はじめに
第1回目では『私の企業内の役割とキャリア・コンサルタルティングの実践』というテーマで書かせていただき、私個人の背景や所属する会社・組織の状況説明が中心となりました。
第2回目としては、そこで働く人々がどんなことで悩みを抱えているか、という内容でお伝えしたいと思います。
1) 誕生月面談
企業内でキャリア・コンサルティングを行う際、また相談業務をおこなう際、欠かせないのは、社員の声をどう収集し組織開発と人材育成に活かしていくのかが、重要なポイントであると思います。
いくら「○○相談室」という設備を作っても、"待ち"である限りなかなか来談者は、ドアを開けてくれない、と思います。こういった問題を解決するには、やはりこちらから出向いていく、というアプローチが必要になっていきます。そこで始めたのが社員全員に行う「誕生月面談」で3年前から実施するようにしました。
誕生日月面談というネーミングは、全社員にとって一番受け入れやすいものにしました。対象者は、経営層以外の全社員を対象に、年1回の誕生月に実施し、面談者は人事部門で手分けして行っています。情報は基本的に人事課内のみの共有としています。
守秘義務を遵守するという観点から、担当者個人のみで留める場合もあり、安心して話ができる時間を提供する、という基本的なスタンスをとっています。
以下が面談に用いるシートです。

面談時に面談者が来談者の話を聞きながら書き込みこんでいきます。
キャリア面談という位置づけでもあるので、業務内容の把握、強み・課題の理解、将来の希望、それに向けてのプラン・施策、その他、という内容となっています。
最初の2年はこういった内容でしたが、年を重ねるごとにテーマを増やしたりしております。例えば、今年からはこれに加え、上司との目標管理の内容、上司からのフィードバックの内容、ワークライフバランスという項目も増やしました。本年8月末に「女性活躍推進法」(*)が成立して、企業も社員も未来に向けた働くスタイルを考えて行くことはとても重要だと思っております。さらに会社として「気になっているテーマ」を入れ込み、組織開発、またマネジメント検証という目的にも使用しています。
いわゆる「仕事理解・自己理解・組織理解」というCAN・WILL・MUSTというキャリアの基本がベースとなっております。
(尚、このCAN・WILL・MUSTに関しては次回以降で詳しくご説明したいと思います)
(*)「女性活躍推進法特集ページ」厚生労働省ホームページをご参照ください。
2) 属性別とその課題
では、この面談を通じて見えてくる社員の悩み・課題を具体的に説明していきたいと思います。職務や職層は会社や組織ごとに違うと思いますが、当社での区分として以下の切り口で分けてみました。
職務別(営業職/企画職/業務職)、階層別(管理職/総合職/一般職)、性別(男性/女性)、年齢別(20歳~、30歳~、40歳~、50歳~)

■職務別
営業職
- グローバル化、国内市場のシュリンクなどの外的環境への対応・スキル不足
- 変革への不安・疑問
企画職:デザイナー職などの専門職。女性が多い
- トレンドファッションの加齢による感性の衰え(比較的ヤング商品が中心)
- 雇用の不安(海外生産によりソフト面も海外へ移管)
業務職:事務系、管理系
- 定型業務に対してのマンネリ感
- 雇用の不安(定型業務は外部委託や派遣へ移管し、人員削減が予想される)
- あらたな業務変換を強いられる(人員の効率化による業務内容の変更)
- 専門知識の活用頻度が低い(営業中心の風土があり、現場からの要請で振り回されるという認識)
- 変革への不安・疑問
■職層別
管理職
- 部下指導、問題社員への対応等の人的マネジメント
- 組織変更(事業部制)による裁量権の低下への不満
- 自分自身の管理職を解かれた後のキャリアプランへの不安
総合職
- 管理職のポスト不足
- 求められるスキルの変化への戸惑い(自己完結業務から他者協業へ)
- 上長のマネジメント能力への不満・疑問
一般職
- キャリアアップへの不安(総合職への職層変更制度はあるが、期待される能力に負担を感じる)
- 上長のマネジメント能力への不満・疑問(自分の業務を把握してくれていない)
■性別
男性
- ワークライフバランス(仕事中心の生活から自分の時間を取りたいと感じている一方、仕事中心人間から抜け出せない)
女性
- ワークライフバランス(子育て両立の苦労、時短で先に退社する時の気まずさなど風土への不満)
- 男性中心の風土への不満
■年齢別
20歳~
- 学生と社会人とのギャップ(こんなはすではなかったという感情。こんな仕事をやりに来たのではない。自己肯定感の低下)
- 職務適性の違和感(まずはやって経験してみるという意識の不足)
- キャリアパスへの不安(目指す人物像が描けれない)
30歳~
- 自己のキャリアパスの限界(組織内での期待度が明確化されたことによる将来への不安)
40歳~
- 自己のキャリアパスの限界(組織内での期待感の明確化されたことによる将来への不安)
- 親の介護
50歳~
- 世代交代による置き去り感(年下の上司、経営層の若返りにより存在感・期待度が低下)
- 変革への不安・疑問(昔を知っていただけに大きい)
- マインドチェンジへの戸惑い(自分が変わらないといけないとわかっているができない)
- 雇用の不安(役割・位置付けの不安定さ。管理職経験者の方が不安度は大きい)
- 将来への不安(退職後のマネープラン、生きがいへの不安)
以上、各区分から働く人々の主な悩み・課題を述べさせてもらいました。上記にはありませんでしたが、他に多いのが人間関係の悩みです。
しかし、こういった悩み・課題は当然複合的に絡んでくるもので、例えば、ワークライフバランスは、自己の時間を持ちたいという悩みでもありますし、同時に仕事の効率を上げないといけないという職務上の課題でもあり、また職層上の管理職の課題でもあります。
全体的な最近の特徴として、会社も生き残りをかけ外部環境に対応できるよう内部環境を変えざるを得ない状況を強いられています。それは「効率化」であったり「能力開発」であったり、"個人の仕事の変化"という形で組織から要請され、また個人でも察知していきます。
すなわち、今までだったら許されていた"隙間"も埋めていかざるを得ない状態になって、車のハンドルのあそび、さえも無くしていかねばならないと、余裕の無さを感じてる人も多いと思います。
こういった環境下で働く人々の悩み・課題をどう捉えていくのかが、次にステップとなってきます。
それにはまず、個人が抱えている"悩み"と個人が認識すべき"課題"とを明確にしていくことが必要になってきます。
個人の"悩み"は100%解決することは不可能です。また解決することが、目的ではなく、あくまで目指すのは"課題"を認識しながら「組織にとっても個人にとって良い方向に向かう」ということです。
「組織を活性化し、また個人の自己成長を促す」ことが企業内キャリア・コンサルティングの目的だと思います。それには、これらの社員の声を基に"組織に働きかけること"、また個人に対して抱えている悩み・課題に支援的に介入し、彼らへの気づきを促し、"個人のキャリア発達"に働きかけること、が私たちの役割であると思います。
それに関しては次回、「組織また個人へのアプローチの方法」を具体的にお伝えしていきたいと思います。
次回のテーマは『企業が求める人事部門のキャリア・コンサルティング力』です。
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