスから教育内容を分析した結果、次の8つに大別できました。

①大学生活の充実、②自己理解・自己分析、③職業観の養成、④社会認識・社会情報の収集、⑤キャリアプランの作成、⑥社会人基礎力の養成、⑦キャリア理論の理解、⑧就職支援。

そして、社会人基礎力の養成やキャリア理論の理解に重きを置く大学もあれば、就職支援に力を入れる大学もあるなど、重点の置き方が大きく異なっていました(中里弘穂,大学におけるキャリア教育実践の現状と今後の展望,経済教育,30巻,2011年)。

また、関西の私立大学3校での実践事例を横断的に検討した結果によれば、①全学型キャリア教育と学部のキャリア教育・専門教育との連関がないこと、②キャリア教育という分野の学問体系や学問的な専門性が曖昧であること、③キャリア教育全体の長期的な視点に立った効果検証の必要性等の課題が抽出されました(長田尚子他,全学型キャリア教育科目の実践的課題―カリキュラム・マネジメントを手がかりとした考察―,京都大学高等教育研究,24巻,2018年)。

 

3.キャリア教育の効果

それでは、このようなキャリア教育には効果があるのでしょうか。これまでは、学生のキャリア意識の変化を授業前後に測定するなど、授業科目レベルでの研究蓄積はなされてきました。しかし、上述の長田らの指摘にあるように、キャリア教育全体を対象とした効果測定を行った研究はそれほど多くありません。

そこで、ここでは筆者が行った研究の概要を紹介しましょう。この研究は、正課授業であるキャリア教育に加えて正課外活動であるサークル活動などと、学生の就職内定との関連性を明らかにすることが目的でした。そこで、A短期大学の学生289名を分析対象として、社会人基礎力、正課のキャリア教育としてのフィールドワーク、キャリアガイダンス、インターンシップ、正課外活動としてのサークル活動、ボランティア活動、アルバイト経験と、内定獲得との関連性を分析しました(図表1)。

図表1 キャリア支援の効果を測定するために用いたデータと収集時期

出所:高橋修「短期大学におけるキャリア教育と就職との関連性」,ビジネス実務論集,第34号,2016年.

その結果が図表2です。内定獲得群と未内定群との間に統計的な有意差が認められた項目に網掛けを施してあります。まず内定獲得群は、社会人基礎力の中の傾聴力、すなわち相手の意見を丁寧に聴く力が高かったです。傾聴力の高い学生は、さまざまな知識・スキル等を吸収することができ、種々の社会人基礎力が向上した結果として内定獲得につながったものと思われます。また内定獲得群では、正課授業であるキャリアガイダンスの成績が高かったです。つまり、適切な自己理解と職業理解を促すこと、その上で学生のキャリアビジョンと目標を明確化することを意図したキャリア教育の有効性が示されたといえるでしょう。さらに内定獲得群では、正課授業であるインターンシップを履修している割合、正課外活動としてのボランティア活動やアルバイトを経験している割合が有意に高かったです。これらの結果は先行研究とも整合的でした。

図表2 内定獲得別 母平均及び母比率の差の検定

出所:高橋修「短期大学におけるキャリア教育と就職との関連性」,ビジネス実務論集,第34号,2016年.

今後も、キャリア教育の目的(社会的・職業的自立)や目標(キャリア意識・職業意識、キャリアプランニング能力、汎用的な能力)に照らして、定期的な効果検証とそれを踏まえた教育内容の継続的な改善が求められます。

次回は、課外セミナーやワークショップの現状と課題についてお届けします。

 


 

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