JAVADA情報マガジン1月号 フロントライン-キャリア開発の最前線-
◆2019年1月号◆
「職場でキャリア面談」のススメ ~ ふだんづかいのキャリア開発 |
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経営人事コンサルタント、有限会社キャリアスケープ・コンサルティング代表 |
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キャリア面談はいつやるの?職場で上司と部下が行うキャリア面談について、目標設定面談など人事評価制度上の面談とは別に実施することの意味を前回、説明しました。キャリア上の節目は個人のライフイベントによることが多く、企業経営と深く関わる人事評価制度上の区切りとは関係がないし、そもそも業績の達成を目的とする組織主導の人事評価面談と、個人の中期長期のキャリア展開を考えるキャリア面談ではその主役が異なるので、切り離して実施することがむしろ効果的というものでした。 しかし、一方で、「いつでもよい」といわれると「結局今年はなかった!」ということになりはしないか、と懸念する人もいるのではないでしょうか? この点について言えば、時期ではなく頻度を意識するのが効果的です。
人事評価制度上の面談も「頻度」が大切頻度ということでいうと、人事評価制度上の面談も、制度上設定している面談は「最低限」であり、納得感や評価することの効果を高めるなら頻度に着目すべきです。 まず評価に対する納得感という点。評価が納得できないのはそもそも目標の立て方が抽象的だから-という指摘もありますが、期首の目標設定にいくら時間をかけてもあまり納得感は得られません。組織を取り巻く環境の変化は早く、大きくなっていて、1年後はなおのこと、半年後も読めなくなっています。期首の時点で「重要で難易度も高いから、これができると高く評価してあげられるよ」としていても、期間が終わってみるとそれほど難しくはなかったり、むしろやらない方がよかったり、ということがあります。またその逆もよくあることです。 達成すべき目標について、達成に向けて使えるリソースは何か、達成する上で何を重視すべきか、それに取り組むことが企業の社会的価値の向上にどのように寄与するかーといった点を期首に共有するという点では大きな意味があります。しかしその前提は変化するのです。大切なのは期中にその変化を確認して臨機応変に求める成果を設定し直すことです。そうすることで上司は部下によりタイムリーな業務配分が行えますし、部下は期首に設定したものの意味が変わってしまった目標に囚われたり、期中に増える業務が"目標管理評価表"に書いてないことに「本当に評価されるのだろうか」と心配したりすることもなくなります。 また人事評価を行うのは処遇決定のためだけでなく、部下の育成のためでもあるとは、人事評価に関する解説資料では必ず書いてあることです。しかし半年に一度、評価結果をフィードバックするだけでこれを実現するのは難しいでしょう。期末になってまとめてフィードバックしても時機を逸しています。改善する必要があるのならその時点で指摘しておけば残りの期間で対処できたはずです。部下にしてもそれならそうといってくれたらよかったのにと思うでしょう。期中に自身の取り組みを振り返り、経験学習を進めるうえでも期中のフィードバックが効果的なのです。
髙頻度で低負荷人事評価制度上の面談もキャリア面談も期中にタイムリーに行うのがよいのです。極論を言えばこれまで目標設定面談に1時間かけていたとするなら20分に分けて3回やった方が効果的なのです。 「頻度高く面談をする」という前提に立てば、その中で人事評価に関する面談、部下指導のための面談、キャリアに関する面談というように、その都度、適切なテーマを決めて実施することが可能になります。この意味で、好例となるが「ヤフーの1on1 部下を成長させるコミュニケーションの技法」(ダイヤモンド社、本間浩輔著)で紹介されるヤフー株式会社で実践されている方法です。 同社では上司に対して「週1回30分」の面談(これをヤフー株式会社内では"1on1(ワンオンワン)"と呼んでいます)を徹底しています。詳しいいきさつや導入のポイントなどは書籍に譲るとして、ここで着目したいのは、頻度高くすることでコミュニケーションが密になり、かえって話が早くなり、結果的に上司の負荷も減っていくこと、そして部下が主体的にキャリアを考えるようになるという点です。 話が早くなるとはどういうことでしょうか? 同社の場合1週に1度のサイクルで面談を実施します。ですから次の面談を意識し、考えておきたいことを双方で決めて終えることができます。次の面談はそこからスタートできます。テーマが決まっているのですから、本題にすぐに入れます。人事評価上の面談をテーマにした書籍を見ると「最初は簡単なアイスブレークと労いの言葉を」と書いてあります。なぜこうしてあるかというと、評価に関わる面談ということになると、いいづらいことを伝えなければならないし、ことに評価のフィードバックについては期間が空いていることが多く、関係構築を改めてする必要性があるという前提に立つからです。頻度が高ければ関係性の質が高まりますからこうした配慮はほぼ不要です。 キャリアについての話も同様です。1年1度だと前回話したことは忘れていることが少なくありません。お互いに「5年も10年も先のことだし、計画したからといってすぐにその通りになるわけではないから」と思っているので、曖昧な記憶をたどりながら「去年と同じだよね」で終わってしまうことも少なくありません。
キャリアゴールにつながるいまここしかし中期長期のキャリア展開、キャリアパスは足下から始まっているのです。 「将来は地元に帰って家の花卉栽培を引き継ぎながら会社で働き続けたいと言っていたね。地元の拠点長は1つの選択肢だよね。ところで、今担当してもらっているエリアマーケティングだけど、5年、10年後の事業計画にも使えるように改善してほしい。そのためには主要ユーザーのトップからこの領域についての中期ビジョンを聞き取りしておく必要があると思う。相互に情報提供し合える関係づくりをして欲しいんだ。僕もそうだったんだけれど、地域で情報を持つ人の探索し関係づくりをしていくという経験は拠点長には欠かせない能力なんだ。君が将来拠点長としてやっていく上で役立つ経験と思うがどうだろう」 このように今の業務が将来のキャリアに向けて位置づけられるだけで部下にとっては意味が異なってきます。こうしたことができるのは担当業務に詳しく、またその領域において先行するキャリア上の経験を持っていて、さらに部下が考えているキャリア展開に関する情報も知っている上司だからこそできることです。 最終的なゴールはずっと先のことであっても、そこに向けた道筋の一環として当面の業務、今担当している仕事を意識できることは、本人のモチベーションにポジティブに影響します。これは上司にとっても望ましいことのはずです。 頻繁な面談があるからこそ、面談の目的を「目標設定」「中間」「フィードバック」「キャリア」といったように固定化してしまわないことが、こうしたタイミングのよい指導・育成/キャリア開発支援につながるといえます。
詳細な自己申告書は必要?また、先に記したように1年に1度の面談では、部下に「次回までに考えておこうか」と課題設定することは難しいところです。キャリア面談の実施に当たって本人に自己申告書を提出させ、これを元に面談を進めるという方法で補う方法もあります。しかし、考えておきたいのは、前回も説明したように個人の状況は変わるという点です。4月にはそうだったかもしれませんが、その後変わっているかもしれません。 またこの自己申告書、どこまで記入してもらうかという点では、個人情報の取り扱いをめぐる考え方の変化を見逃せません。かつては本人のキャリアに関する情報として、職務に関することだけでなく、既往症の有無や家族の状況、持ち家かどうかといったことを書かせることにためらいがない会社は少なくありませんでした。 こうしたプライベートな状況を、すべての社員について一律に会社や上司がつかんでおく必要があるのでしょうか? また、こうした情報を集めたとして、その管理はどうするのでしょうか? 上司は異動で変わりますが、変わるごとにその人の情報を知る人は拡散してしまいます。その際以前担当した部下に関する情報をどうやって更新するのでしょう? 古くなった曖昧な情報が無造作に拡散してしまう懸念があります。 面談が頻繁に実施されていれば、部下の方から自身のキャリア開発という観点で知っていてほしい、配慮してほしい上司に伝えるでしょう(例えば「家族の認知症が進んだので、今は異動できない」といったこと)。上司は必要な情報提供を自然に部下から受けることができます。部下にしてみれば、配慮してほしいと思えば伝えるしかないわけで、自分なりに準備をしておかなければよい時間にはなりません。どこまで伝えるか、どう伝えるか、そうした上司に伝える前の迷いこそキャリアコンサルタントといった外部の専門家に相談する意味があります。
キャリア開発の理念は上司にも上司はそうして得た情報はあくまでも自身のマネジメントの範囲で活用することになります。仮に後任に引き継ぐとしても「家の事情で時間外勤務への対応は難しいということを後任の管理職に引き継いでおきたいと思うけど、君はどう考える? 自分で説明するかい?」と部下に確認しながら進めることができます。ここでも部下が主体のキャリア開発が進んでいくことになります。 上司が準備しなければならないことは部下一人ひとりのキャリアプランではなく、キャリアを考えるサポートをすることです。部下が将来どうなるかを保障することではなく、ありたい自分に部下が近づくための思索を支援するのが面談でキャリアがテーマになったときの上司の役割となります。 その意味では上司自身が自分のキャリア開発に主体的に取り組んでいることも欠かせません。上司が組織任せでキャリア開発に取り組んでいるのであれば、意図せずそのような対応になりがちだからです。そこで次回は、部下のキャリア開発のサポーターとして上司が知っておきたい知見、意識しておきたいスタンスについて取り上げたいと思います。
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