JAVADA情報マガジン3月号 フロントライン-キャリア開発の最前線-
◆2016年3月号◆
健全な企業体と企業内人材育成戦略のこれから |
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文化・経済など、さまざまな点でグローバル化が到来し、1970年代以降、続いてきた企業体のあり方、そして労働者の労働と生活の意味も変化の時期を迎えています。
1.「働き方」と「豊かさ」1970年代以降、高度経済成長を背景に、国内総生産(GDP)<図表1>の成長率は目覚しいものがありました。また、合計特殊出生率(注1)も、第一次ベビーブーム後、1970年代前半の第二次ベビーブーム終了(1974年)までの約20年間、2.1%前後で安定しており、国民全体に「一億総中流」意識が広がりました。
出所:「長期経済統計 暦年統計GDP統計(1/6)」(内閣府,平成20年度)をもとに岡森作成
戦後期、そして1960年代において、「豊かさ」の象徴となったものに、いわゆる「三種の神器」・「新・三種の神器」があります。その時代の豊かさを象徴する家電製品や自動車などを指す言葉ですが、これらはまさに、「物質的・経済的な豊かさ」の象徴でした。日本国民が、元来の粘り強さや努力の尊さというアイデンティティを疑う余地なく発揮して、「物質的な豊かさ」を追求した結果、経済が発展し、人々の生活はより利便性の高いものになりました。 一方、物質的な豊かさの追求は、企業が労働者に求める「働き方」にも影響を及ぼしました。多くの企業では、いわゆる「仕事中毒者」が評価され、「がむしゃらに働くこと」が奨励されました。
2.「労働者の労働の位置づけの多様化」と、企業に求められる対応今日の日本社会では、(表面的には)、物質面での「豊かさ」は少なからず実現されているように思われます。「飢え」や「ハングリー精神」という言葉が聞かれるシーンも、非常に少なくなっています。しかしながら、「心の豊かさ」、「ゆとり」という観点からは、まだまだ豊かな社会が実現しているとは思われない状況です。 そのような中、人々が求めるものは、物質的な豊かさから、「心の豊かさ」にシフトしてきています。それに照応して、「労働の意味付け」、「働き方」にも変化が生じてきています。 労働者側の「労働の意味付け」が変化してきたことに加え、企業側の事情(環境変化のスピードが早い今日の競争社会で生き残っていくため、人材コストの変動費化を図らざるを得ないという事情)もあいまって、「雇用形態」、「勤務時間」、「就業場所」など、「働き方」もますます多様化してきています。 企業は、労働者が物質的・経済的豊かさのみを求めるのではなく、「心の豊かさ」をより重視してきていることを理解し、また、労働者が「新たな働き方」を選び始めていることに対応していかねばなりません。企業が求める働かせ方と労働者の求める働き方にギャップがあるような状態は、企業にとって健全な状態とは言えませんので、いかにしてそのギャップを埋めるかを考えねばなりません。 労働の対価としての給与(金銭的報酬)は、ある一定の水準を超えるとモチベーションやモラールの維持や向上への高まりへの効果が薄れることが知られていますが、今日、労働の意味付けの多様化に伴い、「金銭的報酬」のみを動機付け要因とするやり方では、ますます通用しなくなってきています。 労働者のモチベーションを維持し、労働者に持てる力を十分に発揮してもらうためには、金銭的報酬以外の何かを加えていくことが必要になります。企業には、自らの組織・風土を変革し、労働者が「心の豊かさ」を追求するための阻害要因となるものを可能な限り除去し、労働者の「労働意欲」を維持する努力をすることが望まれます。ここに、経営資源の中でも他資源と違い、唯一、自らの意思・心を持つ「人的資源」の管理の難しさがあります。 加えて、労働市場における「メンタルヘルス不調者」、「怠業者」、「ひきこもる大人」、「バーンアウト者」など、労働者の「心」に関連する重大な課題や、「介護」、「待機児童」といった労働環境整備上の大きな課題なども考慮すれば、企業には、ワークライフバランス対策はもちろんのこと、ハラスメント対策、メンタルヘルス対策、キャリアデザイン対策などの施策を積極的に講じていくことが必要であると言えるでしょう。
3.多様化対策としての「職業能力評価基準」の活用に関する検討労働者の労働の意味付けが多様化していく中で、「阻害要因の除去」というやや消極的な観点からではなく、労働者の「労働意欲」を刺激し、維持するというより積極的な観点から、中央職業能力開発協会(JAVADA)によって開発された「職業能力評価基準」を活用することも有力です。 労働者の立場になって考えてみますと、「自分は、長い職業人生(職業キャリア)の中で、今、どの地点にいるのか?」、「自分は、この先何を目指して行けばよいのか?」、といった問いに対する回答が漫然としたものになっているようでは、労働意欲(モチベーション)やモラールの維持・向上は相当に困難と思われます。逆に言えば、これらに対する回答を明確にすることで、労働意欲等の維持・向上が図れる可能性があると思われます。 「企業側は、労働者に対して求める職業能力や人材像を示し、労働者側は、どのように仕事をすれば評価されるのかを知り、自身の能力を客観的に把握して、キャリア形成の目標や指針を明確にする。そのことによって、労働者の労働意欲が維持・向上される。」 このような理想的な姿を目指すために、開発されたものが「職業能力評価基準」なのです。JAVADAの 「職業能力評価基準」では、仕事をこなすために必要な「知識」、「技術・技能」が整理・体系化されているのみならず、成果につながる典型的な「職務行動例」についても記載されています。また、担当者から組織部門責任者までの4つのレベルが設定されており、企業側が労働者に対して求める職業能力を体系化して示す際に大変役立つものと言えます。
4.結び「健全な企業体と企業内人材育成戦略のこれから」について、4回にわたって連載させていただきました。ここまでお付き合いいただきまして、まことにありがとうございました。 連載を通じて読者の皆様にお伝えしたかったことは、①企業が健全に成長・発展していくためには、人材育成を積極的に実施し、労働者の能力を高め、モチベーションを維持・向上することによって、企業としての競争力を維持することが重要であるということ、②そのような理解・目標意識に基づいて、人材育成戦略を策定すべきであり、また、そのような企業にとってこそ、「企業内人材育成助成金」・「職業能力評価基準」というツールが、真に有効に活用できると考えられること、でありました。 筆者は、「働き方・労働の意味付けが多様化する中、労働者が内包するモチベーション・潜在的能力を引き出すことが出来る企業」、「労働者が労働を通じて『心の豊かさ』を感じられ、労働者のパフォーマンスが最大限に引き出される企業」こそ、「人」の観点から見た健全な企業であると信じています。
付記
参考文献、写真・資料出所
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