JAVADA情報マガジン10月号 フロントライン-キャリア開発の最前線-
◆2019年10月号◆
個別のキャリア面談から見えてくる社会問題の背景や未来 |
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キャリア・カウンセラー |
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仕事柄、おひとりおひとりの心の奥底にひっそりとしまいこまれている感情に触れさせていただく機会が少なくありません。今回は特に「子ども」にまつわるお話を書かせていただこうと思います。 女性と仕事という視点で約30年仕事をしてまいりましたが、取り巻く環境や意識の変化はとても大きいものがあったと感じています。M字カーブはかなり解消しましたし、働き続けることが「当たり前」になりつつあります。 今回は、女性ひとりひとりの心の声についてお伝えしたいと思います。
<さまざまな相談の、心の奥底にひっそりとしまいこまれたもの>もともと転職エージェントのコンサルタントだった私のところに来談されるクライアントさんは、転職相談からスタートすることが多いのですが、当然のことながらその背景にあるご事情はさまざまです。
など、さまざまな転職理由が語られます。語られている事柄にはその背景があり、その背景となる事情をどう受け止めているか、どう感じているかが問題となるわけですが、ゆっくりお話を聴いていると、全く別の話が飛び出すことがあります。
●私だって産んでも働けたかもしれなかったのに。40代半ばの女性Aさんは、派遣社員として現在の職場の業務に就いて3ヶ月が経ったころ、このままこの職場にいてもよいものかと悩んで来談されました。 Aさんは、働き続けるためには子供は無理だと諦めていたそうです。経済的にもそれほどゆとりがなかったこともありました。「それでもいつか子供ができてしまった場合を無意識に考えていたのかもしれません。派遣であまり責任の大きくない仕事を続けてきました」。 ぽろぽろ泣きながら話してくださったAさん。彼女と同じような痛みを持っている人は少なくありません。正社員であれ、非正規社員であれ、子どもを産むタイミングを見計らっているうちに時が過ぎてしまう・・・。子どもを欲しがる夫を待たせているうちに、子供が欲しいタイミングがずれてしまうというケースもあります。
●独身の私が全部背負わなければいけないの?独身や子どもがいない女性にも、また複雑な想いがあります。
●子育て中でない人に席を譲らなければいけないのではないか?契約社員で働くDさん(40歳 子ども1人)は今年も正社員への登用の機会があることにほっとしたそうです。「今年はチャレンジしたいので気持ちを整えるのを付き合ってください」とのことで来談されました。契約社員としても十分責任感を持って仕事に取り組みながら、さらに先輩たちのように一人前になりたい、他の人から頼られる存在になりたい、そんな気持ちを持ってチャレンジすることを語ってくれた彼女。なのに、なんとなく表情が晴れないことを不思議に感じ、訊いてみたところ、 確かにDさんの産休育休は短期的には職場にとって痛手でしょう。でも、彼女のやる気をそのまま眠らせて良いのか? 「長期的に考えるとどうでしょう?」と尋ねてみたところ、「きっと貢献できると思います」とにっこり笑う彼女がいました。 社会的には子どもを産むことが求められているのに、職場では歓迎されない傾向が強いでしょう。このダブルスタンダードが子育て世代をとても苦しめているように見受けられます。
<語り合い「子どもがいるわたし、いないわたし」>シングルであっても、既婚であっても、子どもがいてもいなくても、このように仕事人生の中で「子ども」の存在は意識のどこかにあり、ふとしたことで触れて「チクチク」したり、「ざわざわ」したり。
●いくつになってもチクチクざわざわは続く・・・子どもがいる人・いない人、既婚者・シングル、意図せずして子どもがいない人・意図せずして子どもがいる人・・・自分も他の人も大事にできる方にお集まりいただきたい旨お声をかけたところ、驚くほどの反響を頂きました。予想外だったのは50代からの声が多かったことです。いろんな想いにふたをしながら生活しているけれど、ふとしたときにそのふたが開いてしまうことがあり、いまだにチクチクするといったご意見を多く耳にします。私自身も自ら子どものない人生を選びましたが、ことあるごとにチクチクしている一人です。傷口はすでにカサブタになって久しいのですが、そのカサブタがなくなることはきっとないだろうと思っています。 この語り合いの中では、本当にさまざまな想いが語られます。参加してくださった方たちにご了解を頂いた範囲で、どのようなお話がされたかを紹介していますので、ご興味のある方はブログでご覧いただけると幸いです。
<おわりに>だからどうだって言うのだ? 前述の会の終了後、ある参加者の方からこんな言葉を頂きました。この言葉が、これからの社会を生きていく上で大きなヒントになるのではないかと想い、ご了解を頂いてシェアさせていただきます。 チクチクさせたり、させられたり・・・。そんな日常の中でどう健やかに、働き続けるのか。「一億総活躍社会」というマクロの視点から見ると、ありんこのようなミクロの世界のお話です。でもそんな一人ひとりの心の奥底にあるやわやわした気持ちが無自覚なまま追い詰めたり、追い詰められたとき、ギスギス職場を生んでしまうなど、職場環境に大きな影響を与えているような気がしてなりません。 前述のAさんもCさんもDさんも、ご自身の気持ちを認識されたあと、その気持ちと共に働き続けていらっしゃいます。気持ちを変えるということではなく、その気持ちとどうお付き合いするかに焦点が当てられたような気がします。その気持ちを持って帰っていかれるクライアントさんを、私は見送ることしかできません。
今回は「産む」と「キャリア」にまつわる女性の心の中のお話でしたが、きっと女性だけでなく、またこのテーマに限らず、心のひだひだの中にいろんな想いは存在するのでしょう。いろんな想いを抱える人間たちが「共存」していく・・・これもまたダイバーシティなのではないでしょうか。
今回もまた、答えのないお話しになりました。皆さんはどのように感じられたでしょうか?
※ケースについては、個人が特定されないようにいくつかのケースを混ぜてお伝えしています。ご了承くださいませ。
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