JAVADA情報マガジン8月号 フロントライン-キャリア開発の最前線-
◆2019年8月号◆
個別のキャリア面談から見えてくる社会問題の背景や未来 |
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キャリア・カウンセラー |
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<はじめに>みなさん、はじめまして。キャリア・カウンセラーの錦戸かおりと申します。 今回このような機会を頂きましたので、個別のキャリア面談から見えてくる今の課題、これからの課題についてお伝えできればと思います。当然のことですが、ケースひとつひとつは個別の事情、想いが語られるのですが、そこから少し先の社会が透けて見えてくることや、その時代の傾向が見えてくることがあります。キャリアの問題は社会の問題にも直結することが少なくありません。個別のケースをどう捉えるかではなく、少し大きな視野で感じることをお伝えしたいと思います。
今回は、雇用のミスマッチの背景として、今、採用の場面で起こっていることについてお伝えしますね。
<採用したくてもできない事情>私の感覚では、つい数年前までは完全失業率も高く、仕事をしたくてもなかなか書類も通らないと言う人が多いと感じておりましたが、急にここ数年は手のひらを返したように求人難が叫ばれています。近所のコンビニでは、入り口に大きな求人看板が常設状態になっており、その差し迫った状況が伝わってまいります。 人手不足という理由での倒産や閉店も珍しいことではなくなりました。私はバブル時代に人材紹介業に就きましたが、そのころもこれほどではなかったと記憶しています。 みなさんもご存知のように、人手不足の大きな理由は、人材を求めている業界・職種と求職者のニーズのミスマッチでしょう。
●壊れていく職場実際のケースをご紹介しましょう。 30代半ばのAさん(女性)は一部上場企業の経理スタッフをしています。7人のチームの主任として業務にも後輩指導にも励んでいました。会社の業績も良く、そのせいもあって業務は忙しく、仕事は多いものの、働き方改革で残業もできず、考えることが必要な仕事は家に持ち帰ることも増えたそうです。昼休みになってもAさんも他のメンバーも、黙々と仕事をしながら簡単なものを食べるという状態でした。 この状態がしばらく続き、どうしてよいかわからなくなったとのことでAさんは来談されました。 ●こんな職場で採用したらかわいそう...Aさんの想いなどを聴きつつ、採用したい「良い人」について訊いてみると、泣きながらこんな応えが返ってきました。 ぐじゃぐじゃになっていた気持ちを言葉にすることで少し落ち着いたAさんは、今の状況を少し冷静に見ることができるようになり、これからどのようにしていったら良いかを話し合いました。心を鬼にして外から採用するのか、それともまずはどうにかして今の状況を落ち着かせるのか、悩みに悩んだ結果、彼女は後者を選び、以前、他部署に異動していった先輩を一時的に兼務で手伝ってもらうようお願いできないか、上司に直訴することを考えました。
<採用されたくても飛び込めない事情>一方、採用する側だけでなく、採用される側の事情ももちろんあります。
●勇気を振り絞っての転職活動30代半ばのBさん(女性)はいわゆる氷河期世代。新卒の就職活動がなかなかうまくいかず、初職をフルタイムのパート社員としてスタートさせました。いつかは正社員として働きたいと思いながらも、最初の就職活動で、頑張っても頑張っても不採用をもらい続けた経験から、気持ちのどこかに「頑張ってもダメなのではないか」と言う想いがあるそうです。非正規職で数社働いた組織の中には、いくつか正社員になることを勧められたところもあったそうです。しかし、そういった組織に限って残業も多く、社員の顔色も悪く、また社員から不平不満を聞かされることが多く、「こんな会社に正社員で入っても、長く勤められるわけがない」と思い、非正規職のまま契約を終えたとのことでした。 ●内定は出たけれど・・・就職活動に一歩踏み出すことさえ「怖い」と感じるBさんですが、それでもなんとか自分を奮い立たせて履歴書を書き、職務経歴書を書いて求人に応募したBさん。何社か書類で落とされたものの、数社 面接に臨み、内定を手にしました。ところがです。希望していた会社からの内定でしたが、いざ内定を手にしてBさんの足はすくんでしまいました。理由は、最後の面接で直属の上司になる人から言われた言葉です。 「今、職場が少し大変なことになっていますが、大丈夫ですか?」 一概には言えませんが、Bさんが辞退した会社の上司はとても誠実な方だったのかもしれません。良い情報だけを伝えて入社させてしまうのではなく、Bさんが「こんなはずでは」と思わないように、きちんと現状を伝えたかったからこその言葉だったかもしれません。でも、ギスギス職場をたくさん見てきたBさんには、足がすくむような場面が容易に目に浮かび、辞退せずにはいられなかったのです。
<最後に>今回ご紹介した2つの事例は、残念ながら決してまれなケースではありません。どちらも特別な業種、職種ではないにもかかわらず、根底にある人間ならではの罪悪感であったり、怖さといった「気持ち」の問題が採用の難易度を上げてしまっているように思えるのですがいかがでしょう?
ちなみにAさんからメールで後日談を頂いたところによると、Aさんの提案どおり、先輩が一時的に兼務してくれたことにより、業務を一旦正常化した上で新たに人を採用することができたそうです。Aさんの場合は、組織もそれなりの規模だったので助けてくれる人的余裕があったことが幸いしましたが、中小企業の場合はなかなかこうはいきません。 Bさんはその後も就活を続けた結果、結局のところ人員補充をするところはどこも忙しくて当たり前であることを理解され、怖さを抱えながらも「腹をくくることにした」そうです。 働く人、ひとりひとりの健康や想いをどう支援するのか...。Aさんの「罪悪感」やBさんの「怖さ」といったやわやわした気持ちをしっかり大切に両手で受け止めつつ、一歩前に出る勇気を支えようと努めておりますが、もっと何かできることはないのか? キャリア・カウンセラーとしてできることを日々、模索しています。
※ケースについては、個人が特定されないようにいくつかのケースを混ぜてお伝えしています。ご了承くださいませ。
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