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2016年2月号

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健全な企業体と企業内人材育成戦略のこれから
第3回「経営戦略としての人材育成とキャリアコンサルタント・助成金(後編)」

KVI税理士法人 代表社員 岡森 久倫 氏 《プロフィール》 

文化・経済などさまざまな点でグローバル化が到来し、1970年代以降、続いてきた企業体のあり方、そして労働者の労働と生活の意味も変化の時期を迎えています。
 政府の掲げた1億総活躍社会施策のもと、企業は社員ひとり一人のワーク&ライフを尊重しながら、どのように生産性を高めていけば良いのでしょうか?
 企業内人材育成推進のための助成金制度との関連から健全な企業体について連載させて頂きます。当初の予定を変更して、今回も前回に引き続き、『経営戦略としての人材育成』において、外部のキーパーソンであるキャリアコンサルタントをどのように活用していくか、その過程において、「企業内人材育成推進助成金」をどのように活用することが考えられるかについて、お話をさせて頂きます。

 

(1)「企業内人材育成推進助成金」(厚生労働省)の活用

前回は、「企業内人材育成推進助成金」の「申請手続き」を中心にお話をさせていただきました。今回は、この助成金の活用事例についてお話させていただきます。

「企業内人材育成推進助成金」は、以下のいずれかの人材育成制度を新たに導入した場合に一定額が助成される制度です。これらの制度を、「企業の競争力強化」のために、どのように活用すればよいでしょうか。

  • 従業員に対する教育訓練や職業能力評価を、ジョブ・カードを活用し計画的に行う制度
  • 従業員に対するキャリアコンサルティングを、ジョブ・カードを活用して計画的に行う制度
     従業員をキャリアコンサルタントとして育成する場合を含む
  • 技能検定に合格した従業員に報奨金を支給する制度

(1-1)従業員に対する教育訓練や職業能力評価を、ジョブ・カードを活用し計画的に行う制度

教育訓練制度の導入には、従業員のみならず、企業側にも以下のようなメリットがあります。

  • 従業員の職業能力の向上
  • 従業員の職業能力開発や日常業務に対するモチベーションの向上

自社の仕事を遂行していくにあたり、必要な職業能力を従業員に習得させる。本来、企業にとって、当然に必要な実施事項と言えます。しかしながら、現実には、特に中小企業においては、「体系的」な教育訓練は出来ていないケースが多いと思われます。

本助成制度の申請にあたっては、「職業能力体系図」を作成せねばなりません。「職業能力体系図」とは、自社の仕事の実施に必要な職業能力を、「職種」、「職務」、「職業」の区分により細分化し、それらを「労働者区分」ごとにまとめて記載するもので、この作成作業は、一見、たいへん面倒な作業のようにも思われますが、作成過程において、「自社の仕事の分析」、「自社の仕事の実施に必要な職業能力の整理・明確化」が図れるというメリットがあり、これが今後の経営に活かせるのです。
 自社の仕事の分析結果を基に、自社の「コア・コンピタンス(競合他社に真似できない核となる能力)」は何かを再認識し、人材育成のポイントを把握し、人事評価制度に反映させる。

また、より効果的な教育訓練計画を策定する。場合によっては、「仕事のあり方自体」を見直す。人材募集の際に、より明確に求める能力を提示する。本制度は、このような「経営戦略的観点」をもって利用すれば、「受給した助成金」以上の効果をもたらしてくれることでしょう。

なお、企業が人材育成に積極的に取り組む姿勢を見せることは、従業員の職業能力開発や日常業務に対するモチベーションの向上にもつながります。また、従業員が昇給や昇格を目指す場合、どういう能力を身につけていけばいいのかが分かることは、企業と従業員の成長ベクトルを合わせることにもつながります。

(1-2)従業員に対するキャリアコンサルティングを、ジョブ・カードを活用して計画的に行う制度

キャリアコンサルティングは、従業員が「主体的に」キャリアプランを考え、それに即して働こうとする意欲を高めるための相談です。従業員に対するキャリアコンサルティングを、ジョブ・カードを活用して計画的に行う制度の導入には、以下のようなメリットがあります。

  • 従業員の仕事に対する主体性の向上
  • 定年退職者の再就職支援・育児休業者などの復帰の円滑化

終身雇用を前提としていた時代においては、従業員は自らのキャリア形成について無関心でいられたと言ってよいでしょう。自らのキャリアについて、「会社任せ」であったという言い方も出来るかも知れません。

しかし、雇用形態が多様化し、早期退職制度が導入され、終身雇用制度が崩壊しつつある今日では、自分の将来キャリアは自分の力で描いていかねばなりません。

とは言え、従業員に対し、何の援助もなく、「自分のキャリアは自分で考えろ」といっても、途方に暮れる方がほとんどでしょう。そこで、キャリアコンサルティング制度が必要となってくるのです。

但し、本助成金を『経営戦略としての人材育成』の観点から活用しようと考える場合、「従業員が自己の適性や職業能力などへの理解を深め、工夫して仕事や能力開発に取り込もうとする意識を高めること」、「従業員がキャリアパスをイメージしやすくなり、仕事のやりがいや向上心を高めること」、「前向きで優秀な人材が、キャリアアップがしたかった、会社内で成長が見込めなかったという理由による離職することを防止すること」を目的として、キャリアコンサルティング制度を設計していくことが望まれます。助成金獲得だけを目的とした制度導入は、助成金は得られたとしても、そのための時間・労力を考慮すれば、得られるものはあまり多くないでしょう。

本制度におけるキャリアコンサルティングは、キャリアコンサルティング有資格者であって、ジョブ・カード作成アドバイザーである者が行う必要があります。本制度のより有効な活用のためには、企業側の制度導入目的について、キャリアコンサルタントと事前に十分な打ち合わせを行い、企業の狙いを十分に理解してもらった上で、コンサルティングを展開してくれるように依頼することが望まれるのです。

(1-3)技能検定に合格した従業員に報奨金を支給する制度

「技能検定」とは、働く人々の有する技能を一定の基準により検定し、国として証明する国家検定制度」のことを言います。

助成金を活用した技能検定合格報奨金制度には、以下のようなメリットがあります。

  • 従業員の職業能力の向上
  • 従業員の配置・処遇決定の適切化

目標管理制度を導入している企業は少なく無いと思います。しかし、従業員が掲げた「職業能力の向上」については、目標としては悪いものではないものの、その評価・測定は困難なことが多いのではないでしょうか。そのような場合、「技能検定」の受験・合格を職業能力開発の目標とすれば、到達点がより明確になり、評価も明確になります。そこに報奨金制度をミックスさせれば、従業員の職業能力開発に対するモチベーション向上が期待できます。

また、「適材適所の配置」や「公正な処遇」の実現を目指すため、「技能検定」を、「職業能力把握ツール」として活用することが考えられます。このツールをより有効に機能させるためには、従業員にも、技能検定に挑む動機を与えることが必要です。

中央職業能力開発協会「技能検定のご案内」をご覧頂き、自社の業務に関連する技能検定がある場合には、ぜひ活用を検討してください。

http://www.javada.or.jp/jigyou/gino/giken.html

なお、技能検定に取り組む従業員が多い企業という「社風」の構築し、実際に、目に見える資格を有する社員が多い企業になるという戦略は、特に中小企業にとっては、他社との差別化につながる有効な戦略であると評価できると思います。

今回は、以上となります。
当初予定していました、「労働者の労働の意味づけの多様化」については、次回(第4回)でお話させて頂きます。

 


引用文献・参考文献

 

 

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