JAVADA情報マガジン5月号 フロントライン-キャリア開発の最前線-

2019年5月号

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企業タイプ別 女性のキャリア形成支援(2)

株式会社日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門マネジャー
   織田 真珠美 氏 《プロフィール

前回は、「Ⅰ.女性は少なくすぐ辞める」「Ⅱ.女性は多いがすぐ辞める」の区分について、各企業の特徴と女性が抱えやすいキャリアの課題を確認した。本稿では「Ⅲ.女性は少ないが活躍」「Ⅳ.多くの女性が活躍」「Ⅴ.管理職として活躍」の各企業について、女性が抱えやすいキャリアの課題を確認する。

前回と同じく、図は企業の女性の割合(横軸)と平均勤続年数(縦軸)に着目し、記号で各区分の今後の女性活躍の進め方を示したものである。

今後の女性活躍の進め方

 

Ⅲ.女性は少ないが活躍

女性社員の人数は少ないが定着率が高い企業には、男性社会の中、自らの実績でキャリアを切り開いてきた社員がいる。このような中堅社員と、新しく入ってきた社員とでは、キャリア形成における課題が異なる。

中堅社員においては、一スタッフではなく、後輩の指導やプロジェクトのリーダー、管理職候補など、業務や人材をマネジメントする場面で、新たな課題に直面する。例えば管理職を断るケースにおいては、自らが背負う責任と業務負荷への不安から、新たなチャレンジに前向きになれない場合がある。このような企業では、管理職の長時間労働の常態化や、管理職が仕事を抱えすぎてしまい、スタッフが管理職として必要なスキルや経験を積む機会が少ない傾向がある。こういった職場環境が、管理職を敬遠させる一因となっている。

各社が実施している女性活躍推進の施策の中で、これまでリーダー経験のない社員に対して、人や業務をマネジメントする役割を与える例も多くなっている。その際に、「女性ならでは」「女性の先輩として」と期待されるものの、元々、男性社会の中で成長してきた人材にとっては、「女性の役割」を求められる事に対して違和感を覚えている場合がある。その結果、気を使いすぎてしまうケースや、反対に自分のやり方を押し付けてしまうケースが見られる。「任せる」ことは重要であるものの、急な環境変化についていく事が出来ない人材も多い。本人が環境を変えずに、新たな挑戦ができるようにして成功体験を積ませる工夫が有効である。

一方の若手スタッフにおいては、若い世代を中心に、仕事もプライベートも充実させたいという志向が強い中、仕事が中心あるいは、時には無理をしながら両立を図っている先輩社員の状況が、プレッシャーになっているケースが見られる。女性社員は未だ少数派であり、自分と同じようなライフスタイルや価値観を持った先輩社員に出会えない場合もある。その結果、先輩女性社員からのアドバイスを、押し付けと感じて素直に受け入れられない若手社員と、アドバイスを受け入れない後輩社員に対する不満を抱える先輩女性社員との反目が生じる場合がある。このような場合、若手社員は職場で受け入れられていないと感じて、社会人としての自己のアイデンティティが確立できず、将来のキャリアに対する不安やモチベーションの低下を生じて、転職するケースがある。このような悩みを抱えた社員には、例えば外部のセミナーや社外の交流会への参加を促して、多様なキャリアに接する機会を与えることや、長期的な視野をもってキャリアを考えるように促すこと、自らの価値観を振り返って現在の仕事を再定義する等のキャリアを振り返る機会を定期的に設ける事が有効である。

育児や介護等のライフイベントを迎えた女性社員を抱える職場では、社員が短時間勤務や休業をすることで一時的とはいえ職場の負荷が高まる。日本企業では多くの職場で要員配置の余裕がない中、職場への負荷が高い状態を放置することは、職場の不満を高めることに繋がる。まずは業務の見直しや派遣社員の活用などによって、職場の負荷が高い状態を改善する事が必要である。その上で、育児や介護といった特別な事情に関わらず、誰もが仕事もプライベートも無理なく両立できるように職場環境の見直しを図ることや、社員同士が互いの戸惑いや焦りを含めて理解を深める機会の設定等が効果的である。

 

Ⅳ.多くの女性が活躍

女性社員の人数が多く定着率も高い企業では、女性活躍推進が全社的課題として取り組まれていて、女性社員に対する期待役割が高まっている。女性管理職への登用を視野に入れて、従来にない企画業務を任せたり、マネジメント経験を積ませたりする企業もある。この結果、女性社員は環境変化に対する戸惑いを感じている。新しい業務やキャリア形成に対する不安への対処にはいくつか方法が考えられる。例えば、本人に対して新しい役割の目的や何故任せたいと思うのかといったことを明らかにして本人がその役割を意義付けることを支援することは有効である。また、明確に役割を変えるのではなく、当初はメインのリーダーのサポート役から少しずつステップを踏ませる等の、仕事の与え方の工夫や、本人に不足するスキルやノウハウを補う体制を明確にして、安心してチャレンジできる環境を作る等の工夫が有効である。

スタッフにおいては、既に中堅とされる先輩社員に多様なモデルがでており、相談できる先輩・同僚がいる恵まれた状況にある。一方で、女性の就業を継続させるための制度が充実し、取り組みに対する社会の認知が高まることで、制度や企業風土に対する期待値が高い社員が入社してくることとなる。その結果、制度の利用を当然と考えて職場への配慮が足りない社員の行動が目立ち、制度を利用する社員としない社員との間に、軋轢が生じる。少し前の事例ではあるが、資生堂では美容部員のシフトを巡ってこの問題が顕在化した。当時、時短勤務の美容部員の人数が制度の想定した以上に増え、午後5時以降の繁忙期のシフトに入れる部員は非常に少なく、負荷が偏って不満が出ていた。

このような状態になった場合、どのように対処すべきか。先程の資生堂の例では、時短勤務の美容部員であっても遅番のシフトや休日のシフトに入るように制度改革を行った。この結果、負担が平準化されて美容部員間の不平・不満が解消され、時短勤務者から「今まで負い目を感じていたので、制度が変更されてよかった」という感想が得られるまでとなった。その他の取り組みとして、遅番や早番、休日出勤などの負荷が高い仕事には負荷に見合った報酬を支払うことや、代替要員を増加して職場をサポートする方法、制度を利用する側に対して、職場への配慮や休職前や復帰時の心構えを伝える場を設ける等して、理解を促す取り組みが考えられる。加えて、誰もが有給休暇を取得しやすくしたり、勤務時間と場所の柔軟性を確保したりすることで、育児や介護といった事情だけでなく、多様な「プライベートの事情」を反映しても仕事ができる環境を整備し、社員が互いに相応の負担を引き受け、その代わりに恩恵を受ける事が出来る状態になることが期待される。

 

Ⅴ.管理職として活躍

「女性が管理職として活躍する企業」は、「多くの女性が活躍している企業」あるいは「女性は少ないが活躍している企業」が進化する事が自然である。

十分な時間をかけて女性社員を管理職候補として育ててきた場合はよいが、女性管理職を増やす事が先行して、会社が無理に管理職に引き上げたケースでは、弊害が起きる。スキルが足りず本人が苦労するほか、本人のモチベーションが必ずしも高くない事、「管理職に登用されたのは『女性だから』」と周囲が認識してやっかむことで、本人が萎縮し意固地になって周囲の協力が引き出せなくなる等して、管理職としての期待を果たせない事が考えられる。企業は、数値目標の達成にとらわれず、社員に経験を積ませ、時間をかけて管理職への登用を進めるべきだ。一方で、既に登用をしている場合には、タイムマネジメントや業務の優先順位付けなどのスキルを強化させることが有効である。より積極的な取り組みとしては、ダイキン工業が実施しているメンター制度が参考になる。これは、女性社員の成長意欲や挑戦意欲を向上させる為の制度で、先輩社員である役員や上司がメンターとなりキャリアや職場に関する相談を受ける場を設けて、女性管理職をサポートするものである。従来このようなサポートは飲み会等のインフォーマルな場で行われる事が多かったが、女性の場合、プライベートな事情でそのような場に参加する事が難しいケースや、男性上司と女性の部下が個別に会食の場を持つことは躊躇われる場合も多い。あえて、公式な場を設けることで、部下から上司に気兼ねなく相談できる環境を作る事は有効である。

 

2回にわたって企業タイプ別に女性が抱えやすいキャリアの課題を確認してきた。最後に、個人のキャリア形成を考えた時には、何より本人の意思の確認と主体的な参画を引き出す事が肝要であることをお伝えしたい。筆者の友人には、これまでの役割と処遇に満足していたが、本人の意志とは無関係に会社の方針によって女性活躍の旗振り役に抜擢された結果、かえってモチベーションを低下させて転職してしまった女性もいる。会社としては、これまで述べたような「本人が安心して挑戦できる環境」を確保した上で、本人が主体的にキャリアを積むように促す事が必要である。

 

 


 

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