JAVADA情報マガジン10月号 フロントライン-キャリア開発の最前線-

2018年10月号

←前号 | 次号→

第3回 外国人の技能実習生、労働者が安心できる環境を

経済ジャーナリスト
   柏木 慶永 氏 《プロフィール

新しい外国人のための技能実習制度が11月1日で2年目に入る。従来の制度が多くの問題を露呈したため、技能実習法という法律に基づいた制度で、実習生の技能修得を促進し、自国の発展により役立ててもらうよう内容の充実とともに、厳しい罰則も設けた。だが、新法施行から1年たった今、本来の目的を逸脱し、不正行為をする企業が続出し、新たな問題が浮かび上がってきた。一方で人手不足により急増する外国人労働者の受け入れ対応も重要な課題だ。それらの外国人が安心して技能習得や労働が出来るよう、厚みのある政策の実現が必要になる。

外国人の研修・技能実習制度が導入されたのは、1989年に入国管理法を一部改正し、在留資格として「研修」を新設したのが始まり。その後1993年に研修生受け入れを拡大し、研修期間を最長1年とした制度を創設、本格的な技能実習制度がスタートした。日本が国際貢献の一環として開発途上国を中心に外国人を日本で一定期間受け入れ、指導して技能を移転する制度として、中国、東南アジア諸国から注目された。2017年末時点で中国、ベトナムなどから約27万人の技能実習生が在留し、毎年増加している。

ところがこの制度は欠陥だらけで抜け道が多かった。このため折角受け入れても受入企業が本来の技能実習の趣旨を逸脱し、低賃金、長時間労働など作業労働者として活用するなど、人権軽視ともいえる状態を引き起こした。また特に政府間の取り決めがないため、実習生を送り出す国の機関が実習生から保証金を徴収するなど不正が横行していた。日本側も受け入れる管理団体、実習事業者に対する義務や責任がないうえ、法的権限のない公益財団法人国際研修協力機構が担当してきた。

このため実習生は日本に行くために、自国の送り出し機関との間で様々な契約があり、しかも法外な保証金を払ってやっと実現するほどだった。しかも日本に来たら技能実習でなく、人手不足による労働者として雇われるケースが続出し、本来の技能を身に着ける目的からは程遠いものだった。さらに悪質なのは受け入れ事業者が途中で帰国しないように、実習生のパスポートを取り上げた例もあり、実習生が失踪する騒ぎが頻繁に起こった。日本語能力の低さもあり、それが事故や事件を引き起こす事態を招き、外国人に対するイメージの悪化につながった。

こうした技能実習生の実態は国際貢献どころか、逆に日本に対する不信感を増幅させることになった。そこで政府は新成長戦略の一環として同制度を抜本的に見直した。とりわけ人権保護と本来の技能移転に重点をおくため、新制度を法律で縛ることにした。それが新たに制定した「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」(技能実習法)だ。法務省と厚生労働省の共管として2016年秋の臨時国会で11月18日に成立、公布され、17年11月1日に施行された。

その内容は①実習生を送り出す国との政府間取り決めを作成②管理団体の許可制、実習実施者の届出制、実習計画の認定制を規定③認可法人として「外国人技能実習機構」(認可法人)を創設し、管理団体等に対し報告を求め、実地検査の実施④人的侵害行為等に対する通報・申告窓口の整備と罰則、実習先変更支援の強化⑤所管官庁、都道府県に対し、各種業法に基づく協力要請と関係行政機関による地域協議会の設置―などだ。

また技能実習期間をこれまでの3年間から5年間に延長した。これは1年目の基礎級、3年目の3級に加え、さらに技能力を高めたい実習生で、技能検定3級相当の実技試験に合格した者を対象に2年間延ばす。但し3年目終了で一旦帰国(1ヵ月以上)し、入国に当たらい改めて在留資格の変更または取得を義務付けた。意欲のある実習生がより高度な技能を習得できるようにした。

これにより外国人実習生は安心して日本での技能実習に励むことができるようになり、新法に大きな期待がかかったのだ。ところが新法施行から1年も経たない中で、実習生の受け入れ企業や管理団体の中には新制度の目的を無視し、旧態依然の対応をするところが目立ち始めた。技能実習でなく労働力として活用したり、申請した実習技能の内容とは異なる職種に従事させたりするなどの問題点が出てきた。大手の自動車メーカーや電機メーカーでも実習目的と違う職場で働かせていたという。

また従来から指摘されていた農業や中小企業などで、収穫作業や作業労働者としての活用も依然後を絶たないという。本来は管理団体がこうした問題点を指摘し、改善を指導する役割がある。だが、管理団体自体が企業に実習生を斡旋することに力を入れ、本来の役目を軽視するケースが増えているといわれる。

なぜ外国人技能実習生とは名ばかりの状態が横行するのか。その背景は人手不足の深刻化だ。日本は少子高齢化が世界で最も早く進んでおり、将来の日本を背負って立つ生産年齢人口(15~64歳)が大きく減少する見通しにあることだ。生産年齢人口は年々減り続け2018年1月時点で7484万人。それが、20年後の2035年には6494万人にまで減るといわれる。このままだと日本の社会、経済は衰退を続けざるを得ない危機的状況に陥る。

そこで急ピッチで進展しているのが、人工知能(AI)やIT化だ。これら最先端技術が多様なロボットを生み出し、多くの分野で人間に代わって仕事をするようになる。少子高齢化が人手不足を助長し、とりわけ介護、コンビニエンスストア、建設現場、製造現場などでは深刻度が増している。2017年10月末時点の外国人労働者は約128万人で、生産労働人口の58人に一人の割合だ。こうした日本社会の現実から、政府は働く外国人の受け入れ拡大を図る方針を固めた。それは新たな在留資格として、一定の技術水準と日本語能力のある外国人に対し、最長5年の在留資格を与えるというもの。ただし移民は認めないという。

だが外国人労働者を受け入れるためには、日本語教育が重要になる。現状は留学生を対象にした日本語学校は設置基準が緩いため、本来の勉学でなく、就労目的で来日するケースが続発している。一部の学校では授業時間をごまかし、単位を水増しするところがあるとの指摘もある。つまり1年間通わなくても単位が取れ、残った多くの時間を就労に回して賃金を手にするというわけだ。政府はそれを防止するために、本来の留学生の目的を達成するよう日本語学校の設置基準を厳しくする方針だ。

外国人登録をしている在留外国人は17年末時点で約256万人にのぼり、その半数が労働者で毎年増え続けている。そこで政府は今年6月に公表した骨太の方針で、一定の専門性や技能を持つ外国人労働者の受け入れ拡大するため、来年4月から新たな在留資格を設ける。人手不足対策としての措置だ。

このように日本の人口構造は急激に変化しており、外国人労働者の力なしには社会が成り立たなくなっている。そのため彼らが日本で安心して生活できるよう、しっかり対応する必要がある。ただ、そうした現実に政策が追い付かなくなっていないか。技能実習制度と外国人労働者受け入れ問題は別の問題に見えるが、人手不足の中でいつの間にか根っこがつながっているように思う。こうした実情を踏まえ、政府は関連施策や法律が実態に合うよう、さらなる見直しをする必要がある。彼らを低賃金で働かせることは、日本の非正規社員の賃金抑制につながり、個人消費の低下を招く、との指摘もあるからだ。

世界で3番目の経済大国である日本は、外国人観光客の増大策ばかりに力を入れるのでなく、外国人技能実習生、外国人労働者、留学生に対する人権擁護をはじめ賃金、社会保障面を充実させ、働きやすく勉強しやすい受け入れ環境を早急に整備する必要がある。もちろん外国人が増えれば医療費増大などコスト増、事件・事故増といった問題もある。だからこそ「さすが日本は素晴らしい」と、世界中から称賛されるような施策を講ずることが何よりも重要である。

 

 


 

前号   次号

ページの先頭へ