JAVADA情報マガジン2月号 フロントライン-キャリア開発の最前線-
◆2013年2月号◆
「トランジションとキャリア開発」第3回 |
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career-seeds yamamoto 代表 山本 貞明 氏 《プロフィール》 |
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今回は、現場(3)「企業のキャリア開発研修」の現場からお話します。 シャインによれば、組織がうまく業績をあげ、個人も生産的で満足のいくキャリアを歩むことができるのは、究極的には、組織がもつ絶えず変化する要望とキャリアを歩む個人の抱く絶えず変化する欲求の両者をうまくマッチングする過程の結果です。変化のスピードが速くなるにつれて、このマッチングは以前にも増して困難になってきています。 キャリアを歩む個人は、自分のキャリアや職務になにを求め望んでいるのかを知る責任があります。また、仕事に絶えざる変化がある限り、自分が責任を担う活動や、自分にも関わってくる活動についてよく考える必要があります。 組織の責任は、組織の要望と期待を働く人びとに伝えることです。仕事・職務の情報やキャリアの選択肢が、不充分で表面的で不正確ならば、個人は仕事を適切に遂行できませんし、キャリアの選択もうまくできなくなります。(E.H.シャイン著「キャリア・サバイバル」より) 今回取り上げる企業内の「キャリアデザイン研修」は、以上のような認識のもとに、数年前から実施されています。 この「キャリアデザイン研修」は、職業人としてもほぼ中間点にあたる概ね40歳前半の社員を対象に行われ、3日間の宿泊研修で20名前後の方が参加されます。これまでのキャリアを振り返り、環境変化の理解を深め、これからのキャリアを考える、以下のようなプログラムです。受講者はグループに分かれ、各グループをファシリテーターがサポートします。
○この研修の受講者のEさんの事例を取り上げます。Eさんは、46歳(男性)で、現在監査部で内部統制の監査を担当しています。 Eさんの事例は、組織からの異動命令で、仕事の業務内容が大きく変わった事例です。組織からのミッション・役割・期待・責任が大きく動きました。Eさんにとっては、予期しなかった「トランジション」に遭遇したことになります。
■研修1日目研修については、異動したばかりで今後をどうしようかと思っていたので、先々を考える機会と捉えていました。初日のグループミーティングで、自分の現状や今後への迷いを率直に語りました。内的キャリアのアセスメントなど前向きに取り組まれました。 ≪個別面談での話≫入社以来、システム構築に携わってきた。半年前に突然異動となり、戸惑っている。内部監査(業務監査)を行うことになり、何もかも初めてで、勉強しなくてはならないことばかりで大変であり、モチベーションが上がらない。 このまま今の仕事が続けていけるのか不安である。内部監査に関する知識などの勉強にも励んではいるものの、どうしたらいいのか迷っている。 ≪Eさんの行動特性と内的キャリアの確認≫エゴグラムではCP(Critical Parent批判的な親の心)とA(Adult 大人の心)が高く、NP(Nurturing Parent保護的な親の心)は中程度で、Eさん本人としては、CPの高い点などはとても納得しており、他も違和感はなかったようです。キャリア・アンカーでは、「自由・自律」がかなり高く、Eさんも納得しており、キャリア・アンカーと見てよいと思われました。他の指向性では、「特定専門の追求」や「総合管理」も比較的高く指向性はあると思われ、Eさんも指向性があると考えていました。 Eさんは、以下のように仕事のやりがい(内的キャリア)を語りました。 シャインは、キャリア・アンカー(内的キャリア)の重要性について述べています。
■研修2日目キャリア資産棚卸(経験・知識・能力の把握)やグループワーク(環境変化の把握)などに意欲的に取り組まれました。ワーク後のグループでのシェアリングでも積極的に発言し、論理的に話そうとする方でした。 ≪個別面談での話≫営業とSEの違いはあるが、お客さんから信頼され頼りにされることが嬉しいし、そのために一生懸命やることが自分のためにもなると思う。 ≪Eさんの知識・経験・能力の確認と環境の変化への認識の深耕≫ワークなどで行った質問とEさんの答えです。
■研修3日目監査部で自分に何ができるのか?何が求められているのか?を踏まえ、3年後、5年後にどのように働いていたのかをキャリア・ビジョンとして描きました。方向性を決めるのに苦労しましたが、一度決断するとビジョンやビジョン達成への行動計画などしっかりとアウトプットしました。 ≪個別面談での話≫あらためて自分のキャリア、自分の考え、やる気を振り返ることができた。何故自分が営業に異動し、さらに監査部に異動することになったかははっきりとは分からないが、監査部で自分ができることがあるのではないかと思えるようになった。会社からの期待や役割を明確にする必要があると思う。 監査部でまず自分の存在価値を上げることが先ではないかと思う。その方向でこれからのキャリアを考えることにした。自分の持っているものを活かせるところもあると思うし、SEや営業の経験がプラスにもマイナスにもなると思うが、できるだけプラスにもっていきたい。監査部で、自分としてやってみたいことは見えたように思う。 ≪Eさんとして、5年後のキャリア・ビジョンと行動計画をデザイン≫
今回のEさんの事例は、異動という組織からの期待・役割の変更という「トランジション」に遭った時にどう対応したかという事例です。個人の能力・知識・経験と仕事への価値観・動機を確認することは必要です。しかし、それだけでは生き残っていくことはできません。変更になった組織からの期待・役割をしっかり把握することが不可欠です。時には、個人のできることやりたいことを踏まえて、環境変化の中で、個人自ら組織の期待・役割を創造していくことが求められることもあります。 社会や組織からの期待・役割・Mustなどの変更という「トランジション」に対して、柔軟に対応することが、新たなキャリア開発に繋がっていくと考えられます。逆に言うと、新たなキャリア開発が、変化の中で生き残っていくには重要であると考えられます。
■最後に金井壽宏先生の言葉をご紹介します。「だれもが自分らしく生きたいと思っているし、また、働く環境にうまく適応していきたいと思っているはずです。
【参考文献】 「キャリア・サバイバル」(E.H.シャイン著) 「キャリア・デザイン・ガイド」(金井壽宏著)
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