JAVADA情報マガジン6月号 フロントライン-キャリア開発の最前線-
◆2019年6月号◆
外国人人材活用のための採用と定着化のポイント |
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株式会社日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門マネジャー |
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労働力人口の減少によって、慢性的な人手不足が生じている。企業においては人手不足への対応として、これまで主流ではなかった人材層へのアプローチとして、「シニアの雇用の増加」、「女性活躍の推進」、「外国人の採用」といった対応策が進められている。 ![]() (出所)日本総合研究所「『人手不足と外国人採用に関するアンケート調査』結果
既に日本には一定以上の外国人人材が存在しているが、人手不足の深刻化を踏まえて、政府は改正入管法に新たな在留資格を設けて、外国人の受入を一段と推進する方針である。日本総研が実施したアンケート調査では、「過去も現在も採用・活用していない」企業は41.4%で、約半数の企業が外国人人材の採用を行った事をうかがわせる結果1となった。その内訳は、「現在、採用(直接雇用)している」が41.0%、「現在、派遣・請負で活用している」が4.5%、「過去に採用・活用していたが、現在は採用・活用していない」が12.7%である2。 ![]() (出所)日本総合研究所「『人手不足と外国人採用に関するアンケート調査』結果 外国人人材の採用が特別ではなくなっている一方で、外国人人材を活用しきれていないケースも多く聞く。先程のアンケートでも、外国人人材を「過去に採用・活用していたが、現在は採用・活用していない」が12.7%という結果が出ており、過去に外国人人材を採用したもののうまく定着化させることが出来ず、現在は外国人人材を採用していない企業が一定数存在する事が分かる。外国人人材は言語だけでなく文化的背景や考え方が異なって当然であり、その多様な背景を受け入れつつ自社の人材として活躍してもらうための環境を整えるための対策を検討する必要がある。本稿では、外国人人材を日本で雇用する場合のポイントについて、採用と定着化の各フェーズのポイントを示したい。
採用におけるポイントそもそも採用は、企業と人材のマッチングである。企業は、自社の状況を把握して採用におけるニーズを把握すると共に、候補となる人材が提供する価値をなるべく正確に把握することが求められる。求める人材を採用して定着させるためには、企業が提供する働く環境を、自社が求める人材が望む働き方や暮らし方に近づけることが望ましい。その為には、人材のニーズを把握して制度設計・運用に反映していく取組の継続が重要である。 企業側のニーズと人材が提供する価値の把握が重要![]() 人材のニーズを踏まえた処遇・環境の改善が必要![]() 採用時におけるポイントと対策は以下のとおりである。日本人人材を採用する場合と比較して、企業はより意識的に人材の活用目的を明確化する必要があるだろう。
定着化におけるポイント定着化においては、人材との関係構築に加えて、人材を受け入れる職場に対するケアが必要になる。仕事に対する取り組み方や、価値観、人間関係の作り方、言語等が異なる人材の受け入れを、職場に対するケアなく進めようとすると、職場からの反発を受ける。結果、業務に必要なコミュニケーションが損なわれて、働きにくい職場が生じることとなる。また、職場の理解を得ることで、身近な立場から適時サポートがされるようになるほか、人材が「受け入れられている」という安心感を抱くきっかけともなる。 ![]() 以上を踏まえて、採用した人材の定着化を図る上でのポイントと対策は以下のとおりである。当然のことながら、採用時に明確化した人材の活用目的が果たされるように、人事制度の運用や福利厚生の充実、職場の環境整備を進めることが重要である。月日の経過とともに、人材の抱える課題や希望は変化する事から、定期的・継続的なコミュニケーションが求められる。
企業が外国人人材を活用する主な目的の整理以上で見たように、採用・定着に関する課題への対応は、採用における企業のニーズを検討の出発点とするのが適切である。ここで、企業が外国人人材を活用する主な目的を確認すると、外国人採用・活用の理由として、「日本人労働力が集まらない」とする企業は50.2%(複数回答)で、この理由が最も当てはまると回答する企業は40.6%に上る。ここから、多くの企業では、外国人人材は日本人人材の代替として、外国人人材を採用・活用しているのが現状といえる。 ![]() (出所)日本総合研究所「『人手不足と外国人採用に関するアンケート調査』結果 一方で、一部の先進的な企業の事例には、グローバルで活躍する専門性を身に付けている人材の獲得のため、あるいは、外国人の持つ視点や特性を他社との差別化に活かすため、あえて外国人人材にアプローチする場合も見られることから、企業における外国人人材の活用の主な目的を整理すると、以下の3タイプに分かれる。
日本人人材の代替としての外国人人材の雇用は、日本と諸外国の賃金格差がある現状では、当面の間の代替手段としては有効である。ただし、他社では機械化、合理化が進むことを前提とすると、より一層の生産性の向上のためには、低賃金労働への依存には限界がある。また、人材不足が進む中、国内の労働市場で人材獲得の競争に打ち勝つための対策は必要である。あえて外国人人材の活用を狙うのであれば、グローバルで活躍する専門性を身に付けている人材の獲得や外国人の持つ視点や特性を他社との差別化に活かすことを目的とするのが中長期的には望ましい。今後、企業における外国人人材の活用が、単なる労働力の代替から外国人人材の特性を活かすことや、広く海外の労働市場へと優秀な人材を確保する動きにつながることを期待したい。 本稿では、多様な背景をもつ人材の採用と定着に関する課題の一つとして外国人人材の受け入れについて整理した。外国人人材のフィルターを用いて人材の採用と定着に関する課題を考えることで、従来、無意識に当たり前として、画一的な価値観に当てはめてきた環境を、捉え直すきっかけとしたい。多様な価値観を持つ社員が、生き生きと働く環境づくりと考えれば、外国人人材だけでなくその他大勢の日本人の人材にとっても良い職場が生まれると考える。 次回は、企業の目的別により踏み込んだ外国人人材活用のポイントをご紹介する。
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