JAVADA情報マガジン5月号 フロントライン-キャリア開発の最前線-

2014年5月号

←前号 | 次号→

第2回 キャリアの現場から「学生・若者のキャリア開発・就職活動支援」

ディーリンクス 代表
特定非営利活動法人 日本キャリア・カウンセリング研究会 理事
特定非営利活動法人 鹿児島キャリア形成支援センター 理事長
   池元正美 氏 《プロフィール》 

新年度がスタートし、ゴールデンウィークも終わり、新入生も新入社員も新しい環境での日常が本格化してきた時期です。私が非常勤講師を務めている鹿児島国際大学でも講義が本格化してきました。今回は大学での講義や就職活動支援セミナー、カウンセリングなどを通して感じていることを

【1】 大学におけるキャリア教育・進路支援の現状と今後の展望
【2】 若年者の就職活動支援のために必要なキャリア開発

という二つの視点で書いてみます。最後までよろしくお付き合いください。

 

【1】 大学におけるキャリア教育・進路支援の現状と今後の展望

大学で講義を担当するようになり4年目を迎えています。科目は選択科目であるキャリアデザイン科目「コミュニケーション力育成」と「ビジネス実務」、教員養成課程の必須科目である「職業指導」を担当しています。「コミュニケーション力育成」では、社会人基礎力、自己理解のためのワーク、傾聴と適切な自己表現、信頼関係を作る、といったことについて理論を通して学び、グループワークでの体験を重ねていきます。「ビジネス実務」では、以上のことに加えて、働く現場や社会で起こっていること、進路決定・就職活動のために必要な考え方や行動についての情報提供も行っています。「職業指導」では一年間を通して内的キャリア及びキャリア開発に焦点を置き、キャリア教育を実践していくために必要な基本的理論、自己理解を促進する方法、教員として身に付けるべきスキルなどについて自ら体験することも通して学んでいきます。

講義の中では、学生に質問を繰り返しながら意見や考えを発表する場面を増やし、同時に他の学生との考え方、感じ方の違いや自分の気持ちに気づけるよう、ファシリテーションの手法を取り入れながら動きのある講義を心がけています。特に講義で出てくる基本的な言葉の定義・意味については、言葉のとらえ方について共通理解を深めていけるよう時間を取り、組織論や人間理解力、ダイバーシティなどについても事例を使いながら学生たちに説明し「考えること」を習慣化できるよう取り組んでいます。講義を通して、自分の将来について自己決定できるよう支援していきたいと思っています。

学生たちと接していて感じていることは、コミュニケーションや対人関係に関して課題を感じている学生が多く、自分には能力が無いからうまくいかないのではないかと思っているようです。講義では考え方を学び、練習していくことでコミュニケーションスキルは身に付けることができるということを伝え、実践していくためのコツを体験し、自信を持てるようになることを目標に進めています。

大学におけるキャリア教育という点では、関連する科目だけではなく、キャリア開発支援の視点をベースにして全学的な取り組みになっていけば、学生たちの成長につながるのではないかと考えています。私が活動している特定非営利活動法人日本キャリア・カウンセリング研究会(JCC)の会員には大学でのキャリア教育を担っている方や、キャリアセンター等の機関でカウンセラーとして働いている方も多数おります。その仲間たちとの交流を通して、それぞれの取り組みを知ることができます。大学におけるキャリア開発支援が結果を出せる条件としては、大学全体として連携が取れているか、キャリア教育の重要性について理解されているか、キャリア開発にコミットしている経営陣がいるか、などがあると考えています。キャリア・コンサルタントを取り巻く環境によって結果に結びついたり、孤軍奮闘することになったりするようです。

私は大学での教育効果を高めるためにも各大学でキャリア関連の活動をしている方々のネットワークを形成でき、情報交換や連携が広がることによって大きな取り組みになればと願っております。その点ではJCCが昨年9月の東京大会で取り組んだ各大学での実践例の発表とグループ形式での話し合いの場が、自分一人では気づけない視点や手法を知ることができ、良いきっかけになりました。今後このような取り組みがもっと全国的に広がり成果を出せるよう活動を継続していく必要があると感じています。そのような活動の成果として、いつか共同による標準カリキュラム、テキスト作りまでつながればいいと夢見ているところです。

 

【2】 若年者の就職活動支援のために必要なキャリア開発

最近は都市部を中心に景気が良くなっているということを聞く機会が増えてきました。東京にお邪魔するたびに、その変化の速さを肌で感じることがあり、人手不足や街の再開発のニュースなどを見ると確かにそんな流れがあるのだろうと思います。雇用統計や高校・大学の新卒者の就職状況をみても、緩やかながらも確実に改善しつつあり、産業によっては求人への応募者の確保が以前より難しくなり、中小企業にとっては人材の確保が不安材料にもなりつつあるようです。

その一方で、雇用を巡るミスマッチという課題は依然として残されており、特に若年者の就職活動の状況を考えると重要な課題になっていると感じています。鹿児島では地元で働きたい若者が多いのですが、景気が良くなるにつれて仕事を求め県外に出ざるを得ない人も増えてきています。また、県内での就職先を探している若者の中には、中々思ったような就職先が見つからず、長引く就職活動の中で疲弊し、自己肯定感が低くなり、将来像を描き辛くなっている人たちもいます。実際に、私が就職活動セミナーや職業訓練などで出会う若者の中にもそのような課題を抱え、迷いや不安の中で就職活動そのものを見直したいという参加者も多いです。中には就職活動以前の段階にあり、特別な支援を必要とする若者と出会うこともあります。そのような若者たちと話しをすると、面接で成功する方法や応募書類の書き方、マナーなど、採用されるためのノウハウ(正解)を知りたがる傾向も見られます。

私は就職活動に関するセミナーを担当する時、参加者に「ゴールをどこに置いているのか」と尋ねることがあります。すると「安定した就職先を見つけること」「長く続けられる仕事に就くこと」「一生の仕事を探すこと」など「就職すること」をゴールと考えている人が多く、彼・彼女らは、自分にとって「働くこと」がどのような意味を持っているのかについて考えたことがないのではないかと思うことがあります。確かに仕事が見つからず、不安や焦りを感じている現状から考えると、とにかく就職したいという気持ちは理解できますが、本当に就職すれば事は済むのでしょうか。私は、職場で信頼され成長する、仕事を通して社会に必要とされる人になる、働くことで幸せになる、といった自分の将来像を描きながら就職活動を進めていってほしいと思います。「なぜ働くのか」「何を求めて働くのか」「働くうえで何を大切にしていきたいのか」といった問いかけを自らにしつつ、自分自身と向き合いながら進路を決めてほしいのです。つまり自分の「内的キャリア」について考え、気づき、その結果としての職業選択をしていくことが大切なのではないかと考えています。

そのために、講座などでは【自己理解】を土台に据え、自分自身について言葉で表現することに色々な場面を通して取り組んでもらいます。【自己】を自分はどのように見ているのか、他者にはどのように見えているのか、自分の適性や特性はどこにあるのか。そういったことを言葉に書き、話し、聴き合う時間を体験してもらいます。その過程で、ありのままの自分自身を表現することの重要性にも気づくことが多いです。

そのようなことを踏まえ講座を通して、就職活動において準備することや、取り組まなくてはならない自分のテーマが明確になるよう支援していきます。特に「自分自身の良いところ」「人のために役に立てるところ」「他の人と違うところ」を探していくことの重要性を伝えます。こういったことは意識的に考え、探していかないと中々見つかりません。だからこそ、過大評価でもない、過小評価でもない「自分自身」を発見できた時に自分に対する自信が湧き、ありのままの自分を大切にしながら、自ら意思決定できることができるのではないかと思います。

このように考えると、就職活動もキャリア開発の一つの段階になっているのではないかと感じています。そして、キャリア・コンサルタントとして就職活動を支援する立場では、目の前にいるクライエントの能力・可能性を信じることを基本に置き、専門家としての観察力を活かし、感じたことを的確にフィードバックできる人でありたいと思っています。

 

 

前号   次号

ページの先頭へ