JAVADA情報マガジン8月号 フロントライン-キャリア開発の最前線-

2015年8月号

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『企業を取り巻く外部環境が大きく変わる中での、企業で働く人達の"悩み"と"課題"』
~キャリア・コンサルタントとして、また企業の人事担当として、どのようにサポートしていくかを考える~

第1回 私の企業内の役割とキャリア・コンサルタルティングの実践

産業カウンセラー、2級キャリア・コンサルティング技能士 岸 託男 氏 《プロフィール》 

はじめに

私は、1980年に大学を卒業後、某大手繊維専門商社に入社致しました。
プロフィールにも書かせていただきましたが、28年間営業の第一線で仕事をして参りました。その後人生の半ばも過ぎ50歳を迎える頃、自分自身の中で大きな変化があり、「人のサポート」をテーマにした仕事をしていきたい、またそれが自身の経験を活かせる業務であると確信し、現在の人事部門に異動するに至りました。
「働きながら人は成長していくものだ」と回想するにつれ、私にいろいろな機会を下さった企業、関係各位、また家族に感謝すると共に、私自身の目標を実現するために、日々研鑽を積み重ね邁進していきたいと思います。

今回から4回の連載を通じまして、私がどのように企業人として今を生きているか、仕事の経験からメインテーマについて考えていきたいと思います。
 読者の皆様におかれましては、微力ではありますが、お役に立てることを願って、連載にお付き合い頂けると幸いです。

各号のサブテーマ(予定)は次のとおりです。

第1回:私の企業内の役割とキャリア・コンサルタルティングの実践
第2回:組織で働く人々のキャリアの現状と課題
第3回:企業が求める人事部門のキャリア・コンサルティング力
第4回:多方面のキャリア支援者にこそ知ってほしい企業の人材育成の方針

 

第1回『私の企業内の役割とキャリア・コンサルタルティングの実践』

(事始めから現在までの紹介)

 

1) カウンセリンングとの出会い

私の実家は、テーラー(注文洋服仕立て業)を営んでいたこともあり、小さい時から服に興味があり、見様見真似に服を作ったこともありました。
就職は、家業の影響もあり、希望する服飾関係の会社に入社したものの、想像以上に仕事は厳しく、幾度か退職を考えたこともありました。しかし好きな服に携われていること、仕事を任せてもらえる社風、そして周りの方の支えもあり、大変ではありましたが充実した日々を過ごしていました。
そして、家庭を築き子供にも恵まれました。
ところが長男に異変にあることに気付いたのは、生まれて2年程たってからでした。自閉症という診断でした。その数年後、母子センターの紹介で、ある大学の先生に定期的に診てもらう機会を頂きました。
「何とかしないといけない」「何か解決策を指導してくれるのではないか」というすがる思いで先生とお会いしました。ところがその期待とは裏腹に、先生はあまり息子とは接触されず、親である私たちの話を聴くことに大半の時間を費やされました。
確かに子供の将来のことを考えると不安で大変つらい状態でした。絶えず悶々として、言葉に表せないほどの辛さがあり、その思いをじっくり聴いてもらえる時間は、大変気持ちが楽になりました。数ヶ月通った結果、息子にはあまり変化はありませんでした。しかし私の中で少しずつ変化が起きてきました。
それは『障害』を『特徴』として捉えるようになったことです。「息子らしさ」「可能性を秘めた一人の人間」として見守ってあげることが親の役目だ、と考えるようになってきたのです。不思議な変化でした。
「解決するとは、ものの捉え方を変えること」かもしれない。今までにはない発見でした。競争の原理でビジネスパーソンとして過ごしてきた私でしたが、自分の狭さを痛感させられた機会でした。

その「私の中での変化」の後は、仕事においても、人の見方が徐々に変化していきました。どんな人でも持ち味を持っている。ちょうど管理職に成り立てで、人のことで悩むことが多かった時期でもあり、この考え方で接するとなぜかしっくりいく、ということを感じだしました。当時は会社からのマネジメント研修などの研修制度もなく、実践で自らの体験から学んだ知識でした。その学びも息子がいてくれたからこそ気づかせてくれた、この境遇で良かった、と自分でも思うようになりました。
後に、私が支援者を目指そうと決めたのも、その大学の先生がして下さったカウンセリング技法のおかげと感謝しております。

 

2) 私のキャリアチェンジ

私が、50歳を前にした時、ビジネスパーソン人生あと何年あるのかな?とふと考えるようになりました。その当時、私の中では、「キャリア」という言葉すら知らなかったのですが、あと5年後何をしているのだろうか?と思ったときに不安を感じだしたのです。本来、私は人前で話をするのが苦手で、どちらかというと親の性分を引継いだところもあり、職人的部分や後方で人の支援をする方が向いているのではないかと、自己分析をしてみたところ、これから営業職でいる自分の姿は想像出来なくなってきました。

そんな中、公私ともども悩んでいた時でもあり、ふと「カウンセリング」という文字が入ってきました。民間の心理カウンセラー養成講座に通いだしたのです。そこで前述の大学の先生のこと、また管理職で悩んだこと、経験してきたことを伝えたい、と思うようになりました。そして「人のサポートをすることを自分の最後の仕事にしよう」と決心しました。

当時、会社の人事部門には、育成や能力開発、また相談対応といった労務関連をする部署はありませんでした。そこで社長に直接「これからの会社で必要なこと、自分のやりたいこと」を直接伝えました。すぐに社長は了承して下さり、半年後、希望する人事部門に異動となったのです。

 

3) 会社の大きな変革

その後、ちょうど期を同じくして会社に大きな変化がおきました。
社長が「外部環境に対応できるような会社」へ舵取りをきったのです。
具体的には、海外戦略、M&A,課別独立採算性から事業部制、企業統治、コンプライアンス、システム導入、人事制度改革、役員・管理職の世代交代、等々・・いままで永年、昔ながらのやり方を踏襲してきた会社の大きな変革でした。

人事部門でも大変革を行ったのですが、基本ポリシーとしては「個人が成長することにより会社も成長する」と人間中心の方針となりました。
具体的にご説明すると以下の様になります。

□評価・報酬・等級制度

従来も「評価⇒報酬⇒等級」という制度はありましたが、評価査定後の上司からのフィードバックもなく、報酬の決定は不明確で、賞与は社長から直接渡される、という独特な形でした。また等級定義も明確なものもなく、数字に見える定量的な結果が最優先という徹底した成果主義で、信賞必罰という考え方が基本でした。
 そこで等級は「職能等級」としましたが、成果として出した能力を評価する、という成果能力を基準としました。報酬の方法は『見える化』し、総合評価として等級を決める、という制度にしました。なお「昇格降格は頻繁にする」という従来の「信賞必罰」は引き継がれています。

□MBO(目標管理制度)

上記の制度を支える柱として導入したのが、MBO(目標管理制度)です。ドラッガーが提唱した制度でもありますが、期首の初めに部下側が上位目標を基に「やるべきことを自分の言葉で発信する」というもので、自分自身がコミットメントすることで自己成長を助成する制度でもあります。当初は戸惑いもありましたが、今では比較的受け入れてもらえ、うまく運用はされているようには感じます。

□研修制度

今まですべてがOJT(現場での実地指導)でした。「経験と勘で乗り切ってきた」という状態でしたが、良き「経験や勘」を継承していくためにもOFF-JTが必要と、研修体系を設計していきました。ビジネスパーソンとして必要な、ヒューマンスキルやコンセプチュアルスキル(概念的・論理的に考える能力)を棚卸し、不足部分は研修を通じて習得をしてうめるために「管理職研修」を実施し、また将来のキャリアビジョンを設計してもらうための「節目研修(45歳・50歳)」も毎年実施するようにしました。
 以上の制度変革は当然自分一人では出来ず、新しく外部か来られた方の指導の元、設計・運用に携わることが出来たのも私にとっては大きな経験となりました。

 

4) 企業内キャリア・コンサルタントとしての実務

そんな変革の中、社員にとっては、変わりゆく外的環境への対応を迫られている折、また内的環境の変化に順応していかねばならない状態で、「戸惑い、不安、不満・・・」といった声が様々な所から聞こえてきました。確かに、変革時にはこういった混乱は起きるだろうとは予想はしていましたが、私自身含め、社員である当事者としては結構大変な出来事の連続でした。

そこでその真只中にある人たちをどうサポートしていくことが人事部門として、制度を変え、運用をしていくと同じぐらい重要な課題となってきました。そこでスタートしたのが、「誕生月面談」でした。社員全員、誕生月に毎年、人事が面談を行うというものです。
ねらいとしては「今、会社でなにが起きているのか」を理解すること。また個々の業務内容、組織状況、を把握し、その結果を基に組織へ働きかけたり、個人のキャリアを一緒に考えたりすることです。今年で3年目にはいり今では重要なツールとして確立させつつあります。

以上最近の社内状況をご説明させていただきましたが、私自身、企業人として人事部に所属し、評価・報酬・等級などの制度運用、研修の設計・実施、また関連会社の人事全般、を業務として行っています。また企業内キャリア・コンサルタントとして、メンタルヘルス不調者 障害者、高年齢者、職場異動者、育休後復帰者、課題のある社員の対応・サポート等をしております。
すべての人は、それぞれ特徴を持ち備えており、強みを持っていると思います。「個々人が目標をもって自分らしさを発揮してもらえること」は、私自身もモットーでもありますし、会社の「個人が成長することにより会社も成長する」という基本ポリシーにも合致することでもあります。"個人の成長を期待して、能力を引き出してくこと"それこそが企業内キャリア・コンサルタントとしての役割であると私は思います。このように考えることができたのは、長い営業経験を経た後、キャリア・コンサルタントを志し、人事部門に入ることが出来たからです。それらの経験に支えらたことによって、私のキャリア・コンサルティング力を際立たせてくれたと思っています。

さて次回は、上記の誕生月面談や日々の業務を通じて、見えてくる『組織で働く人々のキャリアの現状と課題』を具体的にお伝えしたいと考えております。

 


 

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