JAVADA情報マガジン4月号 フロントライン-キャリア開発の最前線-

2015年4月号

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今、キャリア・コンサルティング現場の就労希望者の実情とキャリア・コンサルタントの課題〜若者サポートステーション(通称:サポステ)等の現場から〜
第1回 サポステ等の現場から見えてきた"今"の若年相談者の実情(1)
 学卒3年以内の未内定者の実情および企業とキャリア・コンサルタントの課題

特定非営利活動法人こうべユースネット 若者自立・就労支援事業部
  キャリア・コンサルタント 浅田 実果 氏 《プロフィール》 

はじめに

私は、20年以上に渡って、心理及びキャリアの支援をさせて頂いています。この支援現場の最前線から、私が見てきたありのままの実情と、それに対して私たちキャリア・コンサルタントはどのような課題を解決していかなければならないか、全4回という限られた誌面ではございますが、書かせて頂きます。これをお読み頂きますキャリア・コンサルタントの皆様、企業の経営者・人事の皆様、公的機関の皆様などが就労を希望する若年者の"今"をご理解頂き、彼らの社会参加へご一緒にお取り組みくだされば幸いです。

 

(1)私のキャリア・コンサルタントの現場 - サポステ等の現場のご紹介 -

まず、私がキャリア・コンサルティングをしている現場についてご紹介させて頂きます。私はNPO法人こうべユースネット(兵庫県神戸市、以下、ユースネット)が厚生労働省から委託を受けて運営している、こうべ若者サポートステーション、さんだ若者サポートステーション、あかし若者サポートステーション、西宮若者サポートステーション(4箇所、以下サポステ)と神戸市や川西市から委託を受けて運営している就労に関する相談窓口等、各所のキャリア・コンサルティングやビジネス系セミナー各種を広く担当させて頂いています。また、こうべユースネット(若者自立・就労支援事業部)のキャリア・コンサルタント(総数 60 名、キャリア・コンサルタント 23名、臨床心理士 5名 精神保健福祉士 2名、社会福祉士 1名、心理カウンセラー 6名 2015年4月1 日現在)のスーパービジョンもさせて頂いております。
 以降の項目では、私のキャリア・コンサルティングの現場から見えてきた若年相談者の現場と彼らの就労を支えるキャリアと心理の支援者の現場と課題について、お話をさせて頂きます。

こうべ若者サポートステーション受付カウンターと相談コーナー 講座風景
写真:こうべ若者サポートステーション受付カウンター(正面)と相談コーナー(右奥)からの風景
写真提供:NPO法人こうべユースネット
写真:「就活に役立つカラーコーディネートセミナー」 講座風景
写真提供:NPO法人こうべユースネット

(2)"今"の若年相談者の実情 - 学卒3年以内の未内定者の実情 -

サポステ等の就労支援機関を利用する概ね18歳から25歳(高卒・専門学校・短大・大学・大学院卒など)の相談者の就職に関しての現場を相談者の、①内面的側面、②環境的側面、の2方向から見ますと、

① 内面的側面

①-1 年齢不相応な「未成熟型」
周囲の動きに合わせて動くことはできますが、自分の考えの核心をもって行動がしにくい、またアルバイト経験がなく仕事へのイメージを持つ機会が不足しているなどによって、(就職活動の際に)自分の考えを他者に伝えることに相当の努力を有する人がいます。

①-2 自分の理想とする「就職活動」が出来なかったことに失敗感を強く持ち、今の自分に価値を見いだせない「敗北感型」
就職活動はしたが何社も不採用となり、自分の人間性を完全に否定されたと感じて「自分は社会から必要とされていない人間なのだ」と過度に自信を失い、自己効力感が低くなり活動能力が低下している人がいます。

①-3 周囲の就職活動についていけずにいた「置いてきぼり型」
自分の周囲に溢れている就職活動情報を上手く取捨選択出来ず、情報に振り回されてしまい、客観的にはあまり活動していないにも関わらず疲れ果てて意欲を失ってしまう人。このような人たちは"自分はどのような仕事をすると良いのか""どんな仕事が向いているのか"このような答えを出すことにこだわり、キャリア・コンサルタント・ショッピングを繰り返すばかりで、未就職のまま卒業してしまうことがあります。また自分にとって好ましくないと思う就職先しか内定がもらえないと思い詰めてしまい、結局内定辞退をすることがあります。

② 環境的側面

②-1 「未成熟型」の環境的側面としまして、大学入学という環境変化を受け入れることが上手ではない若者は、大学生活に馴染むことに毎日神経をすり減らし、日々を楽しんだり、自分を成長させる体験をする余裕のない人もいます。またコミュニケーション力に自信がないため他者との関わりを持ちたくないことからアルバイトをしなかったりします。その他には学業面で余裕がなく単位を取るためにアルバイトを経験することが出来なかったという背景も多く見られます。

②-2 「敗北感型」の環境的側面としまして、今までの学生生活においての評価は、点数であり偏差値であったため、努力の結果は見えやすく受け入れやすい状態でしたが、就職活動は"合否の結果だけを通知されて不採用の理由が分からない"、"努力が実らないこともある"という現実を受け入れ難く、「不採用=自分を全否定された」という思いに陥りやすいこともあります。

②-3 「置いてきぼり型」の環境的側面としまして、インターネットや大学キャリアセンターを始め、巷では就職活動の情報が氾濫している中で、活動当初は上手く情報を利用し流れに乗っているように感じていて、「就職活動が楽しい」とまで感じる学生もいるようですが、不採用が続く、またはちょっとしたつまずきから一旦休止状態になると、そこから活動を再開することが難しいようです。

 

(3)企業は学卒3年以内の未内定者をどのように理解すると人材発見につながりやすいか。

①未内定卒業者は卒業後に、アルバイトで社会との接点を持つことが多くあります。アルバイトをしながら就職活動をして正社員を目指す若者も少なくありません。その就職活動での面接の際に彼らは「なぜ学生の時に就職先を見つけなかったのか」「なぜ内定をもらえなかったのか、内定をもらえなかった自分をどう理解しているか」等の質問を恐がっています。「社会から必要とされなかった自分」「アルバイトしかできていない自分」を叱責されていると思い込んでしまう心理的な規制が働くようです。そのため、彼らは大きな劣等感や社会からの見捨てられ感が根強く見られます。

②企業は「そのアルバイトで何を学んだのか」「働くということをどう感じているか」「社会人として産業社会の一員として責任を担うことへの覚悟は出来ているか」等を丁寧にヒアリングして頂くことで、若者は、働く人材(人財)としてのビジョンの手掛かりに触れ、心理的な規制の緩和につながり、大切な一人の存在である自分自身に気づき始めます。
 企業の皆様には、さらに採用活動や新採用者の教育研修等でご負担も生じてしまいますが、社会が若者を育てることも、現代社会においては急務ではないかと思います。

「ブラック企業を見分けるコツと対処法」講座風景 「ホンキの面接セミナー」講座風景
写真:「ブラック企業を見分けるコツと対処法」講座風景
写真提供:NPO法人こうべユースネット
写真:「ホンキの面接セミナー」講座風景
写真提供:NPO法人こうべユースネット

(4)学卒3年以内の未内定者へのキャリア・コンサルタントの課題は何か

キャリア・コンサルタントは、相談者の支援において、問題は何か?(真の問題)を理解した上で、見通し(目標と方策)をたて、相談者と共に歩んでいくことが大切だと思います。
 特にキャリア・コンサルタントが見通しを立てる前に行う、"問題は何か?"を察する際の一助になるものは、先述しました①内面的側面と②環境的側面の視点が大切だと思います。「未成熟型」、「敗北者型」、自己効力感の低いタイプ、「置いてきぼり型」のどれかを推察することが、それぞれのタイプ(型)に合わせた支援の目標と方策に役立つと思います。ただし、私たちが「・・・型の◯◯さん」ということを決めつけてしまわない(ネガティブモデル)ことが大切です。あくまでも若者の一般的傾向を察して、どのような型であっても、必ず成長の力強さを秘めている(成長-ポジティブ-モデル)前提で、現状の自分をどう捉えているかという面談をして頂けたらと思います。彼らが劣等感や自らの能力やスキルに対する思い込みを捨てて、正しく客観的視野を手に入れることが就職活動の成功の鍵だと考えます。
 また、キャリア・コンサルタントは企業への働きかけ(例えば、企業開拓の任務等)においても、上記の型を柔軟に理解していると、採用者へ対応の仕方の助言もしやすくなると思います。ここで注意しておきたいことは、「Aさんは、『敗北感型』ですので、・・・。」と言わないことです。『・・・型』というレッテルを貼ることが目的ではありませんし、このように言ってしまうと、採用者も身構えたり、疑心暗鬼になってしまい、不安にさせてしまうからです。キャリア・コンサルタントとして、就職希望者と企業の双方が納得し安心して働けるようにコーディネートして行くことを忘れてはいけないと思います。あくまでもキャリア・コンサルタントは、相談者と企業の橋渡しの存在(リエゾン・コンサルテーション)であって、就職後もずっと私たち実務家が仲介役を果たし続けなければいけない関係を持たないことがコンサルテーションには重要なことと思います。それが若者が自ら企業にコミットメントしていくことに繋がると思います。

 


写真提供:NPO法人こうべユースネット

各回のテーマ

  • 第1回(4月号):サポステ等の現場から見えてきた"今"の若年相談者の実情(1)
      学卒3年以内の未内定者の実情および企業とキャリア・コンサルタントの課題
  • 第2回(5月号):サポステ等の現場から見えてきた"今"の若年相談者の実情(2)
      概ね卒業3目以降の20代の未内定者の実情および企業とキャリア・コンサルタントの課題
  • 第3回(6月号):サポステ等の現場から見えてきた"今"の若年相談者の実情(3)
      30代の未内定者の実情および企業とキャリア・コンサルタントの課題
  • 第4回(7月号):若者全般における相談者の実情とこれからの対応案について

 

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