JAVADA情報マガジン1月号 フロントライン-キャリア開発の最前線-
◆2021年1月号◆
大学・短大におけるキャリア支援の今 |
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東北大学高度教養教育・学生支援機構キャリア開発室准教授 |
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今月号から5回にわたって「フロントライン(キャリア開発の最前線)」を担当する高橋修です。よろしくお願いいたします。 民間企業での店舗マネジャーや学校法人での産業人教育・コンサルティング等を経て、大学教員へと転じて今年で14年目になります。私立大学を皮切りに私立短期大学、国立大学と現在で3校目ですが、その間一貫して職業性ストレスに関する研究とキャリア支援に従事してきました。 このコーナーでは、「大学におけるキャリア支援のリアル」をテーマとして、その現状と課題について考えていきます。まず今月号は、事例をまじえながらキャリア支援の全体像についてお伝えします。
1.大学生のキャリア発達課題とキャリア支援大学生という時期は、キャリア発達段階からみると探索段階に位置付けられます。この段階では、職業キャリアを中心としながらも、「自分は、どのような生き方をしたいのか」とライフキャリアの全体像を思い描き、大学生活の目標を明確にしたうえでその実現に向けて取り組むことが求められます。 このようなキャリア発達課題を有する大学生に対するキャリア支援策として、2010年には大学設置基準・短期大学設置基準が改正され、教育課程の内外を通じた社会的及び職業的自立に向けた指導、つまりキャリア支援が2011年から義務化されました。これを受けて各大学・短大では、単位を付与する正課教育と付与しない正課外教育とを組み合わせながら、キャリア支援の展開・充実を図っています。
2.キャリア支援の一例一例を挙げましょう。筆者の勤務校では、全学的組織であるキャリア支援センターが学生のキャリア支援の中心的な役割を担っています。 まず、学生のキャリア発達段階を4段階、すなわちStep1:大学生活・進路を考える、Step2:自分を知る(自己理解)、Step3:社会・仕事を知る(職業理解)、Step4:就職活動に備える、に区分しています。
図表1 キャリア支援プログラムの各ステップ
そのうえで、(1)正課教育としてのキャリア教育、(2)課外セミナー・ワークショップ等、(3)個別相談を「キャリア支援プログラム」として体系化しています。次号以降、この3つの支援を順番に取り上げて、それらの現状と課題についてお伝えする予定ですので、ここでは概略のみご紹介します。 (1)キャリア教育正課教育のキャリア教育科目として、これからの大学生活を考える「ライフ・キャリアデザインA」、自己理解を深め将来のキャリアを考える「ライフ・キャリアデザインB」、よりアクティブに学ぶ「フィールドワーク実践:地域とビジネス」や「インターンシップ事前研修」「インターンシップ実習」などを開講しています。 (2.1)フェアインターンシップや就職に関する情報を提供する学内での合同説明会です。多くの企業・団体等と学生が出会う「場」として企画しています。就職希望者を対象とした「キャリア就職フェア」(3月)や、全学年を対象とした「夏のインターンシップフェア」(6月)、「冬のインターンシップフェア」(11月)を開催しています。 (2.2)セミナー上述した学生のキャリア発達段階に応じて、「大学生活と進路を考えるセミナー」「自己分析セミナー」「業界・仕事研究セミナー」「就職活動の進め方セミナー」など、それぞれのキャリア発達段階に必要となる知識や情報を伝えることを目的として、正課外で各種セミナーを開催しています。 (2.3)ワークショップビジネスマナーやコミュニケーション能力など社会で求められるスキルの習得、グループディスカッションや個別・集団面接といった採用選考対策などをテーマとして取り上げ、少人数のグループ単位で実践的に学ぶ機会として正課外のワークショップを提供しています。 (3)個別相談進学や進路選択、インターンシップ、就職活動の進め方、公務員試験対策、理系学生向けの研究概要書添削や技術面接対策などについて、事前予約制での個別相談を実施しています。
3.キャリア支援を担う人材と職務それでは、以上のような大学における学生のキャリア支援は、誰が担っているのでしょうか。一般的には、おおむね図表2のような4種の人材に大別できます。
図表2 キャリア支援を担う人材と職務
専任教員には、博士または修士の学位、一定の研究業績、大学等での教育歴が求められ、研究活動や教育活動が主たる職務となります。ですから、キャリア支援を担当する専任教員は、キャリア教育の授業を担当しながら、そのキャリア教育の教育効果について研究するといった職務に従事します。一方で、課外セミナー等の企画・運営や個別相談を担当するケースは、それほど多くありません。 特任教員には、キャリアコンサルタント資格や企業等での実務経験が求められます。キャリア教育の授業担当を主たる職務としつつ、課外セミナー等の企画・運営や個別相談も担当します。 非常勤相談員は、キャリアコンサルタント資格や大学等での個別相談歴が求められ、専ら個別相談を担当します。大学が任期付きで直接雇用する形態のほかに、派遣契約や業務委託契約を結んで相談員を派遣してもらうケースもあります。 事務職員は、課外セミナー等の企画・運営に関する中心的な役割を担います。また、大学によっては個別相談やキャリア教育の一部を担当するケースもあります。ただし、組織内での人事異動があるため、長くキャリア支援に従事するとは限りません。 大学における学生のキャリア支援をうまく機能させるためには、以上のような4種の人材の教職協働体制が不可欠となります。反対に、その体制が確立されずに、個々バラバラに活動しているようなケースではキャリア支援のベクトルが一致せず、支援を受ける学生も混乱してしまいます。ちなみに筆者の勤務校では、月に1回開催する運営会議や週に1回の業務ミーティングで、教職員間の情報共有やベクトル合わせをしています。また、年に2~3回開催する相談員会議において、専任・特任教員と非常勤相談員の間で情報共有やケーススタディを行っています。 次回は、キャリア教育の現状と課題についてお届けします。
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