はじめに
第2回目は『組織で働く人々のキャリアの現状と課題』というテーマで誕生月面談等を通じて見えてくる社員の悩み・課題をお伝えしました。
第3回目としては、その悩み・課題を企業内のキャリア・コンサルタントとして、「個人と組織の両面」にどのようなアプローチをしているかをお伝えしたいと思います。
1)企業内キャリア・コンサルタントの強みと課題
個人と組織へのアプローチの前に、私自身が思う企業内で活動するキャリア・コンサルタントとしての強みと課題を述べていきたいと思います。
強みとしては、まず「会社の経営方針、企業風土、制度の理解」です。人事部門は経営と一体化する部門でもあり経営方針などの情報も入りやすく、意識もしていきます。また企業の風土もより敏感に捉えていく部署でもあり、制度も精通しているので、社員の抱えている悩みも理解しやすく、疑問点等にも応えていくことができます。
次に「組織への働きかけ」です。個人ベースで解決していくべきことには、限界があります。そこで組織側へ働きかける事も必要になってきます。"社員の声"を組織長や経営層に伝えていく事により課題解決に結びつけて行きます。
具体的には、適材適所への異動、上司のマネジメント教育の課題の発見、研修内容への反映、制度制定や変更などがあります。
一方課題としては、「会社側の人」としての警戒感です。人事部門として所属しているので企業側の立場で考えるのはある意味当然ですが、それを出しすぎると本当に社員の声を聴くこともできず、絶えず留意していく点と思います。
次に「労働市場の知識不足」です。会社に所属していることは、社会全体の視点が欠けて、個別の会社という狭い世界で考えてしまう恐れがあるため、絶えず他社事情や社会情勢に敏感になり、アンテナを張り巡らしていく必要があります。
以上強み・課題を上げましたが、社内であるからこそ両者との"適切な距離感"を保って行く必要があると思います。
2)個人へのアプローチ
個別の面談等での重要なポイントは、2点挙げられます。まずは「気持ちの理解」です。すなわち相手の立場になって考えることです。相手の物差しで考え、しっかり悩みに寄り添っていく、いわゆる"傾聴"です。このプロセスが面談の前提となります。真摯で理解的な態度で接していかないと、面談は成立しません。
私自身が過去行ってきた業務経験は、相手の理解を深める要因の一つで、前述の企業内での経験をメリットとして活かせる部分でもありますが、基本的な姿勢は、絶えず傾聴を心がけています。
そういった傾聴による面談によって、絡んだ糸をほぐし、混乱した気持ちを整理していき、解決へ導いていきます。中にはこの傾聴のみで「問題の整理ができた」という事で、納得していかれる方もおられます。被面談者は、自分の気持ちを言えない、或いは聴いてもらえない環境にいるという表れかもしれません。私はこのような面談の体験から被面談者の問題解決とは、現実に物事が解決することだけではなく、気持ちが晴れることも問題の解決であり、その結果、モチベーションが回復して業務遂行能力が向上したり、職場の人間関係が改善してチームワークが向上していく事であると思います。
もう1点は「相手の課題を見極め、共有し、解決のゴールを設定すること」です。
上記の傾聴プロセスを経て、その後"悩み"をどのように解決(緩和)していくかが、次のプロセスになります。
解決するには、個人ベースでは解決出来ない問題もあります。経営方針・風土といった問題はなかなか変えることはできません。当然組織側への働きかけは必要ですが、限界もあります。しかし個人の考え方や物事のとらえ方によっては変えられることもできます。そういった個人の考え方にフォーカスを当てていく事がポイントです。
個人でできる問題の解決には、その人の考える癖に気づいてもらう事や、解決法のヒントを伝えて行ったりする事が必要です。
□認知の癖への気づき
人には陥りやすい考え方の癖があります。認知療法でいう「自動思考」です。白か黒か的な思考、マイナス思考、感情的な決めつけ、○○すべき思考等・・がありますが、そういった極端な視野の狭い思い込みや考え方のパターンに気づいてもらい、対応策を考えていきます。
また自分の気持ちを伝える、という事に抵抗感がある方も多く、上司や同僚に対して過度な遠慮があり、自分の気持ちを伝えるのが苦手で仕事がうまく回っていない人も多く見受けられます。それには自分の意見をしっかり相手に伝えるアサーティブな考え方を伝えていきます。
こういった思い込みや考え方の癖に気づいてもらい、前向きに行動していくヒントを提供していきます。しかし、これは「その人の行動特性の要因を見つけていく」という手法です。これに素直に気づいて自分から修正してもらえる人もいますが、やっぱりできない、という人もいます。そういった人には、その癖を理解してもらいながらも、一方では、あまりそれには触れず、「なりたい姿」を一緒に考えて、それに極力フォーカスしていく方法も短期的には効果がある場合があります。ソリューションフォーカスという手法です。生産現場や業務上の問題解決は原因を追及し、課題を見つけ、改善していく方法が有効ですが、人間の場合は、なかなかそうはいきません。今まで培ってきた特性を変えるのは並大抵にことではありません。そういった意味では、この手法は効果がある手法です。
□「仕事理解・自己理解・組織理解」(WILL・CAN・MUST)
誕生月面談の紹介(第1回)でも述べましたが、「仕事理解・自己理解・組織理解」という概念を理解していくと将来のキャリアビジョンが描きにくいと感じている人にはヒントになると思います。
まず「やりたいこと(WILL)はなにか」を聞いていきます。その人の仕事経験の多さにもよりますが、自分はなにをしているときに楽しいか、苦にならないか、仕事の達成感はどんなときに感じられるのか、です。次に「自分のできること(CAN)はなにか」です。長く働いてこられた方は、必ず他者と比較してできることはあるはずです。最後に「求めれていること(MUST)はなにか」です。組織や会社が求めている事です。それは時代によっても変化しますし、会社の方針によっても変わります。
この3つの考え方が重要で、このよう要素が重なりあうと、人は充実した仕事ができると考えられます。下の図にもあるように左の図(あるべき姿)のように、重なる部分が大きいほど満足感のある仕事ができている状態といえます。参考に、右の図(新卒者)は学卒間もない人の図です。WILL(やりたいこと)は大きいが、CAN(できる事)もMUST(会社から当面期待されること)は小さく、また離れています。そういった場合は、経験を積んで、実績を認めてもらい、CANやMUSTの重なりの面積を増やしていく必要があります。若い時にはまず経験を積んでみて、やってみることも重要です。
上司や会社の方針への批判は解決できない悩みである場合もあります。時にMUSTは一方的に変化してどこかに行ってしまう場合もあります。そういった時こそ、自分自身のCAN・WILLを大きくしていく努力が必要となってきます。

□評価に対する過敏性
評価は、ビジネスパーソンにとっては重要な指標です。自分がやってきたことの結果であり、生活の糧となる処遇に大いに反映されるものでモチベーションの大きな要素です。
したがって公平でかつ適正な評価制度を構築していくのは会社として重要項目です。また評価者である管理職の評価力を高めていく事も必須です。
しかし「人は人を評価するという評価制度自体の限界はある」という事を理解していく必要もあると思います。評価がすべて、という風土や個人の考え方を変えていく必要もあるのではないでしょうか。
評価以外にもモチベーションを高める要素もあります。評価や処遇、地位や役職といった「外的キャリア」も大切ですが、自分の持ち味が発揮できているとか、価値観があっている、という「内的キャリア」も大切にしていく必要があると思います。
□労働法、社会保険制度の知識提供
人事・労務の基本知識、育児・介護・産休・傷病等の休業・給付金制度、退職時の雇用保険や老後の年金等の社会保険の情報を提供する事で、将来の不安を解消してもらう事もトータルなサポートという観点では重要な要素となると思います。
3)組織へのアプローチ
個人の悩みを集約していき、組織へ働きかけるのも企業内キャリア・コンサルタントとして重要な役割です。
面談等では基本的に守秘義務があるので、本人了解の上で、上司などに伝えていきます。その伝え方は、オフィシャルであったりノンオフィシャルであったり、直接であったり間接であったりします。個別の人事の問題で、時には課題のある管理職に直接働きかける場合もあります。また風土的な事は、制度変更などで対応していきます。しかし経営方針などへの働きかけは、ワークショップなどの行うという方法もありますが、実際は難しい部分です。
もう少し具体的にいうと、社内ネットワークを使い、上長と相談のうえ課題がある管理職の方と接触をもち、改善策を考えてもらう事もあります。その場合も個人へのアプローチと同様で、相手の気持ちを汲んで話を進めていきます。管理職の方も、自身のマネジメントついて悩みを抱えておられる場合が多く、共に今の課題や将来について考えていきます。最終的には、自分らしさを見つけていただき、マネージャーとしてではなく、スペシャリストとして道を選んで行くという事で納得してもらえた例もあります。
他に「メンタルヘルス不調者」「課題のある社員」の対応・サポートについても述べていきたいと思います。
「メンタルヘルス不調者」については、過重労働という外的要因や個人の考え方の癖からくる本人起因性の要因が重なり、発症する場合が多く見られます。まずは専門医の紹介や職場との距離を置く、という対処を行っていきます。同時にその方の考え方の癖についても焦点を当ててじっくり話をしていきます。そして定期的な面談を行い、体調面以外にも考え方の癖の変化を見ていきます。そして復帰の条件としては、医師の復帰診断に加え、その癖に気づき、対応方法を理解しているかなども目安としています。こうすることよって、再発される方も減ってきているように思われます。
今までいろんな方のサポートをしてきましたが、新しい自分自身を発見していってもらえ、周りに迷わされることなく自分自身を大切にして活き活きと仕事をされている例も多くあります。
また、「課題のある社員」の対応の依頼もありますが、基本は同じです。その人らしさを引き出していく、というテーマで話をしていく事により、最終的には自分のすべきことを理解していただき、中には社外で自分らしさを見つけていくという選択肢を選ばれる方もおられます。しかし、多くの方が新しい目標に向かって、次のフィールドに向かわれる姿を見ていると、人からは嫌な仕事だなと思われるかもしれませんが、自分では"その人らしさを発見できる誇りのある仕事"だと感じています。
以上、具体的な例で業務内容を述べさせていただきましたが、個々人の悩み、課題と向き合いまた組織全体の視野からも捉えていく事が、「企業が求める人事部門のキャリア・コンサルティング力」ではないかと思います。
次回は、『多方面のキャリア支援者にこそ知ってほしい企業の人材育成の方針』です。
参考・引用:
- 「認知行動療法セルフケアブック」清水栄司監修 講談社
- 「やさしくわかる認知行動療法」福井至 貝谷久宜監修 ナツメ社
- 「セルフアサーショントレーニング はじめの一歩」菅沼憲治著 東京図書
- 「アサーション・トレーニング」平木典子著 金子書房
- 「問題解決の実践マネジメント」青木安輝著 河出書房新社
- 「解決志向ブリーフセラピー」森俊夫 黒沢幸子著 ほん森出版
- 「人事評価の曖昧と納得」江夏幾多郎著 NHK出版新書
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