1.はじめに
筆者は、現在複数の大学にてキャリアコンサルティングやキャリア形成関連科目の授業を複数科目担当している。特に直接関わりのあるキャリアコンサルティング(相談業務)を通して実際に経験したことから話をしたいと思う。
最終回に取り上げる内容は、大学生の多様な悩みに対してどう取り組んでいるかとそのためにキャリアコンサルタントとして、「必要なスキル」「自己研鑽」を考えてみた。客観的だけではなく、主観的な見解を含めて書き記すことにする。
2.大学でのキャリアコンサルタントの立ち位置
ほとんどの大学では、キャリアセンター、キャリアサポートセンターなどと呼ばれる学生の就職に関するすべてを取り扱われている部署が存在する(以下、キャリアセンターと呼ぶ)。キャリアセンター内では、就職に関する書籍や卒業生の就職先資料などが揃っており、大学職員が運営をしている。また、その一角に相談業務を担当するキャリアコンサルタントのブースが用意されている。そこで活動しているキャリアコンサルタントは、大学職員か外部からのアウトソーシングとなる。外部からの雇用形態は「業務委託契約」が多く、大学との直接契約やもしくは、人材派遣会社などの仲介が入り、指示命令系統が異なる業務となる。
【図表1 キャリアコンサルタントの指示命令系統】
(筆者作成)
指示命令系統が異なるということで、キャリアコンサルタントの立ち位置が多少なりとも変わってくる。大学と直接業務委託契約をしている場合は、業務に関しての提言が直接大学側に伝わるため、解決までに比較的短く、キャリアセンターの大学職員との一体感がある。一方、仲介会社が入る場合は指示命令系統に段階があり、直接業務を見ていない仲介会社が大学とキャリアコンサルタントの提言を聞き入れ調整するために分担業務という感じがする。それでは、すべて直接雇用をすればいいのではという問題が起こるが、それは、キャリアコンサルタント側の意見であって、大学側や仲介会社の営利・経費問題や経営方針に関わってくるために難しいことである。最近は後者の契約形態の方が多いかと思われる。
そのために大学側やキャリアコンサルタントを結ぶ仲介会社が、双方のコミュニケーションを考え、懇親会などの機会を設けているところが多い。また、キャリアコンサルタントと仲介会社の担当者との意思の疎通も重要視されており、その間のコミュニケーションを豊富にとることが業者側とキャリアコンサルタント双方とも努力すべき点である。
3.学生とキャリアコンサルタントの柔軟な価値観のつくり方
筆者が今まで複数の大学での相談業務をしていて感じることのひとつに、学生の固定的・絶対的な価値観に対してどう反応していくかということである。
キャリアコンサルティングの基本考である「自己決定権の尊重」を大切にすることを前提に、意思決定する前の時点を重要視している。本来誰しもが持っているであろう固定観念からの選択ではなく、多肢にわたる選択肢をつくり出し、そこから学生が自律的に最善なキャリアをデザインしていくことを支援の軸をしている。そこには、キャリアコンサルタント自身がまず固定的・絶対的概念を持たずに、「フラットな支援姿勢」を心掛けていくべきだと強く感じる。「フラット」とは、ロジャースの来談者中心療法の「自己一致」の部分である。学生の価値観と自分の常識に対して天秤にかけても傾くことなく、まっすぐな状態で傾聴していくことを心掛けている。
基本的に学生の価値観に対して、良し悪しを考えたことはなく、柔軟的に思考の幅を広げられるように支援していくと、学生自身の自己理解のプロセスとして「進化」「深化」「伸化」「新化」していくことを期待しながらキャリアコンサルティングをしている。
【図表2 自己理解のプロセスから新しい価値観づくり】
(筆者作成)
それには、傾聴をしながら、画一的な自己理解をさせるのではなく、多面的な自分探しをすることを支援していくことで、自分でも知らない自分「盲目の窓」(ジョハリの窓)が開かれるのである。というよりも忘れていた自分を思い出すといったほうが正しい。それは本当の意味で「経験の棚卸し」であり、行動特性を知ることにもなる。そのことから新しい自分を発見することもあり、従来の価値観プラスαが職業選択を含む学生本人のキャリアを構築する礎となっていくと考える。
4.さまざまな大学の学生に合わせたキャリアコンサルティング
大学での相談業務の多くはES(エントリーシート)の添削である。その他面接対策、業界絞りこみ、自己分析の方法、内定が取れない悩みなどがある。これをどの大学でも同じようなキャリアコンサルティングをしてしまうと上手くいかなくなることもある。そこで筆者が相談業務を経験した3大学のキャリアコンサルティングの違いを述べることにする。
A大学は首都圏私立大学で平均偏差値70、B大学は地方公立大学で平均偏差値57、C大学は首都圏私立大学平均偏差値40の3校の学生を対象とする。それぞれのレベル間でのキャリアに関する考え方やキャリアコンサルティングの違い、また筆者が考えるそれぞれの学生に対する最善のキャリアコンサルティングをまとめる。
A大学の学生の特徴は、大企業志向が強く、人気企業への就職を希望している。また、国家公務員上級など全般的に知識を有することが必要であるため、相談に訪れる時には、かなりの準備がなされている。書類や文章を見るときには、文章の構成やエピソードから何を強調したいかを『論理的』に説明してあげないと、学生は納得しない。ロジカルシンキングが必要であり、学生以上に論理的思考が求められる。はじめの5分で学生もコンサルタントを見極めるので、文章校正力というよりも筋立てて話すスキルが必要である。また、面接で力を発揮できないとの相談が採用選考が進むにつれ多くなり、複数企業で内定一歩手前の最終選考で落ちてしまう学生が多い。そのような学生には、「企業に対しての最後の準備」を怠っていなかったか、就活の軸の基礎である「人生における信念」は何なのか、自己理解・職業理解・意欲の総まとめを確認する必要がある。
B大学の学生は、全国から集まり、のどかな環境とそれほど大きくない学校の規模で公務員や教員を目指す学生が多いが、最近は民間の企業にも就職している。数年前までUターン就職が多かったが、首都圏への就職にも目を向け始めている。まず、東京など大都市の学生と対等に採用選考を受けることになるので、物怖じしないように自信をつけさせることから始める。机上の勉強には真面目に向き合うことができるが、人前で自分のことを伝えることに不得手と学生自身が感じている。
「表現する言葉を増やすこと」や「見られる自分に慣れること」ができ、キャリアコンサルタントが背中を少し押してあげると、「前に踏み出す力」(社会人基礎力 経済産業省2006)が発揮できるのである。
C大学の学生の特徴として、自分からキャリアセンターに訪れる学生は少なく、大学の教職員から勧められてくることが多い。まず、ラポールの形成に一番重きを置く。相談時間の全てをそれに費やすこともしばしばである。それを怠ると、二度とキャリアセンターに顔を見せなくなるからである。インテーク面談に最も力を入れなくてはいけないのは、C大学のレベルの学生である。自己分析も傾聴をしながら、一緒にロジカルツリーにして自分のことを分析して紙に書かせると納得する。視覚の部分を大切にしている。根気強く楽しませて語らせることで、自己分析が難しいことではないという意識づけから始めていく。
大学ごとに学生の就職事情が違い、キャリアコンサルタントに対する要求や期待は当然変わってくる。キャリアコンサルタントは、その状況を把握したうえで、一人ひとりの個性を引き立たせることを念頭に置き、支援に努めなくてはならない。キャリアコンサルティングの技法や役割は大切なことであるが、それ以上にどの学生に対しても「好意的関心」を持ち、心のふれあいをしていくことで、本当の意味での「受容・共感」をしていけるのだと信じている。しかしながら、学生自身の「自律的キャリア形成」を促すためには、依存させることを避け、客観的な立場を維持しながら支援をしていくことがキャリアコンサルタントとして、最低限に守らなくてはいけないことだと常に感じている。
5.自己研鑽とスキルアップのために
キャリアコンサルタントとしての自己研鑽は技法だけではなく、キャリアコンサルタント自身の「人間力」を養うことが重要であると感じる。クライエントの人生そのものに関わる仕事としても責任感を常に持つことと、さまざまな変化に対応できる適応力を養うことで、はじめて「自己一致」して傾聴できるのだと思う。
また、2024年までにキャリアコンサルタント10万人計画のなかで、生き残れるキャリアコンサルタントになるためには、自ら進んで専門的な学びを進めていくことが不可欠であり、実力をつけていくことである。
近い将来、キャリアコンサルタントは専門分野を問われることになると筆者は予測している。「自分はどのような強みがあるのか」「どの専門分野のキャリアコンサルタントなのか」を明確にしていくことを要求されるのではないかと推測する。10万人になるキャリアコンサルタントの求められるスキルは、キャリアコンサルタントとしてのスキルプラスαであり、そのプラスαを持てるかどうかが問題となる。
昨今、国家資格キャリアコンサルタント養成講座に通う受講生には、社会保険労務士や行政書士などすでに「士業」の資格を持ち、キャリアの蓄積を臨まれている人も多いことも上述したことの証となり得る。
キャリアの積み重ねをする背景には、キャリアコンサルタントの資格を取得したものの、すべての人が希望通りに仕事に就ける現状ではない。それを打破するためには、自分の強みと組み合わせることで、生き残れるキャリアコンサルタントになると考える。そしてそのことを踏まえたうえで、キャリアコンサルタント間で経験機会の差が広がることの懸念と増加しているキャリアコンサルタントの「育成の標準化」に関して、どう対処していくかが今後の課題となるであろう。
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