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2013年6月号

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全日制普通科高校における「デュアルシステム」の実践(3)
 ~学校における座学での指導~

大阪府立布施北高等学校 教頭 中嶋 義博 氏 《プロフィール

○学校内でのデュアル関連授業

本校のデュアルシステムは、前回述べたデュアル実習(職場実習)だけではない。学校内での授業「デュアル基礎」(2年2単位)「デュアル演習」(3年2単位)においても、オリジナル教材を利用し社会で必要とされる能力や態度を育成している。「学校内での授業で社会人基礎力をどこまで育成できるか?」「デュアル実習を中心とする社会での学びと学校内での学びをいかにコラボさせていくか?」これが本校において大切にしているポイントなのである。

挨拶・電話応対といったビジネスマナーの習得や、言葉づかい・話す姿勢・聞く態度・自己紹介などのコミュニケーション能力の育成や、漢字検定・パソコン検定・ペン習字検定・簿記といった資格取得のために授業だけでなく、ビジネスアイデア、問題解決能力の育成、ロールプレイング、ディスマッチなども取り入れている。

教材の中には大学、専門学校の講義や企業研修にも利用活用できると好評を得ているものもある。そこで、今回は、学校での座学の教材の具体例をほんの一部紹介していく。

ビジネスマナー(挨拶の練習)の授業   授業でグループワークしている様子
ビジネスマナー(挨拶の練習)の授業   授業でグループワークしている様子

○実習の振り返り・課題設定

前回資料として紹介した実習日誌を記入させる他にも、学校での授業おいても時間をとってデュアル実習の振り返りや課題設定をする。プリント(シート)を配り以下の項目(資料1)を記入させる。特に実習開始当初の2年生1学期は、時間を十分にかけて丁寧に指導している。

【資料1】

〈記入項目〉

  1. 勤務状態(出社時間・休憩時間・退社時間等)
  2. 自己評価(身だしなみ・礼儀挨拶・言葉遣い・人とのコミュニケーション・積極的に取り組む態度・整理整頓清掃)
  3. 仕事・活動内容
  4. ほめられたこと、うれしかったこと、楽しかったこと、満足できたこと
  5. 嫌だったこと、つらかったこと、悲しかったこと、注意されたこと
  6. 実習の中で考えたこと、気付いたこと、反省点、感想など
  7. 次回実習の目標

最初のうちは、生徒たちはなかなか文章にして書けない。今の生徒たちは自尊感情に乏しく、無感情、無表情になりがちである。項目4・5・6になれば、「特にない」「別に」。すこし書いている生徒でも「ありがとうと言われてうれしかった」「一日中同じ作業ばかりでしんどかった」程度である。しかしまる一日事業所で実習すれば、必ずたくさんの出来事や会話やドラマがある。それをしっかり振りかえらせて文字にして書かせることで、自分の中で整理して次回の実習の課題設定へとつなげる。

「『ありがとう』と言われたのは、何をきっかけで・誰にどんな事をして・どんなタイミングで言われたの?その時どう思ったの?」

「『一日中同じ作業ばかりでしんどかった』って、どんな作業?その作業は今回初めてしたの?一日中そればかりしていて他のことは全くしなかったの?その作業はあなたのほかに誰かいたの?誰かと会話しなかったの?」

そんな会話を生徒とすることで、生徒が口で答えることを文字にするように指示する。最初はほとんど書けない生徒が、半年ぐらいかかればそれなりに記入できるようになる。この繰り返しが、卒業後、進学する生徒にとっても就職する生徒にとっても、報告書作成に大いに役立っているようだ。

 

○コミュニケーション能力

頭の中でわかっていても、うまく表現できない生徒たちが多い。自分の言いたいことが相手にしっかりと伝えることも大切だ。そのために何とかして言葉にする訓練が必要である。

一部の生徒にだけ、図1を見せ、どんな図かを言葉だけで、口頭または文章で説明する。図を見ていない生徒はその説明だけで、どんな図だったかを想像して描く。説明が不十分で全体的にほとんど描けない場合は質問も可能とする。

本校の生徒は、直方体や円柱といった数学的な用語も知らない。だから、ドラム缶、海苔やお茶の缶、6Pチーズの箱、コンテナ車の箱、レターケースの横置き型といったように、何とか工夫をして説明しなければならない。さらにこの3つの立体の大小関係や位置関係の説明も必要となる。単純な図のようだが、何も知らない生徒に図として描けるようにするにはかなりの説明が必要となる。

 

○ビジネスアイデア

「こんな製品がほしい!」「こんなサービスあったら便利だな!」「こんな工夫を加えたら最高なのに!」「こんな機能がつけば便利なのに!」など新しい商品・サービスに関するアイデアを、自由に開発、発想させ考えさせる教材。最終的には自由に考えさせるが、最初は、「既存の事業・商品・サービスにちょっと工夫を加えられないか」からスタートしていく。

アイデアが浮かべば、以下(資料2)の項目を中心に、レポートを作成させる。

【資料2】

〈項目〉

  1. アイデアの概要・企画の内容・実施方法
  2. アイデアを思いついたきっかけ
  3. これまでのものとの違い・企画の特徴
  4. 実現に向けての問題点と克服策
  5. 商品やサービスなどのイメージ図

完成すれば、その商品を、相手が興味持つように、また購入しようという気持ちになるように説明(セールス)をさせたり、絵・イラスト・言葉を交えて広告(ビラ・チラシ)を作成させたりする。そしてプレゼンテーションをさせ、校内でビジネスアイディアコンテストを実施することもある。

ベッドにもなるデスク、ナビ付き自転車、車いす生活の人が利用できる冷蔵庫、太陽電池式電動自転車、階段が上り下りできる車いす、一人暮らしの人が呼吸や心拍や血圧に異常が起きた時医療機関にベルがコールされる機器という本当にあれば便利なものから、学校のテストの時、答案を置けば解答が浮かびあがる机やドラえもんのひみつ道具といった夢のあるおもしろい回答や高校生らしいユーモアな回答も出る。

 

○ケーススタディ

デュアル実習をしている時や、実際に社会人になってからも、いろいろな問題やトラブルが起きた時に、「どうしていいかわからない!」「頭が真っ白になって立っていただけ!」という場合はよくある。その時、状況を冷静かつ沈着に判断し、迅速かつ的確に行動する能力は社会では重要である。企業編・販売編・保育編・介護編などあらゆる分野での教材を準備し、高校時代から練習を繰り返し、能力を育成している。

【具体例1】

〈販売編〉

 あなたは、大型スーパー「ふせきた」に勤務して4年目。今は2階日用品売り場の副主任を任され、商品管理の仕事をしています。

 ある日の午後、「午前中にここに寄せてもらったときに、このタオル420円と見ておいて、他のスーパーをまわったけれど、このスーパーが一番安かった。だからわざわざこのスーパーに戻ってきて、このタオル10枚購入しようとしたところ、同じタオルなのに、420円と630円と2種類の値札がついている。いったいどういうこと?当然420円だよね。」と中嶋さんという中年の女性客から指摘を受けました。

 よく見ると、中嶋さんが持っているタオル10枚のうち、3枚が420円、7枚が630円の値札がついています。そして売り場にまだ残っているタオル5枚は630円の値札です。確か3日前まで新春大売出しでバーゲンセールしていて、420円で販売していたのが残っていたようです。

 さてあなたは、どのように対応、処理していきますか?

まず、自分ひとりで考えさせる。次にグループで意見交換をさせる。そしてグループとして最善の回答を各々発表させるという手順をとる。

「値札通り3枚を420円、7枚を630円で販売する。」「事情を説明し謝り、420円は間違いなので630円で10枚販売する。」「スーパー側のミスなので、420円で10枚販売し、赤字の分についてはスーパー側もしくは自分自身が出す。」などいろいろな意見が出る。

勿論、社会では報告・連絡・相談が原則ですが、目の前のお客と対応している場面設定なので、あまり時間をかけていられないのも事実である。

 

○グルーピング・ランキング

グルーピングは、バラバラにした情報から共通性を発見して、新たにグループを括り直していくことである。このプロセスでは、情報を単位情報同士の組み合わせから、順次より上位のグループへと括り直していくことを通して、全体の新しい構造を発見していく。

また、ランキング(順位づけ)は、いくつかの事柄に優先順位をつけることで、考えを整理したり、深めたりするための手法である。個人では考えの整理となり、グループで意見交換することで、そのテーマについての多様な判断の存在を知り、理解をより深めるものとなる。

【具体例2】

〈無人島の生活に必要なもの〉

 あなたは、一人で、1ヶ月間、無人島で生活することになりました。周りは海に囲まれています。勿論、ボートや舟もありません。また、電気やガスも通っていないし携帯電話の電波もつながりません。

 出発するに当たって、荷物を準備しなければなりません。運搬が可能なら、持っていくものの予算や大きさには制約はありません。ただし、持っていくものの中に、ボートと舟、そしていろいろな物がはいいているセットものはだめです。また、泳いで別の島や陸にいくことも違反です。

 さてあなたは、優先的に何を持っていきますか?

まず個人で考えさせて回答を5個程度考えさせる。次にグループで意見交換をし、さまざまな情報をビジュアル化・グループ化する。そして新たにグルーピングした要素(項目・カテゴリー)を優先的に6個だけ決め優先順位をつける。そしてグループの回答を理由を述べながら発表させるという手順をとる。

「衣」の観点からは、下着、毛布という答がでる。「食」の観点からは、料理のための火や鍋、狩りや漁のためのナイフや銃や槍、また料理が苦手な生徒からは缶詰や非常食等の答がでる。「住」の観点からは、住居確保のためのテントや寝袋、時間をすごすため娯楽用のMD・書物・ゲームという答えもでる。その他に、毒のあるものを食べないように図鑑や百科事典、台風や高波に襲われることを考えて救命胴衣「ライフジャケット」と答える生徒もいる。

 

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