JAVADA情報マガジン4月号 フロントライン-キャリア開発の最前線-
◆2013年4月号◆
全日制普通科高校における「デュアルシステム」の実践(1)
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大阪府立布施北高等学校 教頭 中嶋 義博 氏 《プロフィール》 |
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○本校の現状
本校は、近くに「東大阪市庁舎」「大阪府立中央図書館」「クリエイション・コア・東大阪」などの公共施設がある大阪府東大阪市の中心に位置し、全日制普通科高校として創立35年の歴史を持つ学校である。東大阪地域といえば、全国一の工場集積率を誇り、日本の「ものづくり」を支える一大拠点としての地位を占めるが、十数年前には10,000社近くあった中小企業が、現在では5,000社台になっている。 生徒の中には、小学校、中学校時代に不登校であったり、発達障がい等で支援学級に在籍していた生徒も何名かいる。また、両親2人そろっていない生徒が40%あまり、児童養護施設から通っている生徒が約5%いる。保護者が自分たちの生活を維持していくのに必死で、子どもの教育やしつけに十分なエネルギーや愛情を注ぐことができていない家庭で育った生徒達がたくさんいる。このように、経済的な基盤の弱さや家庭関係の問題といった背景の中で、自らの責任でない多くの困難を背負わされている生徒達、精神面や身体面でのハンディを抱えた生徒達、今までずっと「できない」という体験を重ね「どうせ無理」と諦め「ほっといて」と社会に不信を抱いている生徒達が、何とか高校だけは卒業したいという願いをもっている。しかし、人間関係に悩み長期欠席に陥ったり、高校での価値観を見いだせずに中途退学していったり、生活習慣の乱れのため原級留置となったりする生徒も少なくはない。 そんな中で、平成20年度より1年次では、6クラス募集の時は8展開、7クラス募集の時は9展開の学級編成をし、教職員が生徒に真剣に向き合い、一人ひとりの可能性を伸ばし輝くようにきめ細かく丁寧な指導を実践している。 進路状況は、四年制大学・短期大学・専門学校含め進学が約30%である。したがって残りの約70%が就職希望ということになるが、この数年間で少なくなったとはいえ、進路未定者が25~30%いる。また、せっかく就職してもミスマッチや社会に不適応を起こして離職してくる現状がある。
○デュアルシステムの導入本校の生徒だけでなく、現代生徒の特徴として、次の3点があげられる。 一点目は、社会性の低さである。自分の限定されたエリアでの情報や人間関係で行動し、コミュニケーションが苦手であったり、社会と接触拒否を起こしたり、社会に対して恐怖や不信感を持ったり、大人社会に対して無視してしまう。二点目は、自信・意欲のなさである。自己評価が低く自己肯定できない。そのため「どうせ私はできない」とすぐに諦めてしまう。三点目は、基礎学力「読み・書き・計算」の低さである。小学校、中学校段階でつまづき、「できない」ことに対するゆがめられた価値感を持ち、学習そのものが無気力の学習になってしまう。 そんな生徒達が、「社会で生きていく中で、大切なもの、必要なものは何か?」と問いかけ、「高校を卒業し社会に出るために少しでも勇気と希望を与えたい!」「今やるべきことを考え学ぶべきことを見つけさせ働くための意欲と態度を育てたい!」と考えたときに、そんな生徒たちが、「働く」という営みを通して、自分の存在を認められ、社会で生きるための自尊感情を取り戻し、多様な能力や才能が磨かれるのだという方向性を見いだした。しかし、それには学校だけでは限界があるため、地域の教育力を最大限にいかせるデュアルシステムの導入を検討することになった。
○デュアルシステムの歩み平成16年度に、企業における実習と学校での講義等を組合せて実施することにより、職業に就くために必要とされる知識や能力等を育むことを目的とした、文部科学省の「専門学校等における日本版デュアルシステム」の研究指定を全国25校のなかで唯一の普通科高校として受け注目をあびた。その後平成18年度入学生より、大阪府教育委員会から「デュアルシステム専門コース」設置を認められ、生徒達は2年生と3年生で選択できるようにし、継続的発展的取り組みを続けてきた。 選択生徒も二学年合わせて、平成17年度は17名、平成18年度は27名だったのが、平成19・20・21年度の3年間は50名台、平成22・23年度は90名台となった。また、平成19年度には、キャリア教育の実践と貢献で大阪府教育委員会優秀表彰、平成22年度には、キャリア教育の充実発展で文部科学大臣表彰をいただき、ついに今年度平成25年度からデュアル総合学科(80名)の設置が認められ、全国でも珍しい総合学科と普通科併置校として、新しいスタートを切った。
○デュアルシステムの紹介(教育課程と内容)〈デュアル実習Ⅰ〉(2年生6単位)・〈デュアル実習Ⅱ〉(3年生6単位)四つの実習分野「製造現業」「販売営業」「保育・幼児教育」「介護福祉・看護」からの生徒の希望にもとづき、1実習先につき生徒1名を原則とし、1年を通して、週1回まる1日、職場実習をする。教育課程の中に位置づけ授業の一つとして扱い、高校が評価や単位認定を行う。そのため、実習日には毎回必ず担当教員が訪問する。実習生徒の様子を観察・把握し、実習先側の担当者と実習内容や実習状態について話をして意思疎通を図り、きめ細かい指導を行う。前後期の2期に分け、実習先については、2年生は幅広い体験とミスマッチの対応のため前期と後期で変更を原則とし、3年生は進路を見据えて通年を原則としている。 〈デュアル基礎〉(2年生2単位)・〈デュアル演習〉(3年生2単位)実習をさらに効果のあるものにするため校内での座学を設定し、社会で必要とされる力をつけ、それをまた次の実習で応用するサイクルを大切にしている。実習の振り返り、情報の共有、課題設定のほか、ビジネスマナーやコミュニケーション能力やプレゼンテーション技法を育成している。また、ビジネスアイデア、トラブル発生時の問題解決、ディベート、グルーピング、ランキングなどを扱い、グループ討論など参加型の授業を実施している。 〈文書デザイン〉(3年生2単位)週に1回昼休みの間に地元の大学に移動し、午後から大学側の人材と施設の支援を受けて商業科の授業「文書デザイン」を展開している。各種メディアと情報通信ネットワークやソフトウェアを活用して、総合的な情報発信能力を養い、芸術・デザイン・情報・商業など様々な分野の大学教員の参加により、情報スキルだけでなく幅広い視点からのもののとらえかたやコミュニケーション力を学ぶという布施北デュアル型高大連携を実施している。
○その他の行事等
実習と座学だけでなく、地域の人たちや外部講師による「事前研修」「分野別講習会」「ものづくり体験授業」「社会人講話」「プレゼンテーション講習会」を開催したり、「実習先見学」「協定書調印式」「修了式」などのデュアル関連の行事を実施したり、地域のイベントや施設のボランティア、さらには地元中学校への交流授業に参加したりしていることも大きな特色である。特に11月の「デュアル発表会」では、自信を持ってパフォーマンスを交えて体験発表する生徒達の姿があり、参加した方々からは、「デュアルをくぐることで幅広く社会とのかかわりを見出して成長を遂げている姿に感動した」というような声をいただいている。
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