JAVADA情報マガジン フロントライン11月号-キャリア開発の最前線-

2012年11月号

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中小企業の人材から人財への道しるべ
第4回 人を育てる~人が育つ・人が育った~

栗田アルミ工業株式会社
  KPS・ISO推進室 人財育成チーフマネージャー 勝山 勲 氏 《プロフィール

私の「フロントライン」への執筆も、今回が最終回となります。お陰様で全4回を書き続けることができました。私自身が、日々の業務において、感じ、考え、実践・行動してきたことを端的に表すと、それは「トップ(経営者)の想いをどのようにして具現化するか」に尽きます。これまでのフロントラインの記事の中で、皆さまもお感じになっていることかと存じます。

 

○人材育成の問題と悩み

人材育成には、これだという「決め手」がないのかも知れません。言葉では簡単に言えても、いざ計画や実施の段階になると、「費用」、「時間」、「経営状況」、「トップの考え・想い」、「経営環境」など様々な局面に突き当たります。これに加えて、本人の「資質」、「気構え・心構え」、「モチベーション」などが、企業内において複雑に絡み合ってきます。そしてその結果、「人を育てる」ことが難しいとの結論に至ってしまう。特に、中小企業における人材育成では、このような問題や悩みを抱えている企業が少なくないと感じています。

最近では、男女雇用機会均等法の改正による「男女間の差別是正」、障害者法定雇用率の変更による「障害者雇用の促進」、定年延長による「高年齢者継続雇用」、育児・介護休業制度などについても見直しされてきております。これらの変化は、日本的経営手法の原点である"人"を「永続的に大切にしなさい」ということかも知れません。

これらの変化を、企業の社会的責任・経済的責任として避けて通れないことであるとするならば、前向きに捉えて、会社の成長につながる「人」の育成について強い信念を持って取組むべきと考えております。

 

○人を育てる

気付きを重点とした「人」の育成については、いろいろの手法があるかも知れません。まずは、私個人の信条としての「仕事の10カ条」についてご一読をいただいて、自分に振り直していただくと「人材育成」の難しさを、よりお解りになるのではないでしょうか。

 ■「仕事の10カ条」  

 (い) 1 いやな仕事は先に片付ける。

       (お客様は待ってくれない。難題な仕事ほど先に手がけ、期限を守れ。)

 (き) 2 決められたこと、決まったことはやり抜く。

       (当たり前のことを、当たり前にやることが難しい。)

 (た) 3 担当業務のプロになれ。

       (二流・三流に甘んじるな。一流を目指せ。)

 (ち) 4 知恵と工夫と努力を惜しむな。

       (人生一度限り、努力は必ず報われる。)

 (し) 5 仕事は追われるのでなく、追いかけろ。

       (あきらめず考え、実践・行動しながら、また考え進化していく。)

 (お) オン ザ ジョブ (On The Job)  仕事上の基礎的「気構え」・「心構え」

 (あ) 6 明るくのびのびと。

       (元気な挨拶が大切。「千万人といえども、我行かん」。良いと思った事はやり通せ。)

 (き) 7 危機意識を持て。

       (リスクは、いつでも・どこでも・身の回りにもある。)

 (わ) 8 悪い情報は早く。

       (対岸の火事と思うな。あえて火中のクリを拾い、火の手は早く消す。)

 (は) 9 反応は素早く。

       (言われたこと・思った事・考えたことなど即行動に移し、実践しながら次の

               一手を考える。)

 (じ) 10 時間を大切に。

       (1日/24時間、1年/8,760時間 365日を変えることは出来ない。人の一生は、

       宇宙時間の瞬きさえできない。)

「いきた血潮、あきわはじ」で暗記し、常に自分に言い聞かせ「実践」と「行動」によって、願いが叶えられる「よい人財」になりたいものです。

 

○人が育つ

「仕事の10カ条」から導き出された「良い人財になるための10カ条」の行動と考動については、第2回の記事でも報告させていただいておりますが、総合考課表によって「気づきの視点」として自己評価項目としています。

 ■「良い人財になるための10カ条」

 (あ) 1 朝のあいさつが、明るく大きな声で、元気にできている。

       (いつでも、どこでも、誰にでも)

 (い) 2 言われて行動するのでなく、自分で考え考動できる。

 (し) 3 仕事は最後までやり終え、約束した期限、期日を厳守している。

 (き) 4 決められたこと、決まったことをやりぬいている

 (す) 5 進んで協力して、組織全体の能率向上に貢献している。

 (じ) 6 自分の職責・役割・周りの期待を十分に理解し、考動している。

 (み) 7 ミスやクレームなどの「報・連・相」(ホウレンソウ)がキチンとできる(含む処理)。

 (つ) 8 常に「どうしたらできる?)を考え、考動している。

 (つ) 9 常に問題意識を持ち、チャレンジ精神で前向きに取組んでいる。

 (ひ) 10 必要な知識・技能を常に習得しようと努力している。

 (び) 備忘録「人財」: 「愛しき筋見つつ日々」で暗記

社長の想い」・「経営理念」・「仕事の10カ条」・「良い人財になるための10カ条」・「6S」(5S+スピード)などをカード化し、社員の「安全」・「安心」も含めた「BCP携帯カード」を全社員に配付して、啓蒙促進しているところです。

 ■一番大切なのは、「企業の三つの責任」(第一回記事で詳記)

 1  社会的責任               

 2  経済的責任                    

 3  製品・製造・販売に関する責任                    

この3つの責任を経営管理層から社員の末端まで理解し、共通認識を持ち、いかに心を一つにして経営を営んでいるかが重要。このことは就業規則の冒頭で、社長自らが「社員と共に企業理念達成のため」より良い 就業規則に改善をつづけるとして署名捺印していることにより、社員はその重要性を理解しています。

就業規則第4条では、就業規則は会社と社員が相互に守るものとしており、定年については、60歳を過ぎたなら自らが熟知・熟慮のうえ自分で決めてよいとしています。それと同時に、高齢化・育児介護なども含めたワーク・ライフ・バランスを考慮した短時間勤務・一週間の出勤日数調整も個別相談で、それぞれの事情に応じて臨機応変に対応してきています。

教育研修・自己研鑚の費用は、原則として全額会社が負担する就業規則となっており、また、前回記述したとおり、消滅する有給休暇については、「年次有給休暇積立制度」を導入して、自己啓発などに利用できることになっております。

以上のように、「人」を大切にする会社の基本姿勢と「人材育成」に関わる会社の組織体系は整備されており、「人が育つ」環境が出来上がりつつあるものと確信しております。

 

○「人が育った」~ 老人と年寄の違い

老人と年寄の違いについて、定かな定義はないようです。私流には、「老人」=記憶力・理解力・判断力が衰退し、且つ、チャレンジ精神・向上心・探究心・情熱などが弱まった人と思っておりますが。一方、広辞林で「年寄」をひもとけば、相談にあずかる役・力士が引退して、力士を統括する役についたものなどと書いているように、その道のベテランを年寄と解釈することができます。

「年寄」に共通していると思えることは、肉体は年々衰えて行くが、若さのバロメーターでもある、向上心・探究心・情熱・チャレンジ精神などを旺盛に持ち続け、研究熱心でもあり、総じて「元気」である。よい意味での「若い者には、まだまだ負けられぬ」という年甲斐を感じさせてもいる。

人は誰でも平等に1年ごとに年をとることになりますが、野球でも相撲でも、サラリーマンの世界にあっても、いずれは引退を余儀なくされます。しかし、私個人は、"これでいい"と思った時から、「老人」への道が始まるのでないかと考えております。

人材育成の担当者も同様に、「人が育った」と思った時から、退化がはじまるのであり、「まだまだこれからだ」と、さらなる向上を模索し、常に進化していく「気構え」・「心構え」で「生涯現役」を目指したいものです。

 

○これまでを振り返って

少子高齢化・人口減・低成長・税収不足・グローバル化などから、経営環境が激変しています。加えて2008年のリーマンショックや先の東日本大震災によって、中小企業の経営は一段と厳しさも増しています。こうした厳しい環境の中で、当社は、経営開示、共通認識の醸成、就業規則の全面改訂、人材育成の整備などを、その必要性の認識を基礎に、これまで進めてまいりました。

中小企業における人材育成について、企業単独で計画し、実践行動に移すには、企業内の環境づくり、費用の充足、専門担当者の養成や確保など、その推進面に問題は少なくないものと思っています。しかし、一人一人の力には限りがあるものですが、プロジェクト化することによって、より強い集団を組成できます。そうしたことも踏まえて、この4回に亘る記事が活かされることを願ってやみません。                        

最後にこれまで当社の「人財育成」に携わっていただいた関係機関、ご相談などに快く「感じて」・「考え」・「行動実践」に御助力をいただいた専門家の方々に厚く御礼申し上げます。ありがとうございました。




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