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2016年1月号

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健全な企業体と企業内人材育成戦略のこれから
第2回「経営戦略としての人材育成とキャリアコンサルタント・助成金」

KVI税理士法人 代表社員 岡森 久倫 氏 《プロフィール》 

文化・経済などさまざまな点でグローバル化が到来し、1970年代以降、続いてきた企業体のあり方、そして労働者の労働と生活の意味も変化の時期を迎えています。
 政府の掲げた1億総活躍社会施策のもと、企業は社員ひとり一人のワーク&ライフを尊重しながら、どのように生産性を高めていけば良いのでしょうか?
 企業内人材育成推進のための助成金制度との関連から健全な企業体について連載させて頂きます。今回は、『経営戦略としての人材育成』において、外部のキーパーソンであるキャリアコンサルタントをどのように活用していくかについて、お話をさせて頂きます。

 

(1)将来の企業経営と人材育成のキーパーソン:キャリアコンサルタントの可能性

キャリアコンサルタントには、教育・医療・福祉等、企業経営のさまざまな領域で活躍が求められています。2016年4月以降、現行の標準レベルキャリアコンサルタントが国家試験になることからも、社会的な期待値が高いことがわかります。
 今日、日本の産業競争力を強化していく命題のもと、企業の組織制度と風土をグローバル化に適応させて行くためのリストラクションが急務です。筆者である私も、顧問先企業に対し、日々リストラクションを試みています。しかしながら、企業と従業員という一つのまとまり・秩序ある集合体への支援には、自らの専門能力だけでは限界があるのもまた事実です。

そこで、私どもは、顧問先企業に対するサービス提供の際、人事戦略が絡む部分に関しては、キャリアコンサルタントの方々と提携して、サービスを提供しています。具体的には、キャリアコンサルタントの方々には、企業組織と人の「心と行動」のカウンセリングやコンサルティングを依頼しています。
 勿論、「資格」がよい仕事をするわけではありません。そのため、提携先が有資格者というだけで協働することには慎重にならねばなりません。間違いを恐れずに申しますと、キャリアコンサルタントは、歴史のある資格ではありませんので、どの程度の知識力と実践力、そして熱意をお持ちになられているのかが、ビジネスパートナーシップには欠かせない要件だと考えています。幸い優れたキャリアコンサルタントの方々とのパートナーシップを築き、企業・従業員の双方に対する経営支援と人材育成・開発支援に着手し始めました。

 

(2)「企業内人材育成推進助成金」(厚生労働省)を活用した企業強化と労働者の能力開発支援

読者の皆様の多くがご存じの通り、厚生労働省は平成27年4月から、「企業内人材育成推進助成金」制度を新たに設けています。この企業内人材育成推進助成金は、「職業能力評価、キャリアコンサルティング等の人材育成制度を導入・実施し、継続して人材育成に取り組む事業主等に対して助成する制度」です。

具体的には、次のような取組について助成を受けることが出来ます。(注:助成金の額は、中小企業の場合。)

  • 従業員に対する教育訓練や職業能力評価をジョブ・カードを活用し計画的に行う制度を導入する場合(50万円) ※)実際に制度を適用すると5万円×10人まで助成(最大50万円)
  • 従業員に対するキャリアコンサルティングを、ジョブ・カードを活用して計画的に行う制度を導入する場合(30万円) ※)実際に制度を適用すると5万円×10人まで助成(最大50万円)
  • 従業員をキャリアコンサルタントとして育成した場合(最大150万円 15万円×10人まで)
  • 技能検定に合格した従業員に報奨金を支給する制度を導入した場合(20万円) ※)実際に制度を適用すると5万円×10人まで助成(最大50万円)

私どもは、この制度を「企業の競争力強化」のために積極的に活用すべきと考え、企業強化と労働者の職務遂行能力開発の支援に着手し始めました。企業力を強化するためには、自社の従業員が自らの能力を高め、また働く意欲を高め、希望するキャリアを形成していくこと、人員不足・人材不足の解消のためには、企業内の人材を育成していくことが極めて重要です。そのような活動を支援してくれる助成制度を利用させてもらわない手はないのではないかと思うのです。

以下では、「企業内人材育成推進助成金」を実際に活用するにあたってのポイントについて、2つの観点からお話をさせていただきます。

一つは、「助成金申請手続の流れ」です。制度面(ハード面)におけるポイントです。もう一つは、「助成金活用の仕方」です。活用する企業と従業員というソフト面におけるポイントです。
 本号では、一つ目の「助成金申請手続の流れ」についてご紹介させて頂き、二つ目は次号でご紹介させて頂きます。

「助成金の申請手続き」については、複雑で難しいという印象を持たれている方も少なくないのではないでしょうか?
 しかし、今回、この助成金に関しては、厚生労働省から「企業内人材育成推進助成金活用マニュアル」が出されており、このマニュアルに沿って手続を進め、定められた様式をもとに申請書類を作成していけば、助成金の受給申請にたどり着ことは比較的容易です。ページ数は多いですが、読みやすくまとめられていますので、まずはダウンロードし、ご覧になってください。

企業内人材育成推進助成金活用マニュアル

申請様式の記入などに際しての問い合わせは、最寄りの労働局が窓口になります。一度、申請から実施、そして支給申請の一連の流れを経験しておくと、今後、他の助成金の活用をする際の勉強にもなります。

「企業内人材育成助成金」を活用する場合、どの取り組みの場合であっても必要となるのは、「人材育成制度を就業規則又は労働協約に規定すること」、「事業内職業能力開発計画を作成し、従業員に周知していること」、「職業能力開発推進者を専任していること」です。
 また、助成金受給までの大きな流れは、「制度導入・実施計画の作成」、「人材育成制度の導入」「人材育成制度の実施」、「支給申請」となります。なお、実施計画は、「計画開始の1ヶ月前」までに、都道府県労働局・ハローワークに提出し、計画の審査・認定を受けねばなりませんのでご注意ください。後戻りは出来ません。

この制度を最大限に活用するためには、「キャリアコンサルタント」が欠かせません。当制度のキーワードは「人材育成・キャリア形成」であり、その「キャリア形成」に関する専門職がキャリアコンサルタントだからです。
 また、当該助成金による人材育成をする際のキーワードが「ジョブ・カード」であり、生涯を通じたキャリア・プランニングツールとしての機能及び職業証明能力ツールとしての機能を持つ「ジョブ・カード」を発行できる資格を持つのは、キャリアコンサルタントの中でもジョブ・カード講習修了者であって、企業内人材育成推進助成金の根幹の部分にキャリアコンサルタントがかかわるからです。
 本助成金の活用にあたり、キャリアコンサルタントとのつながりがない企業等や、社会保険労務士等のアドバイザーは、キャリアコンサルタントの紹介を受けるということが、実務上は重要なポイントになっています。
 幸いにして、私どもには、国家資格である全国的に百数十名しかいない1級キャリアコンサルティング技能士(2016.1月現在)や実務の熟練者である2級キャリアコンサルティング技能士等がビジネスパートナーシップとなってくれています。人材育成支援には、彼らのノウハウは非常に重要ですし、税理士や公認会計士の支援の方法論とは角度が異なることで、切磋琢磨し合える共同体です。私どもは、この機会にプロフェッショナルの垣根を超えた専門職能集団を形成して行くことこそがこれからの日本には必要不可欠だと思っています。

次回は、「労働者の労働の意味づけの多様化」についてお話させて頂きたいと思います。

 


引用文献・参考文献

 

 

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