JAVADA情報マガジン5月号 フロントライン-キャリア開発の最前線-

2016年5月号

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第二回 キャリアコンサルで、会社を強くするには? 実施のメリットとデメリット

キャリアカウンセラー、ファイナンシャルプランナー、調理師、自動車整備士
  大野 利勝 氏 《プロフィール》 

本題に入る前に、先日ちょっとしたサプライズがありましたので、その話を掲載させていただきます。

先日、とあるキャリアコンサルタントの研修に参加させていただいた際に、その会場に木村 周 先生がご登壇のため、ご参加されていらっしゃいました。
 私がここで説明するまでもなくご存じの方も多いと思いますが、木村先生はキャリアコンサルタントの教科書(バイブル?!)ともいえる、「キャリア・コンサルティングの理論と実践」を出版された先生でいらっしゃいます。
 私は、木村先生と初めてお会いしたのですが、お会いした際に、私が持っていた先生の著書にサインをお願いしました。すると、気さくに応じていただき、サインをしていただけました。

資料

その際に、先生より、私の職業をご質問いただきましたので零細会社の経営に携わっていることをお伝えしますと、サインの前に一言お言葉を入れていただけました。
 なんと、その際のお言葉が、「キャリアコンサルティングは、経営そのものです。ガンバッテ下さい。」でした。
 私には、このコラムにも通じる内容だと感じられ大変感動いたしました。
 あまりにタイミングのよい内容に、木村先生に、このコラムの件をお伝えして、このお話をコラム内でご紹介してよいか伺ったところ、ご快諾していただけましたので掲載させていただきたいと思います。

セミナー会場にて、木村 周 先生(右)と共に - (左)大野
(セミナー会場にて、木村 周 先生(右)と共に - (左)大野)

私の感覚の中では、経営とは、もちろんお客様を見ることで、お客様のニーズや、社会の経済状況なども把握し勘案することも大変重要と考えていますが、それとともに、その立案されたサービス(業務)を提供するのは、そこに集まる人々であり、その中でも働く人々は大変重要なポジションだと考えています。
 ですので、経営に従業員の問題は大変重要なファクターとして捉えてきました。
 木村先生から頂いた「キャリアコンサルティングは、経営そのものです。」とのお言葉は、その意味をまるで一言で表すような意味合いに聞こえ感動的にも感じられたのです。

木村 周 先生に、大変ありがたいお言葉をいただけたこと、そして、掲載をご快諾いただけたことに、感謝の意を記載させていただきます。

 


 

冒頭から、少々予定のテーマとは逸れていましましたが、本題のメリット、デメリットに戻って記載していきたいと思います。

実際に従業員の相談を受けていくと、当然自社にとってデメリットのある話も出てきます。
 それでも、なぜキャリア相談を行うのか?(行う必要性はあるのか?)という点を、その理由を含めご説明させていただこうと思います。

「従業員の待遇UPをすること」は、あなたの会社では、どうお考えになりますでしょうか?

従業員の待遇UPをすること = 会社のデメリット

な感覚でしょうか? 言い換えてみますと、

従業員の待遇up(従業員のメリット) = 経費up、利益率down(会社のデメリット)

となるかと思います。

確かに、そうなりやすい状況が多いと思います。このことは、ある意味事実です。
 会社と従業員がこの関係であれば、会社と従業員のメリット・デメリットは、背反二律の関係にあり、「搾取する者と搾取される者」の関係になってしまいます。
 この概念のまま、キャリアコンサルティングを行えば、従業員に働くことの意義の本質を理解させるキャリアコンサルティング業務は、会社のデメリットを生む業務になってしまいます。

しかしよく考えてみると、日常でも会社は、相手に提供する条件と会社の利益の背反二律の関係を、お客様との間で、行っていると思うのです。
それは、次のような事柄です。

「お客様のリピートを得るために、もしくは、よい口コミを得るために(つまり顧客満足度(CS)を高く維持する活動)、お客様へのより良いサービスを提供する必要がある。しかし、過剰なサービス(低価格路線を含む)は、会社の利益を下げてしまう(場合によっては赤字も生んでしまうことも)。かといって、価格に対してサービスの質を低下させると、一件辺りの利益率は高くなるが、結局、顧客は離れ、命取りである。

ゆえに、「可能な限り、良質なサービスを適正な利益率の中で、提供する。」

同じ内容の文章を、従業員との関係に書き換えてみると

過剰な従業員へのサービス(高待遇)は、会社の利益を下げてしまう。
かといって、待遇を低下させると、一時の利益率は高くなるが、結局従業員は離れ、やめてしまう、もしくは、やる気をなくし、質の悪い仕事をするようになる。結果として、顧客に良いサービスを提供できず、もしくは、同等のサービスを提供するに当たり、余計に人数を必要することなり、結果として経費上昇を招き、会社にとって命取りである。

だから、従業員満足度も顧客満足度と同様に必要なことで、

ゆえに、「可能な限り、良質なサービスを適正な利益率の中で提供する必要がある。」

とは考えられないでしょうか?

では、どうやって経費上昇を抑えながら、従業員の満足度をあげるのか?
キャリアコンサルティングの中に、そのひとつの方法があるのだと考えています。

当社のケースで振り返えってみますと、相談を進める中で、当然自社にとってデメリットのある話も出てきます。
 例えば、給与や勤務体系の問題もそうです。あえて、その話をするわけではありません。テーマを決めず色々な話をしているだけで、当人にとって楽しいこと、好きなことや、嫌なこと、困ったことなど、なんでも話は展開していきます。
 内容は、前回も記載いたしましたが、多岐にわたります。仕事仲間への不満や、仕事の体制への希望なども出てきますし、自分の好きなことの話、楽しいことの話なども出てきます。
 この話を真剣に聞いてあげること、そして、問題点を指摘するなど教育的立場をとるのではなく、受容的に話してもらうようにしています。
 一番のポイントは、話すのが楽しい時間であるようにしているのです。

前号でも記載いたしましたが、当社の社員は一定期間住み込みとして来てもらう方が大勢おりますので、ストレス発散の場として、楽しい会話を提供する場ととらえています。
 ですので、あくまで従業員主体で楽しんで話していただくわけです。
 その中で、話は当人の将来の夢であったり、不満の発散を含む内容であったり、今の個人的な悩みであったり、色々な内容を含むのです。
 その話には、沢山の情報が含まれています。個人の価値観、仕事をするうえで当人が重要視していること、仕事上の不満点、改善案の提案、など、色々なことが含まれています。
 したがって、この時間は、キャリアカウンセリング、コンサルティングだけではなく、社内の改善のアイディア等も得られています。

昔は、この手のことは、上司と部下が無礼講で飲みに行くといった活動から得ていたのかもしれませんが(当社の形態は、現在でもむしろこの形に近いのかもしれません)、今は、こういった活動が、嫌がられる傾向にあることは私も認識しています。
 しかし、条件が整うと、実は今の若い子たちも、この様な活動を行わないわけではない(むしろ積極的に参加する)ということを多数経験しています。

重要なポイントは、「上司はむしろ聞き役であり、いかに部下を楽しませるか」と言うことにポイントを置くかどうかで決まると考えています。
 つまり、部下の本音を楽しく話してもらい聴くというCSと似た業務(従業員満足度向上活動)を、上司は行っているという感覚が必要なのだと思うのです。

そんな中から、機会をとらえて、キャリアコンサルティングの場へと切り換えていくことを行っています。当人の悩みに対して、気づきのある、会話と情報(や考え方のアドバイス)を提供していく、と言うプロセスへと進めます。

この段階での話は、自社にとってデメリットのある話もきちっと伝えることが重要と考えています。
 従業員当人がはっきりと認識していない(おぼろげにしか認識していない)なら、当社で働くことのデメリットを隠しておきたい気持ちもあるのですが、そのことを当人が知らないと、結果として将来別の形で問題が表面化して来ると考えます。

わかりやすいところで、例えば給与体系に(具体的には金額)に悩んでいたとします。
 当社よりも、給与が高い働き方があるのであれば、そのことははっきりと伝えたほうが良いと考えます。
 ただし、働き方や条件は当社とは必ず違います。当社で働くことにも、当社なりのメリットがあるはずなのです。

ただ伝えるのではなく、その周辺の話、価値観、なども含めながら、自分はこれから何がしたくて、当社の何が嫌で、何が好きなのかを丁寧に聞き取ります。

そして、他社のメリット・デメリット等の情報も提供しつつ、当社の何が嫌で、何に困っていて、何がよい点(メリット)なのか、当社で継続して働くためにはどのような問題が解決してほしいのか、などを把握していきます。
 その中から改善可能なことは改善案の提案をしますし、無理なことは我慢していただく必要性を伝えます。

デメリットと共にメリットもしっかり理解してくれた従業員は、モチベーションを落とさずに、問題点を乗り越える力を発揮してくれやすいと感じています。
 ただ、ただ、仕事に不満だらだらで働くのではなく、不満点に対して、対応力を発揮できるのです。それはやはり、自分がここにいる理由がはっきり認識でき、その理由が自分のメリットと一致していることが当人に認識できるので、ある程度のデメリットも乗り越えやすいのだと考えます。
 また、不満点の改善案の提供も出てきやすくなります。当人の働く目的と、会社のスタイルが一致していれば、仕事へのモチベーションは確保されやすく、質も低下しづらいと感じています。

デメリットも隠さず本人に提示して、メリットを共に考えて貰う。
 そのことによって、中には退社する人間も出てくる可能性はあるのですが、その場合放置していても、いつかは会社とトラブルを起こすケースが多く、事前に調整できる、または突然の退社を防ぐことができるだけでも、メリットはあると考えます。

結果として、キャリアコンサルティングを行う事は、当社で働き続けることの、メリットとデメリットを認識してもらい、当人の人生プランと考え併せてもらう、そのうえで、不都合な点をよく話し合い、会社も可能な範囲で対応したり話し合ったりすると、従業員と会社のお互いの関係が強くなり、一部不都合も発生するが、結果として、良い効果を生みやすくなる。
 と考えています。
 つまり働く人の、モチベーションを維持しやすくなるのだと思います。

人を使う上での、モチベーションを保つための考え方として心理学で出てくる、ハーズバーグの二要因論、マクレガーのX,Y理論、マズローの欲求五段階説などがありますが、各理論は理解できるものの、実際にその各段階を、全従業員各自へ的確に、分析し提供することは、通常は会社側、上司側がそのメリットポイントを予測して行うわけですが、的確に提供することは難しいのが事実です。会社側が一生懸命考え、条件を提供しても、本人の欲しいポイントとずれていれば、この努力は徒労となってしまいます。
 キャリアカウンセリングを行うことは、このポイントを見つけ出すためにも、有効と考えます。

従業員が働くために必要としているポイントが一体なにであるのか?を、明確化と共有化できる、つまり相手にとって適切な解決法を、相手の価値観の中から引き出していると言えるのではないでしょうか?
 従業員が本当に必要としていることを、誤解無くとらえ、モチベーションに転換していくことができることがキャリアカウンセリングの一つの機能だと考えます。

ところで、ここまでお気づき頂けると思うのですが、先にも記載したとおり、当社でのキャリアコンサルティングは、一般的なキャリアコンサルティングのFormatと違う形のものです。一般的な会社で行うに当たっては、かなりの変更を要すると考えます。
 しかし、重要なポイントを押さえて当たれば、一般的な社内でのキャリアコンサルティングへの展開は可能だと考えています。
 この部分につきましては、次回以降の中で記載していきたいと考えております。

 


 

 

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