JAVADA情報マガジン9月号 フロントライン-キャリア開発の最前線-
◆2019年9月号◆
個別のキャリア面談から見えてくる社会問題の背景や未来 |
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キャリア・カウンセラー |
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前回に引き続き、みなさんのお知恵をいただきたいテーマを書こうと思います。 私が氷河期世代という言葉を意識したのは2015年、横浜市男女共同参画推進協会の非正規シングル女性支援プログラム開発検討会で委員を勤めさせていただいたことがきっかけでした。 公の機関でもシングルマザーや若年層に向けての支援はされておりましたが、非正規職シングル女性という属性は、なかなか見えにくい存在でした。それは彼女たちが苦しみを抱えながらも、声もあげず、あげられずひっそりと暮らしていたからだと思います。 調査報告書※をご覧いただけるとおわかりのように、そこには彼女たちの叫びが詰まっています。ご一読いただくことを切に願います。 ※
<氷河期世代の何が問題なのか>氷河期世代は大まかに言うと、1990年代半ばから2000年代前半に社会に出た、40歳前後の世代のことと言われています。バブル崩壊後、有効求人倍率は1を下回り、それが長く続きました。在籍する社員を人員削減する中、新卒採用ははばかられたため、新卒採用をしない、あるいは人数を大幅削減した結果、その時代に学校を出た人たちは非正規で初職をスタートさせた人も多くなっています。また、多くの組織はその年代だけ人数が大幅に少なくなっていることから、ちょうど今、その世代が組織の中核を担う時期になって、人材不足を嘆く会社が多くなっています。 仕事や職場といった面だけではなく、その世代では未婚率が他の世代に比べて高かったり、70代の親と40代の子が同居生活をする中で共倒れするリスクが問題視されるなど(7040問題)、氷河期世代については、たくさんの問題が上がっていますが、それらについてはちまたでたくさんの記事が書かれていますのでそちらにお任せすることにいたしましょう。 ●正社員になれないのは彼らの努力不足なのか?失われた20年の中、彼らは何をしていたのか? どう生きていたのか? それでも彼らは、内定が取れなかったのは自分の努力が足りなかったせいだと言います。正社員になれなかったのも自分のせいだと言います。実際どうなのでしょう? ●氷河期世代の悲しみ、恐怖感、喪失感、怒り・・・氷河期世代の方たちが、どのような思いを抱えて生活しているか、少しご紹介させてください。 憂鬱なボーナスの季節:派遣社員で働くAさん(女性38歳)のケース Aさんはボーナス支給日がとても憂鬱です。それは周りの正社員に支給されるボーナスが自分にはないという悲しさももちろんあるのですが、それ以上に現実を突きつけられるのは、ボーナス日に必ず行われるランチ会の存在です。当然ですが、ボーナスの日は社内がなんとなく明るく、Aさんが所属しているグループでは、みんなでちょっと豪華なランチを食べることが習慣になっています。Aさん以外は全員正社員であり、彼らはもちろんAさんを仲間はずれにすることなく、そのランチ会に誘います。誘われたAさんも一緒に行くのですが、ボーナスのないAさんにとって豪華なランチはとてもお財布に響きます。こんなとき、自分だけが立場が違うことを思い知らされるとAさんはおっしゃいます。普段は人間関係もよく、派遣社員ということを意識しないことが多いだけに、とてもつらいと。 全く逆に、誘われなくて辛いという相談もあります。このような相談は、主訴として語られることはなく、転職相談やもやもやの背景として語られます。たかがランチと思われるかもしれませんが、このような小さなことが一人ひとりの心に小さな影を落とし、積もっていくうちに、職場を離れることにつながったり、ギスギスした職場が生まれてしまうのではないでしょうか。 同じ非正規職でも、パート社員より派遣社員という立場の方が孤立感をはじめ、不安や悩みを抱えやすいことが前述の横浜市の調査でも現れています。それは、パート職は同じ処遇の人が集まって仕事をしている傾向が強いことに対し、派遣社員は正社員の中で一見同じような働き方をしているケースが多いからではないかと思われます。
●氷河期世代の問題は、非正規職に限ったことではなく・・・国は非正規職で働く氷河期世代に正社員に移行することを勧めていますし、当事者も正社員で働くことを求めている人は多くいらっしゃいます。とはいえ、正社員になったからといって全部が解決するとは言えません。私のクライアントさんの中にも、希望して正社員になったもののなんらかの問題があって非正規職に戻る人も少なくありません。そして正社員で勤めている当事者の中にも、その時代の影響を多く受けている人はたくさんいます。 頑張りすぎてしまう:正社員で働くBさん(女性43歳)のケース Bさんは頑張りたいけれど頑張れない自分のふがいなさを感じて来談されました。もっと頑張らないとと言いつづけるBさんに、なぜそこまで頑張ろうとするのかを尋ねたところ、「またあの地獄のような転職活動をしなければいけないかと思うと、今の職場で成果を出さなければと思うのです。最初の就職活動もものすごく大変だったし、そのあとの転職活動も本当に苦しかったので、もう2度とあの思いはしたくないのです。」 そしてさらに、氷河期世代に心理的影響を与えているのが、親のリストラです。考えれば当然のことなのですが、彼らが厳しい就職活動をしていた時代は、すでに社会に出ていた中高年にとってもリストラの嵐という厳しい風が吹き荒れておりました。父親がリストラをされるという親子ダブルでの受難者が多いのもこの世代の特徴です。
<国の取り組みと、当事者の反応>国も氷河期世代への取り組みを開始しています。今年6月21日には内閣府より就職氷河期世代支援プログラムが発表されました (https://www5.cao.go.jp/keizai1/hyogaki/ hyogaki.html)。8月14日の日経新聞には、正社員への転換をサポートした研修会社等に成功報酬で助成金を支給するという具体的な施策も決まってきたと書かれておりました。 ただ気がかりなのは、氷河期世代当事者たちの反応です。Twitterを見る限りでは、どうも反応がよろしくないのです。「人手不足の業界に押し込まれるだけ」、「特定の派遣会社にお金が流れるだけ」そんな意見があふれておりました。確かに記事を見ると、そう思われても仕方ない内容にも見えます。とは言え、当事者の方にお願いしたいのは、支援が具体的に公開になった際には、ぜひ使えるサービスはとことん使ってほしいということです。最初から斜に構えないで、自分にとって使えるのかどうか見るだけ見てほしいと思います。
<ぜひお願いしたいこと>氷河期世代の上の世代の人たちにお願いしたいことがあります。彼ら彼女たちに対して「努力が足りなかったのではないか」と言う言葉をどうか投げかけないでください。思うのは自由ですが、どうか彼らに対しては決して言わないでほしいのです。面接の場面でも、非正規職で頑張ってきた人たちに向かって「なぜ今まで正社員にならなかったのか?」という言葉が不用意に投げかけられています。その言葉は悲しみや怒りしか産みません。 また、これから国の施策の中で、多くの支援者がこの事業に関わるでしょう。その際に、斜に構えたり、ネガティブになっている彼らの気持ちを十分に理解してほしいと思います。それほどまでに、今まで裏切られ続けてきたのです。どんなに努力しても報わないと感じている世代なのです。どうかご理解いただけると嬉しいです。
<新たな氷河期への懸念>今とても気がかりなことがあります。 報われなさを感じながら生きる氷河期世代。彼らがもっとのびのびと生きるために何ができるのか? これからやってくることが考えられる採用抑制時代に向けて、同じことを繰り返さないために何ができるのか?
※ケースについては、個人が特定されないようにいくつかのケースを混ぜてお伝えしています。ご了承くださいませ。
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